昨今よく聞く「働き方改革」。実際にはどのようなことが行われ、その政策は私たちの生活にどのような変化をもたらすのでしょうか。この記事では、それぞれの生活に置き換えられるように、簡単にわかりやすくまとめました。働き方改革の背景から、順を追って説明します。
働き方改革の目的
「働き方改革」とは、政府が掲げる「一億総活躍社会」に対する勤務環境の大幅な改革のことを指します。これは働き手の視点に立った労働制度を導入しつつ、今ある企業文化を変えていこうとする取り組みのことです。今を生きる私たちに合った環境や条件の元で働くことで、「働きやすさ」を感じながら、精神的にも経済的にも整った社会の実現を謳っています。それにもかかわらず、決められた時間での出退勤、雇用形態による待遇の違い、個々の能力が正しく評価されていないなど、現代に適していない状況下で蓄積されている問題は数多くあります。その解決のために、もっとそれぞれの生活に合った働き方にシフトチェンジしていこうという取り組みが働き方改革なのです。改革により、国においては労働者の増加から税収増、企業においては労働力の確保と生産性向上が期待されています。
働き方改革が推進される背景
ではなぜ今このような政策が必要なのでしょうか。その背景には、私たちの生活の変化や、人口ピラミッドの推移が挙げられます。
少子高齢化が進む日本の社会では、労働力の主力である生産年齢人口が減少し、下降の一途を辿っています。出生率も下降しているため、未来の労働力も必然的に期待できません。そこに比例するように介護が必要な高齢者が増加しています。
そのような状況の中、今の社会で働く世代は、育児や介護に向き合いながら働きに出ている人が大勢います。フルタイムで働くこともできず、非正規雇用で生活を営む方がいる反面、時間・場所に限りがあっても、労働力・技能を持っている方は少なくありません。しかし、今の社会では働く環境が整っていません。個々が力を発揮し、賃金を得られる場所がないのです。
また、長時間労働や職場のストレスが原因で、過労死や自殺といった事案も近年急増し、問題視されています。海外でも、長時間労働は改善の余地があるとされていますが、日本の状況は群を抜いて劣悪です。過去には、犠牲を払ってでも働くことが美学であるとされる日本独特の根強い考え方がありました。その影響から、現在でも残業はもとより、出張や異動にもNOと言えない風潮が残る企業もあります。
このような悪習ともいえる考え方を根本から変えていくことは、法的ではなく精神的にも確かに困難ではあります。けれども、人権を尊重した環境、個々の事情に合った労働時間、勤務場所、多様な雇用形態を確立させるため、「働きやすさ」を求めて改革を進めることは、現代の日本経済において急務なのです。
働き方改革の主な課題
働き方改革を行おうにも、当時の日本には、改革をすんなりと達成できる環境が整っていませんでした。そのため、働き方改革は段階を踏んで、少しずつ歩みはじめています。ようやく進みはじめた働き方改革の主な課題は、「長時間労働の是正」「雇用形態間の格差解消」「働き方の多様化・柔軟化」です。
長時間労働の是正
日本における長時間労働については2013年に国連から是正勧告が出される事態にまで発展しました。特に30代~40代の働き盛りと言われる世代は長時間労働が顕著であること、さらに、年齢層を問わず、職場の精神的ハラスメントによる自殺の発生が続いていることを指摘されています。
法定労働時間を超える時間外労働・休日労働が必要な場合、労使間で36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を結び、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。ところが、改革前の36協定では労使間で合意さえあれば、無制限に何時間でも残業ができていたのです。働き方改革以降、年間で720時間、月間で100時間未満(休日労働を含む)、2か月~6か月の時間外労働平均時間で80時間(休日労働を含む)を限度とすることとなりました。
さらに全労働者の勤務時間の把握や、有休の取得の義務化も進められています。10日以上の年次有給休暇が付与されている全労働者に、管理者は時期を指定したうえで年5日の年次有給休暇を与えなくてはなりません。
また長時間労働による精神的ストレスの把握・緩和のために、事業者は、衛生委員会に対して産業医が労働者に行った健康管理等の内容を報告することが義務化されました。それに伴い、求められる情報を産業医に提供する必要があります。
