社会生活を営む上で、コミュニケーションは不可欠な要素であり、ビジネスでは相手を尊重しつつも自分の意見や主張を通さなくてはならないシーンがあります。そこで重要となるコミュニケーションスキルが「アサーション」です。本記事はアサーションの概要について解説するとともに、注目される背景や具体的なメリットなどを紹介します。
アサーションとは
アサーションはコミュニケーションスキルのひとつで、人は誰しも平等に自分の意思や要求を表明する権利があるという観点から行われる自己表現を指します。英語の「assertion」は直訳すると「主張」や「断言」を意味し、「自分の意見をはっきり述べること」といった意味合いをもつ言葉です。しかし、それは自分の意見を押し通すといった一方的な意味合いではなく、相手の意思を尊重しつつも自分の意見を伝えるという考え方を指します。
アサーションという概念は、1950年頃に米国の心理療法の中から生まれました。そして、人種差別の撤廃を求める公民権運動や、ウーマンリブと呼ばれる女性解放運動によって浸透したと言われています。その後、米国で心理療法を学んだ臨床心理士の平木典子氏の活躍により、1980年頃、日本にもアサーションという概念がもたらされました。コミュニケーションの重要性を理解しつつも、自己主張を苦手とする日本において、主にビジネスの世界で近年非常に大きな注目を集めている概念です。
アサーションが注目される理由
日本人は自己を抑制し、耐え忍ぶことを美徳とする観念が強く、自分の意思よりも相手の気持ちを優先しがちな傾向にあります。思いやりの心や場の雰囲気や慮る人間性は、間違いなく日本人の美点といえるでしょう。しかし、ビジネスの場においては、相手の意思を尊重しつつも自分の意見を通さなくてはならないシーンがあります。
とくに近年は市場のグローバル化が進み、日本企業を取り巻く環境の変化が加速しています。日本企業が海外市場でシェアを獲得していくためには、語学力の向上とともに自分の意見を主張する力が必要です。国際交流が盛んになり、多くの企業がグローバルな人材を育成すべく語学力の強化に取り組んでいるものの、自己主張力を育てるという考え方は浸透しているとはいえません。
また、働き方改革の推進によって、企業は多様かつ柔軟な労働環境の構築が求められているのも、アサーションが注目を集める理由のひとつです。働き方改革の推進によって多様なワークスタイルを整備するだけでなく、従業員一人ひとりの個性や意見を尊重しようという考え方が広りつつあります。そして、これまで以上に組織内の人間関係やメンタルヘルスが重要視されるようになり、相互理解を図るコミュニケーションスキルとしてアサーションが注目を集めているのです。
自己主張には3つの種類が存在
対人関係におけるコミュニケーションの方法は、大きく分けると3つのタイプに分類されます。それが「アグレッシブ」、「ノンアサーティブ」、「アサーティブ」です。
アグレッシブ
アグレッシブタイプの特徴は、相手の気持ちや考え方よりも自身の意思を最優先に考える点です。英語の「aggressive」は「攻撃的」や「積極的」という意味をもつことから、「攻撃タイプ」とも呼ばれます。常に優位に立とうとする性格で、物事を勝ち負けで判断し、自分の主張を通すためなら相手を傷つけることも厭わないタイプです。一代で財を成すようなカリスマ経営者に多いタイプといえます。
もちろん、自己主張の強さは決して悪いことではありません。しかし、自分の要求を通すために他の意見や気持ちを無視する傾向にあるため、敵が多いのがアグレッシブタイプの特徴です。しかし、その反面で強力なリーダーシップとカリスマ性によって人を惹きつける魅力があり、敵が多いものの味方になれば心強い存在といえます。
ノンアサーティブ
アグレッシブタイプとは真逆で、自己主張や争いごとを苦手とするのがノンアサーティブタイプです。「non-assertive」を直訳すると「非断定的な」といった意味合いになり、日本語では「非主張タイプ」と呼ばれます。このタイプは争いごとに苦手意識があり、大人しい性格の人が多く、自分の気持ちよりも相手の意見を優先するという点が大きな特徴です。いわゆる、日本人的な特徴をもつタイプといえるでしょう。
