「ピグマリオン効果」とは、他者からの期待を受けることで、その期待に応じた学習効果や作業効果を出せるという心理学効果をいいます。ピグマリオン効果を応用することで、従業員のモチベーションや生産性の向上に役立てることが可能です。本記事では、このピグマリオン効果の詳細について、ほかの心理学効果との比較も交えつつ解説します。
ピグマリオン効果とは
「ピグマリオン効果」とは、学習や作業などにおける個人のパフォーマンスが、他者からの期待値に影響されることを示した心理学効果です。つまり、他者から受ける期待値が高ければ高いほど、人間はパフォーマンスを発揮しやすくなることを意味しています。
ピグマリオン効果は、教育心理学者のロバート・ローゼンタールが1964年に行った実験にて実証されました。そのため、ピグマリオン効果はローゼンタールの名前を取って「ローゼンタール効果」と呼ばれることもあります。また、ローゼンタールの実施した実験が教師を対象としたものだったため、「教師期待効果」といわれる場合もあります。ローゼンタールが行った実験とは、次のようなものです。
ローゼンタールの実証実験
ローゼンタールはまず、カリフォルニア州のある小学校の生徒たちに、IQテストを模したテストを受けてもらいました。そして試験後、ローゼンタールはその中から無作為に数人の生徒を選んで、具体的な点数は知らせないまま「今後成績が上がるであろう生徒」として、教師に名前を教えました。
その後、ローゼンタールは、生徒たちの学年が上がってから再度テストを受けてもらいました。すると、実際には何の根拠もないまま「今後成績が上がるであろう生徒」として教師に名前を伝えた子どもたちが、統計的に最も顕著な進歩を示したのです。
この結果を受けてローゼンタールは、「教師の期待が生徒たちの成長を手助けした」と結論付けました。「今後成績が上がるであろう生徒」として教師が期待を寄せたことが、生徒の発達にポジティブな影響を与えたのだと、ローゼンタールは考えたのです。
ピグマリオン効果に対しては、「再現性が十分ではない」など一部で批判的な意見もあります。またローゼンタール自身も、生徒が成績を上げたのは教師の期待があったからというより、教師が期待している子どもをほかの生徒より優遇したからではないか、と考察している節があります。
とはいえ、後述するホーソン効果のように、「期待されている」という実感が人間のパフォーマンスを上げることを示した心理学実験はほかにもあります。実際、他者からの期待に応えたいと思うことは人間の自然な感情であり、その効果のほどについて、私達は実生活を通してよく知っているのではないでしょうか。
ピグマリオン効果をビジネスに活かす方法
上記のように、ピグマリオン効果は当初、教育心理学の概念として提唱されたものですが、ビジネス現場においても活用の可能性を豊富に持っています。以下では、ピグマリオン効果をビジネスに活かす方法について解説していきます。
部下のマネジメント
ビジネスにおいてピグマリオン効果は、第一に部下のマネジメント方法として活用できます。つまり、部下や後輩を成長させたいならば、ネガティブな言葉で接するのではなく、期待を感じさせる言葉や態度で接するべきということです。
たとえば、部下が何度も同じ失敗を繰り返してしまったときにかけるべきは、「何回失敗すれば気が済むんだ?」などの辛辣な言葉ではありません。むしろ「これができるようになれば、○○君はもっと活躍できるはずだよ」などの前向きな言葉をかけるべきです。ピグマリオン効果の影響は、すぐには見た目に出ないかもしれませんし、反射的に厳しい言葉が出そうになることもあるかもしれません。しかし、そこはグッと堪えて、ある程度の気長さと自制心を持って対応することが大切です。
自分のモチベーションを高める
ピグマリオン効果を自己暗示的に使い、自分のモチベーションを高めることも可能です。たとえば、ポジティブな言葉の書かれた紙を目につく場所に貼ったり、SNSでポジティブな言葉を発信したりするなどが、その具体的方法として挙げられるでしょう。あるいは何かにチャレンジし、その結果得られた成功体験を書き留めることも効果が期待できます。
自己暗示は一種の習慣づけです。普段からポジティブな言葉を多用していると、脳神経的にネットワークが形成され、ちょっとしたきっかけからでもポジティブな言葉が思い浮かびやすくなるとされています。あるいはチャレンジした結果、よい結果を得られたという成功体験を繰り返し思い返しているうちに、自然と「チャレンジしたあとにはよい結果が待っているものだ」と脳にインプットされるようになります。そのため、自己暗示的にピグマリオン効果を使う場合は、ポジティブワードに触れる機会をとにかく増やすことが大切です。
ピグマリオン効果を使うときのポイント
ピグマリオン効果を活用するときには、以下のポイントを押さえておくと、より高い効果が期待できます。
達成できる目標を設定する
