予測不可能な時代を迎えた今、従来の常識を覆す経営戦略があらゆる企業に求められています。しかし、企業の大規模な変革は社員に大きな負荷がかかり、反発や離反を招くおそれもあるため、慎重に進める必要があります。そこで本記事では、変革をスムーズに進めるための手法「チェンジマネジメント」について解説します。
チェンジマネジメントとは
「チェンジマネジメント」とは、組織変革をスムーズに進めるための手法を指します。その歴史は古く、長期的な不況に悩まされていた1990年代初頭のアメリカで、会社経営を抜本的につくり直すため流行した手法「BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング:業務プロセス改革)」が始まりだとされています。また、「社会心理学の父」と呼ばれるクルト・レヴィンによる、「レヴィンの変革モデル」にもその原型が見られます。
チェンジマネジメントの重要性
近年、さまざまな企業でチェンジマネジメントの導入が求められています。その理由はさまざまですが、ひとつには「VUCAワールド」への対応が挙げられます。VUCAとは本来アメリカの軍事用語であり、「変化が激しい(Volatility)」「不確実性が高い(Uncertainty)」「複雑(Complexity)」「曖昧(Ambiguity)」の頭文字をそれぞれ取った、近年の「予測不可能な時代」を指す言葉です。
予測不可能な時代が到来して以降、それまでの概念を覆す新しいビジネスが次々と生まれる一方で、従来のマネジメント手法が通用しなくなったことで頭を悩ませている経営者は少なくありません。こうした目まぐるしい変化を柔軟に受け止め、どのような状況下でも安定して生産性の維持・向上を図るために、チェンジマネジメントの重要性が叫ばれているのです。
また、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進も、チェンジマネジメントが求められる要因のひとつです。近年、感染症対策の一環として、急速にリモートワークが普及しつつありますが、それを支えるのがDXです。デジタルを使いこなし、デジタルならではの価値を経営戦略に取り入れることは、企業にとって大きなメリットをもたらすでしょう。
しかし、経営者がDXの推進を望んでも、従来のやり方へのこだわりなどから、社員が素直に変化を受け入れられない場合も考えられます。組織改革をスムーズに進めるためには、全社一丸となって取り組まなければならず、組織内の認識を共通化することが大切です。その点、チェンジマネジメントは組織の統率に寄与することから、改革に向けた共通認識を示すためにも重視されています。
チェンジマネジメントの手法
チェンジマネジメントにおいては、改革の妨げとなっている要因を排し、前向きな気持ちで改革に取り組める体制の構築が欠かせません。その際、具体的な手法としては、リーダーシップと変革の研究を続けてきたハーバード大学ビジネススクール名誉教授ジョン・コッター氏が提唱する、「変革の8段階プロセス」を参考にするとよいでしょう。
【変革の8段階プロセス】
- 「このままではいけない」という危機感と緊急性を共有する
- 変革を強力に進めるためのチームを結成する
- 5分で話せるほど、明確なビジョンを策定する
- 変革を支える人材を募る
- ビジョンを実現するための障害を取り除く
- 短期的成果を上げるため計画を策定し、実行に移す
- ビジョンが実現するまで改革を進める
- 新しいプロセスを根づかせる
Asanaが考えるチェンジマネジメントの6ステップ
ワークマネジメントツールを提供する「Asana」では、上記の8段階プロセスに基づき、6ステップからなる独自のチェンジマネジメント手法を考案しています。以下では、Asanaが考案するチェンジマネジメントの進め方についてご紹介します。
1. 目的を確認する
チェンジマネジメントを行ううえでは、コッター氏が提唱する通り、まず変革する目的を明確化しなければいけません。その後、変革の成否を判断するための指標を定義し、それらを踏まえた変革プロセスの推進メンバーを集めます。
2. 現状を把握する
続いて、会社が追っている目標とはどのようなもので、現状の達成度合いはどれくらいなのかを社員と共有します。ここを疎かにしてはスムーズな変革など望めないため、全員が現状を正確に認識できるよう努めましょう。
また、変革を実現するためには、いきなり大規模に取り組むのではなく、小さな範囲からスタートするのがポイントです。これにより失敗リスクを最小限に抑えられるため、手堅く変革に取り組めます。たとえば新しいツールを導入する際、まずはデモ環境を構築し、そこでさまざまな実験を試みるなどするとよいでしょう。
3. 最初のワークフローをデザインする
次に、目標を達成するためのフローを、プロジェクトメンバーと足並みをそろえながら決定していきます。大規模な変革につながる行動目標を設定し、どの行動目標がどういった形でゴールにつながるのかをわかりやすく示しましょう。ちなみにAsanaでは、これを「見える化のピラミッド」と呼んでいます。
4. チームの始動、達成を祝う
ここまでの準備が整い、変革のプロジェクトを始動させたら、ひとまずそれを祝し、すべての社員に協力してくれたことを感謝しましょう。同時に、プロジェクトメンバー以外の社員からの質問にも、意欲的に答えるようにしてください。そうすることで各員のモチベーションが高まり、より一体感のある取り組みが期待できます。
5. 将来への準備
新しいワークフローが順調に機能しているようなら、まず目標は達成したとみなしてよいでしょう。次のステップとして、社員からのフィードバックを幅広く集めたり、状況をモニタリングしたりしながら、よりスムーズに仕組みを運用するための準備を整えます。
6. 使用状況の把握と拡大
このステップにまで至ったら、目標に対する振り返りを行います。併せて、すべての社員が物事の優先順位に関する共通認識を持ち、適材適所にリソースが割り振られているかを確認しましょう。
なおチェンジマネジメントは、1回成功すれば終わりというものではありません。その後も継続的に行い、必要に応じてさらなる展開も検討することが大切です。
まとめ
企業における大規模な変革は、どうしても社員に大きな負荷をかけてしまいがちです。それゆえ慎重に進めなければ、社員の協力を得られないばかりか反発・離反などにつながり、変革そのものが頓挫してしまうおそれもあります。そのため、既存のワークフローの見直しや、ITツールの導入によるDX推進といった大規模な変革を行う場合は、BPRなどの流れを汲んだチェンジマネジメントを採用するのがおすすめです。
チェンジマネジメントは、危機感の共有から始める「変革の8段階プロセス」を踏まえて行うことが多いですが、「Asana」のチームが独自に考案したように応用を利かせることも可能です。
またチェンジマネジメントにおいては、すべての社員が変革のプロセスを共有し、足並みをそろえてゴールに向けた行動をとることが求められます。Asanaのツールを導入すれば、変革のプロジェクトそのものを一元管理できるため、全社的に変革を進める助けとなるでしょう。
- カテゴリ:
- BPR・変革管理