昨今、働き方改革やDX、コロナ禍などの影響を受け、企業は大きな環境変化に晒されています。このような中で重要になるのが、社員がこうした変化に適応できるように、心理的にもサポートすることです。そこで本記事では、変化に晒された人間の心理的過程を理解するためのモデル「チェンジカーブ」と、これを活用した「チェンジマネジメント理論」の解説をします。
チェンジカーブとチェンジマネジメント
まずは、チェンジカーブとチェンジマネジメントの概要を解説します。
チェンジマネジメントとは
チェンジマネジメントとは、効率よく改革を成功に導くマネジメント手法です。昨今、日本の企業社会においてはDXや働き方改革など、仕事の進め方、働き方を大きく変える活動が活発化しています。この傾向は、とりわけ新型コロナウイルスの発生以降、さらに顕著になりました。
しかし、すべての企業がすんなりと改革に成功しているわけではありません。膨大なコストを投資して、最新のシステムや効率的な業務プロセスを導入した企業の中には、なぜか従業員が居心地悪そうにしていたり、古いやり方に固執したりしているといった現象が見受けられます。組織を真に改革するには、システムや業務プロセス、組織構造を変えるだけでは済みません。そこで働く従業員に変化の必要性を認知させ、適応させることも非常に大切なのです。
チェンジマネジメントは、変化が苦手な人や、現状維持を望む人でもスムーズに変革に適応できるように促すための手法です。チェンジマネジメントは、個人単位・プロジェクト単位・組織単位といった異なる規模で実施されます。チェンジマネジメントを進めるためのステップは次の通りです。
【チェンジマネジメントの8つのステップ】
- 変革を動機付ける危機意識を向上させる
- 変革を推進するチームをつくる
- 変革のビジョンを明確化する
- 全社的に変革のビジョンを周知する
- 従業員の自発的な行動を促進する
- 短期的目標を設定し、成功体験を重ねる
- 上記の成果を活用する
- 新たな体制・手法を組織に浸透させる
これらのステップを計画的に進めることで、変革を効率的に進め、その成果を組織に深く根付かせられます。チェンジマネジメントの詳細については下記のページもご参照ください。
「チェンジマネジメントとは?成功するチェンジマネジメントのプロセスを構築する 6 つのステップ」
チェンジカーブとは
上記のチェンジマネジメントを効果的に実施する際に役立つのが、チェンジカーブという心理モデルです。チェンジカーブは、人間が何か大きな変化に適応する際に辿る心理的プロセスを意味します。そもそもチェンジカーブは、著名な精神科医エリザベス・キューブラー・ロスの研究で、がんなどの病で死を目前に控えた人間が自分の死を受容するまでの心理プロセスについての研究を基にして展開された考え方です。
チェンジカーブは、人間が変化に対してどのように反応するかを予測し、その適応に際してどのようなサポートやケアが必要なのかを理解するのに役立ちます。この理論を活用することで、チェンジマネジメントにおいて、対象者がおかれている段階に合わせて適切な対処をしやすくなります。たとえば、従業員のモチベーション低下のタイミングを予想して対処するといったことも可能です。
チェンジカーブにおける段階ごとの対処法
チェンジカーブは、変化に直面した人間の心理プロセスを以下の4つの段階に分類しています。
- 否定の段階
- 抵抗の段階
- 試みの段階
- コミットメントの段階
続いては、これらの4段階の内容と、それぞれの段階に合わせた対処法を解説します。
否定の段階への対処法
チェンジカーブの最初の段階は否定です。受け入れがたい大きな変化に直面した人間は、その出来事が現実のものであることを否定したり、無視したりしたくなるものです。
否定の段階に対する効果的な戦略は、対象者やチームとコミュニケーションできる体制を作り、その変化についての情報提供を行うことです。たとえば、なぜその変革が必要なのか、変革を実施しなかった場合にどのような影響があるのか、そうした情報を丁寧に説明することから始めましょう。ただし、その際は一方的な伝達にならないように心がけ、懸念や不満などのネガティブな意見も含めて、相手としっかり話し合う姿勢をとることが大切です。
抵抗の段階への対処法
チェンジカーブの2段階目は抵抗です。変化を現実のものとして理解し始めると、今度はその変化に対して怒りや抵抗感、落ち込みを感じ始めます。この怒りなどの感情とは、その変化に対応できない、あるいは変化する状況をコントロールできないことによって起こるストレスです。
いくら最初の段階で丁寧な説明をしても、こうした心理的抵抗が起こるのは仕方ありません。これへ対するには、不満や怒りを相手からぶつけられても、それに反発したり動揺したりせず、相手の気持ちに寄り添うことです。相手の主張に一定の理があるのならば、話し合いを通して双方の妥協点を探り、合意形成していくのもいいでしょう。いずれにせよ、腰を据えて相手とじっくり向き合うことが必要です。
試みの段階への対処法
チェンジカーブの3段階目は、試みです。この段階になると、人間はその変化を拒否しがたいものとして認識し、新しい技術や考え方を取り入れ始めます。つまり、変化への適応が始まり、モチベーションが上向きになり始めるのがこの段階です。
この段階では、相手やチームに変革の実行タスクを段階的に試行させ、小さな成功体験を積ませていきましょう。成功を評価する場や、お祝いする場を設けるのも大切です。そうすることで、相手に「自分も変革に参加している」という当事者意識を持たせられ、新しい変革への適応を促進できます。裏を返せば、組織を変革する際には、一度で大きな変化を完遂するのではなく、抵抗感の少ないところ、実現しやすいところから徐々に進めていくのが心理的にもいいと言えるでしょう。
コミットメントの段階への対処法
チェンジカーブの最後の段階はコミットメント、すなわち受容です。この段階になると、変化に対してポジティブな価値を見出し、その変化に積極的に取り組んだり、その変化に自分が適応できていると感じたりするようになります。
ただし、相手がこの段階に入ったと感じ取れるようになっても、そこで油断してはいけません。これはあくまでも、物事がうまく進み始めた兆候にすぎないのです。もしかしたら、ちょっとしたきっかけでネガティブな感情が再び蘇ってくるかもしれません。あるいは、自分自身で思っているよりも大きなストレスを潜在的に感じていて、無自覚に無理を重ねていることもありえます。したがって、コミットメントのプロセスを継続させていくためには、継続的な配慮やケアが必要です。
チェンジカーブを活用する場面
チェンジカーブは、下記のようにチェンジマネジメントが必要とされる場面で活用されます。
- 企業合併や買収が行われるとき
- 組織体制が大きく変化するとき
- 企業文化や価値観が変化するとき
- 新しいツールやテクノロジーを導入するとき
冒頭で述べたように、現在は新型コロナウイルスの影響もあり、社会全体が大きな変化に直面しています。DXや働き方改革などを通して、ビジネスモデル・業務プロセス・働き方を大きく変革しようと取り組んでいる企業も増加傾向にあります。また、日本は高齢社会となり、事業の継承という場面でも、後継者不足という問題が経営者に重くのしかかっている状態です。このような状況を打破するためにも、チェンジカーブやチェンジマネジメントをビジネスにおいて活用する機会はこれからもますます増えていくことでしょう。
まとめ
チェンジカーブとは、大きな変化に直面した人間が、その変化を受容し、適応するまでの心理的プロセスをモデル化したものです。本記事で解説したように、企業における大きな変化に際しては、チームや従業員がその変化を受け入れやすいように、組織的に取り組むことが大切になります。
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