人間が成長するために挑戦は欠かせないことですが、現在のスキルや能力に比べて難しすぎる目標設定をしてしまうと、無力感ばかりが募ってしまいかねません。ピグマリオン効果を効果的に活用するには、現状で達成できる課題を与えて成功体験を積ませ、自信をつけさせることが大切です。もちろん、目標達成のあかつきには、褒め言葉をかけてあげるようにしましょう。
裁量権を与える
成功体験を積ませたいからといって、何から何まで細かく指導しすぎると、結果として過保護になってしまい、相手の成長が妨げられてしまう原因となり得ます。「自分自身の力でやり遂げた」という強い実感・達成感を与えるために、指示は必要な分で済ませて、あとは相手に裁量権を与えるようにしましょう。仕事を任せることも、相手に対し期待を表明する仕方のひとつといえます。
期待を言葉で伝える
期待感は頭の中で思うだけでなく、ちゃんと言葉にして伝えましょう。態度で察するということももちろんありますが、脳に与える情報量やインパクトを単純に考えても、はっきりと言葉で期待を示したほうがピグマリオン効果は発揮しやすくなります。
褒めてモチベーションを維持する
期待の言葉と同じく褒め言葉も定期的に口にして、部下のモチベーションを高めることが大切です。些細な成功や善行でも、その努力や成果を認める言葉をかけてあげることで、「この人はちゃんと自分を見てくれている」という信頼感や安心感を部下に与えられるでしょう。もちろん褒めるだけでなく、ときには必要に応じて注意することも大切ですが、その際も前向きになれるフォローを忘れずに行ってください。
ピグマリオン効果を使うときの注意点
ピグマリオン効果を使うときには、いくつかの注意点があります。効果が裏目に出ないように、以下のポイントに気をつけて活用してください。
期待をかけ過ぎない
ピグマリオン効果を使う際は、相手の適性や能力を考慮し、応えられるであろう内容・レベルの期待に抑えることが大切です。過度の期待は相手に重荷を感じさせ、かえってモチベーションを下げてしまう場合もあります。また、相手が期待通りの結果を残せなかったからといって、ひどく怒ったり不機嫌になったりすることも慎むべきです。
褒めすぎない
相手を褒めることは大切ですが、褒めすぎにも気をつけなくてはいけません。過度に褒めた結果、相手が増長して現状に甘えたり、手を抜いたりしてしまう可能性があります。褒めるときは同時に新しい課題も与えるなどすると、次の目標に向けたモチベーションを喚起する効果が期待できます。
類似する心理効果
ピグマリオン効果には、いくつか類似する心理的効果があります。これらの心理的効果も頭に入れておくことで、マネジメントにおける成功を助け、失敗を避けることが期待できるでしょう。
ゴーレム効果
「ゴーレム効果」は、ピグマリオン効果とは対極的な心理的効果です。「期待をかけることでパフォーマンスが向上する」というピグマリオン効果とは逆に、ゴーレム効果は「他人から期待されない環境に身を置いているとパフォーマンスが下がってしまう」ことを意味します。つまり、部下に必要以上に厳しく接することは、かえって部下のパフォーマンスを下げる結果に終わってしまう可能性があるのです。
ハロー効果
「ハロー効果」とは、相手の一部分に関する評価を、全体に対する評価にまで拡大し認識してしまう心理効果をいいます。ハロー効果には「ポジティブハロー効果」と「ネガティブハロー効果」の2種類があります。つまり、相手の一部分だけを見て過大評価してしまう場合もあれば、逆に過小評価してしまう場合もあるということです。
たとえば、ビジネスパーソンがスーツをビシッと着こなすのも、「服装」という一部分によって、「自分」という人間全体を「ちゃんとした人間」として自己演出するハロー効果を狙ってのことといえます。
ホーソン効果
「ホーソン効果」はピグマリオン効果とよく似た心理的効果で、人間は「自分が他者から厚遇や注目を受けている」と主観的に認識することによってパフォーマンスを上げる、という仮説です。ホーソン効果においては、単純に注目されているだけでも人間のパフォーマンスは上がるとされており、その点は期待感に強くフォーカスしたピグマリオン効果と若干異なるといえます。
まとめ
今回はピグマリオン効果の概要と、ビジネスにおける活用方法について解説しました。ピグマリオン効果は、他者からの期待感が個人のパフォーマンスにポジティブな影響を及ぼす、という心理的効果です。ピグマリオン効果は教育心理学の研究成果ですが、ビジネスにおいても部下のマネジメント法、あるいは自分のセルフマネジメント法として活用できます。その際、重要となるのが、なるべくポジティブな態度や言葉で相手に接することです。
ピグマリオン効果は、部下のモチベーション管理をするうえで役立つ心理的効果です。しかし、テレワークを導入する企業が増えている現在、部下とコミュニケーションを取ること自体に不自由している方も多いのではないでしょうか。プロジェクト管理ツールの「Asana」は、チーム全体でオープンな仕事の連携を可能にするツールです。Asanaによって個々の社員の仕事状況を密に管理することで、部下の成長をサポートできます。
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