ノンアサーティブタイプは、良くいえば他者を尊重する思いやりの気持ちが強いタイプで、悪くいえば優柔不断で消極的といえます。自己主張が苦手で頼まれごとを断れなかったり、曖昧な言葉や言い訳が多かったりというのもこのタイプの特徴です。営業職のように駆け引きや交渉が必要な業務には向かないものの、非常に真面目かつ勤勉であり、縁の下の力持ちとして組織の運営に欠かせないタイプといえます。
アサーティブ
アグレッシブタイプとノンアサーティブタイプの中間に位置するのがアサーティブタイプです。「assertive」は「断定的な」や「断言する」といった意味合いをもっており、いわゆるアサーション型のコミュニケーションを指します。アグレッシブタイプのように自分の意見を主張しながらも、ノンアサーティブタイプのように相手を尊重して思いやるのがアサーティブタイプの特徴です。物事を俯瞰的かつ論理的に捉える能力に長けているため、組織のトップやリーダーの適性があるといえるでしょう。
アサーティブタイプは、自己中心的かつ攻撃的なアグレッシブタイプや、自己犠牲的かつ消極的なノンアサーティブタイプとは異なり、相互理解をベースとしたコミュニケーションを優先します。相手を尊重して思いやる心を持ちつつも自分の意見をしっかりと主張し、Win-Winの関係を目指すのがアサーティブタイプです。そのため、意見が対立した場合であっても、お互いが納得できる結論を得ることを目指します。
アサーションを身につけるメリット
ここからは、アサーションを身につけることで得られる具体的なメリットを見ていきましょう。
人間関係に対するストレスの軽減
人間関係におけるストレスの主な要因は、自分の意見が受け入れられないことそのものではなく、ありのままの気持ちを抑圧することにあります。相手を尊重するあまり、自分の意見や気持ちを押し殺し、抑圧された感情や思いがストレスとなって心身に積み重なってしまいます。アサーションは、自分と相手の意見や思想を俯瞰的かつ論理的に捉え、相互理解をベースとしたコミュニケーションを図る点が大きな特徴です。
物事を俯瞰的な視点から眺めることで、バイアスや感情論にとらわれることなく、客観的な視点でお互いの意見を論理的に比較できるようになります。そして、相手が非合理的であると判断できれば「NO」と自分の意見を伝えられるため、対人関係のストレス軽減につながるでしょう。また、アサーションを身につけることで、上司や部下だけでなく、取引先に対しても対等な立場で話せるようになります。
社内コミュニケーションの活性化
日本人は一般的に自己主張や議論が不得手と言われています。その理由のひとつとして挙げられるのが「NO=相手への否定」と捉えがちなためです。たとえば、意見が対立して「NO」と言われた場合、自己を否定されたと感じて感情的に受け止める人が多い傾向にあります。そのため、アグレッシブタイプの人であれば相手に敵対的になり、ノンアサーティブタイプであれば抑鬱的になる傾向があります。このような心理状態では健全な議論やコミュニケーションを図るのは困難です。
アサーションでは「NO」は自分や相手に対する「否定」ではなく、「ひとつの意見」としてフラットな視点で捉えます。相互理解の視点から「NO」と発言できる企業風土が整えば、立場に関係なく自分の意見を主張できるようになり、結果として社内コミュニケーションの活性化に寄与するでしょう。社内コミュニケーションの活性化によって組織の情報共有が円滑化され、部門間連携の強化や情報の伝達漏れを防ぐことで生産性の向上にもつながります。
まとめ
どれだけテクノロジーが進化しても、ビジネスの土台にあるのは人と人とのつながりです。企業が大きく発展していくためには、顧客との良好な人間関係の構築はもちろん、社内コミュニケーションの健全化も欠かせません。アサーションという概念を経営体制に取り入れることで、相互理解に基づくコミュニケーションが生まれ、組織力の強化につながるでしょう。組織内の円滑なコミュニケーションをさらに強化したい企業は、ワークマネジメントツール「Asana」の導入をおすすめします。「Asana」は企業の経営データを一元的に管理し、組織内の情報共有や部門間連携の強化に寄与するソリューションです。「Asana」の詳しい情報については下記URLをご覧ください。
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