雇用形態間の格差解消
派遣労働者やパート・アルバイト労働者といった非正規雇用労働者と、正規雇用労働者の格差を解消しようという動きが強まっています。厚生労働省発表の「令和元年賃金構造基本統計調査」によると、非正規雇用労働者の平均賃金は正規雇用労働者を100として比べると64.9(男女計、211.3千円)です。男女別でみると、男性では66.8(234.8千円)、女性は70.2(189.1千円)でした。
この数値だけでも、非正規雇用と正規雇用における不平等さは歴然ですが、この傾向は大企業から中企業、小企業へ対象を移すごとに顕著になっていきます。そこで「同一労働同一賃金」や「非正規雇用労働者の正社員化」など、雇用方法に限らず同等の評価や待遇がなされるような政策の取り組みが2020年4月(中小企業は2021年4月)から徐々に始まっています。携わる業務や人事異動の範囲等が同一の場合、企業は均等待遇を行わなければなりません。業務内容等が異なる場合は、均衡待遇の確保が義務づけられます。
なお、非正規雇用労働者が、正規雇用労働者との待遇差やその理由等の説明を受けたいと申し出た際は答える義務が企業側には生じます。このことにより、労働者は待遇に関する情報を得ることができ、より自分に合った働き方を選択することが可能になるでしょう。
働き方の多様化・柔軟化
フルタイムではない短時間勤務者の正社員化や、65歳以上の再雇用が進んでいます。内閣府が発表した「平成30年度 世論調査」では、特に高齢者に関しては37.6%、全体の約4割が65歳を過ぎても働きたいと回答しています。
そこで継続雇用や延長、高齢者の仕事マッチング支援など、働きたい人が働ける社会の実現に向けて、雇用の柔軟化が加速しているのです。少子高齢化が進む中、老年人口は2060年には3,500万人にのぼると推測されています。定年の延長や再雇用といった高齢者の雇用の幅を広げることは、シニア層が働くことのできる社会を実現し、労働力の確保にもつながるのです。
また、出産・育児・介護など、特に女性ならではのライフステージの変化に対し、退職することなく柔軟に働き続けられるよう、テレワークや時短勤務でも正規社員と同じ待遇の中で働けるよう整備した企業も徐々に増えつつあります。さらには副業や兼業など、今まで禁止されていた働き方を開放していく動きも活発化しています。このように、働き方改革が叫ばれるようになってから、様々な確かな変化が起きているのです。
働き方改革関連法について
働き方改革関連法とは、働き方改革を実行するために施行される法律のことです。働き方改革一括法とも呼ばれ、「労働基準法」「労働安全衛生法」「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」「じん肺法」「雇用対策法」「労働契約法」「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」「労働者派遣事業の適正な運用の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」の8つの労働法を改正するために作られました。
既にスタートしている年次有給休暇の取得、フレックスタイムの拡充、勤務間インターバル制度の導入促進、高度プロフェッショナル制度の創設、労働時間の把握、産業医の強化大企業をはじめ、大企業では既に導入済みの時間外労働の上限規制は、中小企業では2020年4月から実施されます。2023年4月からは、大企業では既に導入されている残業の割増賃金率の引き上げも、中小企業でスタートです。
専門家による相談窓口も設けられ、そこでは、人員不足や生産性についての問い合わせができるようになりました。働き方改革推進支援センターでは、無料で社会保険労務士などに改革に関する相談を行えます。
さらに65歳超雇用推進助成金やキャリアアップ助成金など、金銭的な援助のシステムも確立しています。上記のように、現在進行形なものも含め、向こう3年以内には大企業、中小企業で様々な法案が施行されます。働き方改革の波に乗り遅れないようにしましょう。
まとめ
最近よく耳にする「働き方改革」ですが、実際の生活の中で実感しているという方はそう多くはないかもしれません。しかし、関連法など確実に改革は進んでいます。新しい社会の在り方について知り、理解することで、より充実した生活を送りましょう。
- カテゴリ:
- 働き方改革