働き方改革関連法によって、中小企業にはさまざまな影響が出る(あるいはすでに出ている)と想定され、その対策が急務とされています。当記事では、働き方改革関連法の概要をまとめた上で、具体的にどのような影響が考えられ、またどのように対策すべきかについて解説します。
働き方改革関連法とは
「働き方改革関連法(正式名称「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」)」とは、文字通り、働き方の改革を進めるための法律です。
現代の日本では少子高齢化が進み、労働人口が減少し続けています。また少子高齢化により、育児や介護をしながら働きたいというニーズが増えているものの、そのための環境が整っているとはいえません。職場で長時間労働を強いられたり、正規社員・非正規社員との間に大きな待遇格差があったりなど、解決すべき課題は山積みです。
働き方改革関連法は、こうした現代の日本の状況を背景に、労働者が個々の事情に応じて多様な働き方を柔軟に選べる社会の実現を目的としています。
こちらの「【3分でわかる】働き方改革とは?」もぜひご覧ください。
働き方改革関連法のポイント
働き方改革関連法の項目のうち、まずポイントとなるのは賃金や待遇に関する内容です。残業で生じる割増賃金や、正規社員・非正規社員の待遇格差に関して定められています。次にポイントとなるのは、労働時間や休暇に関する内容です。簡単にいうと、長時間労働が抑制される上に、社員が適切に休暇を取る必要があります。その他、働く環境に関する複数の項目が定められています。
以下、賃金・待遇に関する項目、労働時間・休暇に関する項目、その他に分類して一つずつ簡単に解説していきます。
賃金・待遇に関すること
労働基準法では、月間60時間以内の時間外労働については本来の賃金の25%以上、月間60時間を超える分は50%以上の割り増しをすると定められています。しかし、中小企業についてはこれまで、月間60時間超でも25%以上の割り増しでよいと猶予されていました。
働き方改革関連法では、この猶予が廃止され、月間60時間超の時間外労働については50%以上の割り増しを義務付けられました。
また働き方改革関連法は、正社員と非正規社員(パート・アルバイト・派遣社員など)の不合理な待遇差についても是正を求めています。これまでは、正社員と非正規社員が実質的に同質の仕事をしているのに、不当な待遇格差がつけられているようなケースが間々見受けられました。
そこで働き方改革関連法(「同一労働同一賃金」)では、同じ仕事をしていれば正社員・非正社員に関わらず同じ賃金を支払い、同じ待遇を用意しなくてはならないものと定めています。
育児や介護などの理由から、それぞれのライフスタイルに適した環境で仕事をするために、あえて非正規雇用を求める方も少なくありません。そうした方々が賃金面・その他待遇面で不合理な処遇を受けないように抑制しているわけです。
なお「高度プロフェッショナル制度」といって、研究開発やアナリスト・コンサルタントなど一部業種で、なおかつ年収1,075万円以上の労働者に関しては、上記制度は必ずしも適用されない場合があるので注意してください。対象となる業種は、労働時間に関わらず成果によって高い賃金を得られる場合もあります。高度プロフェッショナル制度は、労働者が希望にあった働き方をするための選択肢の一つです。
労働時間・休暇に関すること
働き方改革では、長時間労働を抑制する(「時間外労働の上限規制」)ことによって、ワークライフバランスの改善を目指しています。労働時間の適正化により、仕事と家庭の両立ができて女性が働きやすくなるだけでなく、高齢者も仕事につきやすくなるのがメリットです。
具体的には、時間外労働に関しては月間45時間・年間360時間までに抑えなくてはなりません。なお、特別・臨時の事情があり、企業側と労働者が合意していたとしても、年間720時間以内・複数月平均80時間以内(2~6ヶ月平均が全て80時間以内)・月間100時間未満を超えてはならないとされています。
さらに、より労働時間を柔軟に選択できるように、「フレックスタイム制の拡充」が行われました。従来、フレックスタイム制による労働時間の調整が可能な「清算期間」が1ヶ月間だったところ、3ヶ月に変更されています。
