トランジション理論(ブリッジス・レヴィンソン・シュロスバーグ)とは?

 2022.05.13  ワークマネジメント オンライン編集部

従業員のキャリア形成を考える際に、「トランジション理論」という理論を応用するマネージャーが増えています。しかしトランジション理論にはブリッジス、レヴィンソン、シュロスバーグと複数の提唱者がいるため、理解に戸惑っている人も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、各提唱者が語るトランジション理論の内容をわかりやすく解説していきます。

トランジション理論(ブリッジス・レヴィンソン・シュロスバーグ)とは?

ブリッジスのトランジション理論

まずはアメリカの心理学者ウィリアム・ブリッジスのトランジション理論から解説していきます。ブリッジスの理論は、キャリアコンサルタントや看護の分野などで主に活用されている理論です。そもそも、「トランジション」とは、日本語にすると「過渡期」や「移行」を意味します。ブリッジスはその理論を通して、キャリアの変化などに際して個人の心に起こる心理的変化を次の3段階のモデルで表しました。

第一段階:何かが終わるとき(終焉)
新しい個人的(心理的)なトランジションはすべて、現在のやり方や在り方が終焉するところから始まります。自分自身の何かを終える、または強制的に終わらされるこの体験は、多くの場合、喪失感につながります。これまで慣れ親しんできた役割や環境がなくなることを受け入れるのは、決して簡単なことではありません。

第二段階:ニュートラル・ゾーン(中立圏)
これまでの仕事・役割・人間関係・信念・価値観等々の終焉が決まった人は、しばしば迷いを感じ、立ち止まります。この段階がニュートラル・ゾーンです。これは新しい何かを模索している状態でもありますが、どのようにその変化に対応すべきか、まだ十分に定まっていないのです。ブリッジスはこの時期を抜け出すために、「一人になれる時間や場所を確保する」「自叙伝を付ける」などの6つのアクションを推奨しています。

第三段階:何かが始まるとき(開始)
新しいあり方を模索する中で、人は新たな気づきや価値観、人間関係などに出会います。そしてこれらの出会いを通して、自分の新しい在り方・やり方を構築していくのです。こうした新しい何かの始まりは、心理的な抵抗や困難をしばしば伴います。しかし、新しいことを始める際に恐怖や不安は付き物です。周囲の助けを借りたり、工夫したりしながら、ポジティブに新たな未来像を築いていくことが大切です。

ビジネスの世界では変化がつきものです。組織の変化が、個人にも変化を強いることはよくあります。このような変化に際して、人がどのような心理的状態を辿るのか理解することは、従業員のマネジメントにおいても有益と言えるでしょう。つまり、ブリッジスの理論は、キャリアの転換期を迎えた従業員のキャリアマネジメントに活かすことができるのです。

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レヴィンソンのトランジション理論

続いては、アメリカの臨床・社会心理学者であるダニエル・J・レヴィンソンのトランジション理論について解説していきます。レヴィンソンにおけるトランジションとは、人間の年齢的変化(ライフステージの変化)において生じる曖昧な過渡期のことです。レヴィンソンは人間のライフステージを約25周年周期で捉え、それぞれの段階を四季の変化に例えるのですが、その合間にはどの季節に属するのか曖昧な5年間のトランジションが3回存在すると主張しました。その具体的な時期は以下の通りです。

  • 成人への過渡期(17-22歳)
    最初の移行期は、17歳から22歳にかけてです。親に保護される乳児期や児童期を経て成年期に差しかかかったこの時期になると人間は経済的にも精神的にも自立することが可能になってきます。この時期は身体的(生理学的)にも大きな変化を伴うことから、精神的に不安定になりがちです。
  • 人生半ばの過渡期(40-45歳)
    40代を超えると、人間は徐々に自分のキャリアや人生の終焉を意識するようになります。そして半ばを超えた自分の人生をある種の焦燥や恐怖を感じながら見つめ直し、このままの生き方を続けていくべきか、それとも新しい道を模索すべきか考えるようになります。若さと老いの狭間にあるこの時期は、人間に様々な葛藤を生じさせ、生き方や人生観・価値観の転換を否応なく迫るのです。
  • 老年への過渡期(60-65歳)
    この時期は、中年期の終わりと老年期の始まりを意味します。この時期には、定年退職を迎える人も多く、それがもたらす生活構造や立場の変化、そして自分自身の大きな変化と向き合わなければなりません。たとえば人によっては、これまでやりたくてもできなかった趣味などに余暇を費やすかもしれません。あるいはほかの人は、現役時代の充実感を忘れられず、無気力になってしまうかもしれません。この過渡期を如何に乗り切るかが老後の人生の質を左右すると言えます。

