昨今、多くの企業がDXの推進に取り組んでいますが、そもそも日本にDXという言葉が広まったきっかけは経済産業省が2019年に公表した「DX推進ガイドライン」です。本記事では、経済産業省が進めるDXの概要と、その推進ガイドライン、そして「DXレポート2」の内容をわかりやすく解説します。
経済産業省のDX推進における3つのポイント
まずは、経済産業省がDX推進のために行ってきた取り組みを、大きく3つのポイントに分けて解説していきます。
ポイント①:経済産業省の「DX推進ガイドライン」で日本のDXが広まった
そもそも日本の企業社会で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉が広く知られるようになったのは、2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を公表したのがきっかけです。このガイドラインにおいて、経済産業省はDXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
(引用元:https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf 2ページ脚注)
つまりDXとは、単にアナログな作業をデジタルに置き換えるだけでなく、ICT活用を通して、ビジネスモデル、業務そのもの、組織構造、企業文化などの抜本的な変革を企業に迫るものなのです。DX推進ガイドラインでは、「①DX推進のための経営のあり方、仕組み」と、「②DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」について解説していくことで、DXを企業が現実に実践していくための道筋を示しています。
ポイント②:経済産業省はDXの状況を「DXレポート」でまとめている
DX推進ガイドラインと並んで重要なのが、同じく2018年に公表された「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」という資料です。
注目すべきは、副題にも挙げられている「2025年の崖」という言葉です。この言葉は老朽化した基幹系システム、いわゆる「レガシーシステム」が日本企業に蔓延しており、これが技術的負債となって2025年以降、日本に年間最大12兆円もの経済的損失をもたらすことを指しています。DXレポートで予言されたこの衝撃的内容は、日本社会にDXという概念とその必要性を強く認識させるきっかけとなりました。
経済産業省はその後、2020年に「DXレポート2(中間取りまとめ)」、2021年に「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」を取りまとめています。後述するように、それぞれの資料には、日本のDX推進に関する施策や概況などが説明されています。
ポイント③:企業だけでなく、行政手続きのDX化も目指している
経済産業省が推進するDXの対象は、民間企業だけでなく公的機関が含まれている点も注目に値します。政府はICT活用を通して行政手続きなどの利便性向上も目指しており、2021年には、国や自治体のDX推進を担当する省庁として新たにデジタル庁も開庁しました。
DXが行政手続きに与える変化として、経済産業省は「ワンスオンリー」、「ワンストップ」、そして「民間サービスの連携」を挙げています。役所の手続きにおいては、手続きごとに何度も同じ情報を入力する必要があり、利用者・職員共に非常に不便な思いをしています。
これに対し、ワンスオンリーとは、同じ情報の入力は一度だけで済むようにすること、そしてワンストップとは、関連する手続きは一括で処理できるようにすることです。これによって、利用者はより快適に行政サービスを利用できるようになり、職員の業務負担も大きく軽減されます。
行政と民間サービスの連携に関する身近な例としては、マイナンバーを活用してコンビニのコピー機で住民票などの証明書を入手できるようになったことが挙げられます。従来なら住民票一枚手に入れるためだけに、時間をやりくりして役所に行かないといけなかったのですから、これは大きな改善と言えるでしょう。
経済産業省の「DX推進ガイドライン」は経営者向けの内容
先述のように、DX推進ガイドラインは企業がDXを実現するためのポイントをまとめたもので、主に経営者を対象に書かれたものです。先に挙げたように、DX推進ガイドラインの内容は、DXを実現するための「(1)経営体制」に関する説明と「(2)ITシステム」に関する説明の2つから構成されています。以下、それぞれの内容を簡単に見ていきましょう。
DX推進のための経営体制
まず、経営体制の面から言うと、DXの推進のためには経営者がICTを活用した経営戦略を作成・提示し、その変革に自ら取り組んでいくことが必要とされています。社内に大きな変化をもたらすDXを実現するには、経営者の強力なリーダーシップが不可欠だからです。また、経営者を中心にICTを業務に積極的に組み込むための組織づくりやマインドセット(考え方の切り替え)も重要です。