また休暇について、年間10日以上の有給休暇を社員に付与している場合、年間5日間の有給休暇を確実に取得させなくてはならない(「年5日の年次有給休暇の確実な取得」)としています。たとえば、社員が自発的に年間3日間の休暇しか取らなかった場合に、企業は社員と相談の上で、残り2日間の有給休暇を取得する日を決めなくてはなりません。これを「時季指定」と呼びます。
その他、働き方改革関連法では、就業時間と翌日の始業時間の間に、一定以上の休息時間である「勤務間インターバル」を設けるように求めています。これは、過重労働によって健康被害が生じないようにするためと、間接的に長時間労働を抑制するのが目的です。
その他の事項に関すること
働き方改革関連法では、労働時間や休暇、待遇以外の面でも労働環境の改善を進めようとしています。その一つが、企業が社員の健康を守るために設けた産業医・産業保健機能の強化です。
具体的には、産業医が労働者の労働時間など、健康管理を行うのに必要な情報を得られるようにします。また産業医は、診断結果をもとに、企業へ労働時間の改善などの勧告を行うことが可能です。企業側はその勧告に従わない場合、その理由を記録した上で3年間の保存が求められます。加えて衛生委員会への報告も必要です。
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働き方改革関連法の中小企業への施行タイミング
中小企業において、働き方改革関連法で特に気を付けなければならないのが、施行のタイミングです。項目ごとに施行時期が異なる上に、大企業と中小企業でもそのタイミングが異なる場合があります。また、項目によっては中小企業に猶予期間が設けられているものもあります。
以下、各項目について施行のタイミングをまとめてご紹介します。
- 時間外労働の上限規制
大企業:2019年4月
中小企業:2020年4月 - 月60時間超の残業の割増賃金率の引上げ
大企業:導入済
中小企業:2023年4月 - 同一労働同一賃金
大企業:2020年4月
中小企業:2021年4月 - 高度プロフェッショナル制度
大企業・中小企業共に2019年4月 - 年5日の年次有給休暇の確実な取得
大企業・中小企業共に2019年4月 - フレックスタイム制の拡充
大企業・中小企業共に2019年4月 - 勤務間インターバル
大企業・中小企業共に2019年4月 - 産業医の機能強化
大企業・中小企業共に2019年4月
働き方改革関連法が中小企業の労務管理に与える影響
働き方改革関連法は、中小企業にどのような影響を与えるのでしょうか。
まず「時間外労働の上限規制」については2020年4月に施行されており、中小企業ではすでに影響が出ていると考えられます。勤怠管理システムを導入するなどして、労働時間の管理をしっかり進めることが必要となっています。その上で、仕事の効率化・生産性の向上を目指し、短くなった労働時間の分をカバーしなくてはなりません。
また、割増賃金率がアップすることによって、その分のコストが増えることになります。給与計算が煩雑になってしまうことから、現実的には時間外労働が60時間を超えないよう労務管理が必要となるでしょう。
有給についても、2019年4月から年5日以上の取得が必須となっています。社員同士で有給の時期が被って業務に支障が出ないよう、計画的に取得してもらうべく調整が必要となっていることが考えられます。仕事の効率化などで、その影響を最小限にとどめる工夫も必要です。
また、2021年4月に迫る同一労働同一賃金の施行に関しても、中小企業に少なからぬ影響が生じると想定されます。まず、自社の社員の雇用形態や待遇について、正規社員・非正規社員の間でどのような差異があるかまとめることが必要です。その上で、差異があるならその理由を明確にしておかなくてはなりません。逆に、差異がないのに賃金に差があるなら是正をする必要があるため、企業によってはコスト増になると想定されます。
まとめ
長時間労働の抑制や残業の割増賃金率引上げなど、働き方改革関連法によって中小企業が受ける影響は少なくありません。その影響を抑え、社員が働きやすい職場を作るためにも、業務の効率化や生産性の向上などの必要性が増しています。すでに施行済みのものや、これから施行されるものに関しても、早急な対応が求められるでしょう。
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