上記のように、レヴィンソンの理論は年齢的な変化を指針にしたものです。社会構造の変化や長寿化などに伴って、この理論の妥当性がどこまでこれからの時代に通じるかは見極めが必要ですが、レヴィンソンの主張を実感として理解できる人も多いのではないでしょうか。企業においても、従業員のライフステージの変化に合わせた各種施策やケアを行うことは一考の価値があります。

シュロスバーグのトランジション理論

ナンシー・K・シュロスバーグはアメリカの著名なキャリアカウンセラーです。シュロスバーグにおける「トランジション」とは、一言で言えば人生や人間関係などの転機です。具体的には、就職、転職、退職、失業、結婚、離婚、病気、死別などがその代表例として挙げられます。

シュロスバーグは、こうしたトランジションへの対応能力を左右する主要な要因として、状況(Situation)、自己(Self)、支援(Support)、戦略(Strategies)の4つを挙げており、これらを総称して「4S」といいます。これらの4Sを如何に良くするかが、その人のキャリア形成に大きな影響を及ぼすのです。それぞれの簡単な内容は以下の通りです。

  • 状況
    トランジションがどのような文脈やタイミングでもたらされたのかを指します。たとえば、その出来事が自分にとって予定通りか予定外かで、対応は大きく変わってくるでしょう。あるいは他のストレス要因があるか、そのトランジションの影響範囲や期間はどの程度か、自分に責任があるか、その体験が初めてのことかどうかなども対応を左右します。
  • 自己
    トランジションへの対応能力は各個人の属性によっても左右されます。個人の属性とは、たとえば社会的・経済的地位、性別、年齢、ライフステージ、健康状態、民族性などが挙げられます。また、自我の発達段階や価値観などの定常的な心理的要因もここに含まれます。たとえば大人にとって何でもない出来事でも、子どもにとっては大事件ということはしばしばあることです。また、同じ100万円の損失でも、経済的にゆとりのある人とそうではない人とでは、人生に与える影響は大きく異なってしまいます。
  • 支援
    ここには社会的・組織的な支援のほか、家族や友人、同僚などからのサポートも含まれます。ネガティブな出来事が生じたとき、そこから立ち上がれるかどうかは、本人の資質以外にも、周囲から適切なサポートを受けられるかどうかが大きな影響を与えます。たとえば新入社員への研修なども、就職というトランジションをその社員が乗り切るための支援のひとつです。
  • 戦略
    戦略とは簡単に言えば、トランジションへの対応を適切に行うための行動計画やセルフコントロール能力を指します。たとえば、会社から退職を迫られたとき、悲嘆に暮れるばかりの人もいれば、新しい人生を歩むための好機やリフレッシュ期間と捉えて、気持ちをうまく切り替えられる人もいるでしょう。あるいは、転職活動など失業状態を変えるための実質的な行動を取ることも戦略的な取り組みと言えます。

このような4Sによって構成されたシュロスバーグの理論は、従業員のセルフマネジメント能力を高めたり、キャリアの転換をスムーズに遂行するための環境づくりをしたりする際に、有用な示唆を与えます。

トランジション理論とマネージャーに求められる役割

上記のように、ブリッジス・レヴィンソン・シュロスバーグのトランジション理論は三者三葉に異なるものです。しかし、いずれの理論も、キャリア形成を担うマネージャーにとって重要な示唆を与えるものであることに変わりはありません。

たとえば、トランジション理論は企業におけるプロジェクトの終了や、新規プロジェクトの立ち上げ時に活用できます。目標を見失った従業員のモチベーションを喚起し、新たなプロジェクトへ向かわせる際には、ブリッジスやシュロスバーグの理論を参考にして、時機に合わせたサポートをするといいでしょう。あるいは、新入社員や転勤直後の社員など、キャリアトランジション状況に置かれている社員に適切にアプローチすることは、早期退職者を減らす上でも大切です。

また、トランジション理論は、近年増加している燃え尽き症候群へのサポートを考える際にも有用です。レヴィンソンの理論を活用すれば、定年退職する社員のケアなども効果的にできるかもしれません。ただし、トランジション理論を実践する際には、各社員の状態を正確に管理することが必要になります。こうしたマネージャーの仕事を果たす上では、コミュニケーションツールなどの活用も重要になるでしょう。

まとめ

トランジション理論とは、キャリアや人生の節目において人間がどのような心理状態に置かれるか、あるいはどのようにしてその過渡期を抜け出すかを説いた理論です。トランジション理論は従業員のキャリア形成を考えるマネージャーにとっても多くの示唆を与えるものです。

ただし、このトランジション理論を正しく理解したとしても、それだけで従業員のキャリア形成を成功させるのは容易ではありません。当然ですが、キャリア形成を成功させるには、現実に存在する個々の従業員を深く理解することが欠かせないからです。

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