そして、DXを実現するためのIT投資に関しては、コストや目先のリターンばかりを気にして消極的にならないよう、長期的・総合的な視点を持って挑戦的に行うことが大切であるとされています。また、DXを推進していく上では、その変革が経営判断の迅速化など、自社のビジネスにしっかりプラスの影響が出ているか継続的にチェックしていくことも重要です。
DX推進のためのITシステム
DXを実現するためには、効果的なITシステムの導入・構築も欠かせません。ITシステムの構築においては、その適切な運用のために必要な体制・人材・ガバナンスを確保できているかが最初の争点になります。日本では、ベンダー企業にシステム構築を丸投げすることも多いですが、全社的にDXを進めるためには、自社(自部門)にはどのようなITシステムが必要なのか、要件定義などをしっかりユーザー企業自身が行うことが大切です。
また、システム刷新などの実行プロセスにおいては、まず自社のIT資産の分析・評価や、仕訳を行わなければなりません。そして刷新すべきは刷新し、廃棄すべきは廃棄していきます。システム構築において大切なのは、部門横断的なデータ活用が可能になるような全社的に最適化されたシステム構成にすることです。
さらに、刷新後のシステムを評価する際には、ITシステムがうまくできているかどうかではなく、そのシステムが自社のビジネスにうまく適合しているかどうか、自社のビジネスに貢献しているかどうかを見ていきます。というのも、DXの目的とはITシステムの導入そのものではなく、その活用を通してビジネスモデル等の変革を行うことにこそあるからです。
なお、DX推進ガイドラインには、ここまで紹介した各ポイントの理想例と失敗例が端的にまとめられています。DXを推進する際には、それぞれの事例も参考にするとよいでしょう。
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経済産業省の「DXレポート」のポイント2つ
続いては、2020年に経済産業省が公表した「DXレポート2」および「DXレポート2.1」の内容を簡単に解説していきます。
ポイント①:DXレポート2は企業がとるべきアクションと政策を具体的にまとめたもの
まず、DXレポート2の目的は、日本社会におけるDXをさらに加速させることです。この背景には、経済産業省がDXレポート公表後、DX推進指標やデジタルガバナンスコード(DX銘柄、DX認定)などの策定など、DXを推進するための取り組みをしたものの思うような効果が出ていないことがあります。そこでDXレポート2には、「超短期」「短期」「中長期」に分けて、DXの実現のために企業が取るべき施策内容がまとめられています。
- 超短期的な施策
DX推進のためにすぐにでも実行できる超短期的な施策として挙げられているのが、市販製品サービスを導入し、業務のオンライン化や業務プロセス等のデジタル化を進めることです。併せて、DXレポート等を参照し、DXへの理解を深めることもここに含まれます。 - 短期的な施策
短期的な施策としては、DX推進体制の構築、DX戦略の策定、DX推進指標などを用いてDX推進状況を定期的に把握することなどが挙げられます。これらは先に説明した「DX推進ガイドライン」とも共通する部分です。ただし、DXレポート2が公表された時期には既にコロナ禍が発生していたため、DX戦略の策定等にあたっては、その環境変化を踏まえたものにする必要があることが指摘されています。 - 中長期的な施策
中長期的な施策としては、急速な市場変化に合わせてタイムリーに商品・サービスを提供するための内製アジャイル開発体制の構築や、ベンダー企業とユーザー企業の垣根をなくして対等な立場でDXを推進していくパートナーシップを構築することが挙げられています。これらを実現するには、デジタルプラットフォームの形成や、社外も含めたDX人材の確保が必要です。とりわけ不足しがちなIT人材を確保するには、ジョブ型雇用制度の積極活用など、組織体制そのものの再検討や変革も求められるでしょう。
ポイント②:2021年にDXレポート2を補完する「DXレポート2.1」が公表される
DXレポート2.1は、先のDXレポート2で詳しく説明できなかった「DXが成功した後の新たな産業の姿や、企業の姿」を経済産業省が示した補完資料です。つまり、ここにはDX推進を通して目指すべきデジタル産業・デジタル社会の姿が描かれています。
「デジタルケイパビリティ」という言葉が強調されています。これは「価値を創出するための事業能力」(ビジネスケイパビリティ)を「ソフトウェアによってデジタル化したもの」と定義されています。
(引用元:https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-1.pdf 9ページ)
DX企業はこのデジタルケイパビリティの活用を通して、他社や顧客とのつながっていき、顧客体験価値の向上やビジネスの迅速化に取り組んでいくことになるでしょう。
まとめ
「DX推進ガイドライン」や「DXレポート2」には、企業がDXの実現のために取り組むべき具体的な施策内容のヒントが示されています。DXに取り組む際には、これらの資料を参考にすると、よい結果を出しやすくなるでしょう。
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