プロジェクトマネジメントにおいて、PMBOKは多くの人が知っている基本です。PMBOKを実践することで、経験の浅いマネージャーでもプロジェクト管理がしやすくなります。本記事では、PMBOKの基本的な内容や特徴について解説します。そのうえで、PMBOKの限界やその対応方法などについても触れます。
PMBOKの基礎知識
1987年、アメリカの非営利団体PMI(プロジェクトマネジメント協会:Project Management Institute)が発表したPMBOK。現在では、プロジェクトマネジメントを行うためには外せない、世界標準のフレームワークとなっています。
PMBOKとは
PMBOKはProject Management Body of Knowledge(プロジェクトマネジメント知識体系ガイド)の頭文字を取った言葉で、ピンボックと呼ばれます。PMBOKはプロジェクトマネジメントに関する手法や知識を体系立ててまとめたものです。
そもそも、プロジェクトマネジメントとは、限られた予算や人材、時間のなかでプロジェクトを遂行するためにプランを練ることや、その実行の管理のことを指します。この業務を担うのがプロジェクトマネージャーです。プロジェクトマネージャーには、プロジェクトを完遂させるために、チームを効率的に動かしていくことが求められ、多くは十分な経験を持った管理者によって行われるものでした。けれども、初めてプロジェクトマネージャーに就任するような若手社員でも、PMBOKに則ってマネジメントを遂行することで、一定の成果を挙げることが可能になります。
2017年発行の第6版が現在もっとも新しいPMBOKですが、内容は4年に一度程度のペースで改訂されています。
PMBOKの特徴
PMBOKの大きな特徴としてまず挙げられるのは、前述したとおり、プロジェクトマネジメントを世界で初めて体系化している点です。それまでのプロジェクト管理は、マネージャーごとに方法や考え方がバラバラで、人によってコスト面を重視したり、スケジュール管理をイメージしたり、とナレッジが集積しづらい側面がありました。PMBOKは「プロジェクトマネジメント」を共通言語化することで、グローバルなプロジェクトを進めやすくしています。
また、従来では品質・コスト・納期のいわゆる「QCD」を重視し、プロジェクトの遂行を管理することが中心でした。けれども、PMBOKでは目標を達成する過程である「立ち上げ」「計画」「実行」「監視および管理」「終結」の5つのプロセスを重要視しています。このプロセスまでも管理する考え方が、次に紹介するスコープ管理やリスク管理などの10の知識エリアにつながっていきます。
PMBOK 10の知識エリア
PMBOKでは、「10の知識エリア」と呼ばれる、プロジェクトマネジメントに関する知識エリアがあります。これらはゴールを構成するQCDの3要素と、プロセスを管理する7つの要素に分かれます。
・統合管理
プロジェクト全体の方針を定め、各目標やプロセスを調整したり管理することが「統合管理」です。9つの知識エリアを文字通り「統合」し、全体を管理します。
・スコープ管理
プロジェクトを実施する「範囲」を明確にし、プロジェクト成功に必要な成果物やタスクを定義します。目標の達成確率を高めるためのマネジメントとも捉えることができ、10の知識エリアのなかでも重要な要素です。
・スケジュール管理
プロジェクト遂行のためのスケジュール管理や、より生産性の高い時間の使い方を目指す分野です。機械的なスケジュール管理だけでなく、時間あたりの成果を高めるためのマネジメントでもあることがポイントです。
・コスト管理
プロジェクトにかかる費用を予算内の金額に抑える分野です。そのために、全体の予算設定や必要なコストの見積もりを行い、現実的に設定した全体予算のなかで最適化を目指します。
・品質管理
プロジェクトによる成果物の品質そのものや、プロセスにおける成果物の品質に関わる部分をマネジメントします。ここでいう「品質」とは、顧客が求めているものに合致しており、使用できるもの、といった意味合いです。
・組織管理
プロジェクトの目的達成のために、人材や物的資源の調達および管理を通じ、プロジェクト遂行のための組織を編成することを指します。
・コミュニケーション管理
プロジェクトを遂行するうえで、各ステークホルダー(利害関係者)との円滑なコミュニケーションを行うためのマネジメントです。プロジェクトに関する情報の管理まで含めた分野で、単なる伝達にとどまらず、関係者の理解を得るところまでをコミュニケーションとして扱う点もポイントになります。
・リスク管理
プロジェクトを遂行するうえで発生するリスクに関するマネジメントの分野です。単にリスクを回避することではなく、リスクを把握したうえでそのリスクを最小化する対策を講じるなど、前向きな意味も含みます。
・調達管理
プロジェクト上の業務に必要なサービスやプロダクトの調達を管理します。チームや組織の内部・外部にかかわらず、調達先の選定や納品までの進捗管理、必要であれば契約などの管理も含まれます。
・ステークホルダー管理
プロジェクトには、社内外でさまざまステークホルダーが存在します。各ステークホルダーに必要な情報の収集や共有などを通じてステークホルダーを管理することを指します。
PMBOKの注意点
プロジェクトマネジメントの考え方や手法を標準化したPMBOKは、世界でも浸透していますが、良いことばかりではありません。以下では、PMBOKを活用するうえでの懸念点や注意点を解説します。
想定外の事態への対応
PMBOKでは、プロジェクトを遂行するうえでのマネジメントの考え方や手法をマニュアルのように標準化しています。先述の10の知識エリアや5つのプロセスの型に沿ってプロジェクトを管理していけば、多くの場合で円滑な運営が可能でしょう。
しかし、現代は変化や競争の激しいビジネス環境でもあります。従来の型に沿ったマネジメントでは対応しきれない事態も考えられます。その意味で、普段とは異なる状況での対処については標準化できないため、PMBOKに対して懸念が抱かれるケースもあります。
そのため、世界基準のPMBOKを活用するだけでなく、社内や組織内においても、発生したイレギュラーな事態やその対処方法についてのナレッジを蓄積し、以後同様の事態が発生した際にスムーズに対応を進められる準備をしてくことが大切です。
プロジェクトマネージャーの画一化
プロジェクトマネジメントに限らず、決まった型やフレームワークがあれば、経験の浅い人でも一定の成果を早期に出せるようになります。そのことから考えるとPMBOKはうってつけで、これに従ってマネジメントをすれば、よほどのイレギュラーな事態が発生しない限りプロジェクトを遂行できるでしょう。
しかし、テクノロジーの発展した現代では、PMBOKで定められていない状況やマネージャー自身で判断するべき状況も増えています。そして、臨機応変な対応や柔軟な考え方は、一朝一夕で身につくものではなく、経験がものをいう部分でもあります。PMBOKに依存しすぎると、マネージャーに重要な対応能力が習得しづらくなるというデメリットがあります。また、マニュアルのように縛られたプロジェクトマネジメントでは、リーダーシップや創造性を発揮しづらく、プロジェクトに対する改善意欲やモチベーションの低下につながりかねません。
プロジェクトマネージャー育成の初期段階として、徹底的にPMBOKを理解・実践させたうえで、一定レベルに到達したら状況に応じてマネージャーの判断能力や創造性、リーダーシップを発揮できるようにするとよいでしょう。
まとめ
プロジェクトマネジメントにおける教科書的な存在であるPMBOKですが、そもそもプロジェクトマネジメントには絶対の正解がありません。この前提のもと、あくまで基本の型としてPMBOKと向き合うことが大切です。マネージャーの基本としてPMBOKの理解と実践があり、経験とともに臨機応変な対応能力を磨くとよいでしょう。
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