組織にさまざまなメリットをもたらすピアボーナス。導入を検討している企業も多いことでしょう。本記事では、これからピアボーナスの導入を検討している方に向けて、概要や期待できる効果、国内事例について解説します。ピアボーナス導入に失敗しないための対策についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
ピアボーナスとは
ピアボーナスとは、本来の上司から部下への評価や賞与と違い、同僚同士で仕事における感謝や少額の賞与を与え合う制度です。後述の「Unipos」や「THANKS GIFT」では、ギフトや金銭に変換可能なポイントや、社内通貨機能によって企業のピアボーナス制度を支援しています。
ピアボーナスはかのGoogle社でも導入されていることから日本国内でも注目されており、メリットとして社員同士のコミュニケーションの活性化、それによる社内環境がより改善されるといった点が挙げられます。
ピアボーナス導入で期待される効果
ピアボーナスを導入すると、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか?ここでは、ピアボーナス導入によって期待される主な効果を3つご紹介します。
コミュニケーションが活発になる
ピアボーナス制度は、同僚同士で評価し、感謝を伝える評価制度なので、その分コミュニケーションが活性化することがメリットとして挙げられます。競り合うのではなく、褒め合うことが主軸なため、よいコミュニケーションが生まれ、職場の人間関係や社内環境がさらによくなることも期待できるでしょう。
普段は部署内でしか構築されにくい人間関係も、ピアボーナスをきっかけにコミュニケーションが生まれ、より従業員内の絆や、他部署同士の相互理解が生まれることも考えられます。
従業員エンゲージメントが向上する
また、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。従業員エンゲージメントとは、会社に対する帰属意識や、愛着心や思い入れなどを指します。会社に愛着がある従業員は、その会社に多く貢献したい、長く働きたいという感情を抱きやすいため、後述する「優秀な人材の定着」のためにも従業員エンゲージメントは重要な点です。
従業員エンゲージメントは職場環境や居心地の良さからも向上が考えられ、コミュニケーションが活性化やそれによる職場環境の改善が見込めるピアボーナス制度が大きく役に立ちます。
人材の定着につながる
ピアボーナス制度は、今まで上長からは見えなかった従業員の評価ができるという側面も持っています。上長は部下を数字などで可視化された成果を評価するのが通常ですが、可視化されない小さな成果は見逃されがちです。すると、従業員の不満が募り、正当な評価をされないとして離職に繋がる可能性があります。
ピアボーナス制度によって、上長からは見えない、従業員同士の小さな貢献を賞与という形で評価し合うことで、その貢献が見逃されることなく、正当に評価されるため、評価に対する不満が生まれにくくなります。結果として、優秀な人材が流出しにくくなるでしょう。
国内の導入事例
ピアボーナスを導入している企業は、どのように活用しているのでしょうか?国内企業の導入事例を見てみましょう。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリは、2017年にピアボーナスツール「Unipos(ユニポス)」を導入しました。
「Unipos」はポイントをお互いに送り合うことができるサービスですが、メルカリではボーナスを「mertip(メルチップ)」と名付けて運営しています。メルカリではもともと、四半期ごとにカードを贈って従業員同士の感謝を伝え合う文化がありましたが、より気軽にリアルタイムで賞賛し合える仕組みとしてメルチップを導入したそうです。
メルチップの特徴は、専用のサイトやアプリにログインせずとも、普段業務で使用しているSlack上で感謝(=メルチップ)を贈り合える点にあります。こうした使いやすさから導入効果も上々で、多いときは1日に1,000件近い投稿が発生しているそうです。導入効果としては、経営陣と従業員のエンゲージメント向上や、コミュニケーションの活性化が得られました。
株式会社ヴィクセス
株式会社ヴィクセスは、複数の飲食店を経営する企業です。ヴィクセスでは、社員だけでなくアルバイトスタッフも精力的に働けるよう、ピアボーナスアプリ「THANKS GIFT」を導入しました。このピアボーナスを表彰項目のひとつとし、贈呈・獲得したピアボーナスの数を競い合うことでも、モチベーションの向上を図っているそうです。
従業員がお互いに賞賛し、認め合える企業文化が自然とできたことで、会社全体・店舗内でのエンゲージメントが向上するという導入効果がありました。また、アルバイトスタッフの研修参加率向上や離職率低下によって、従業員の定着率が改善しました。アルバイトスタッフが友達を紹介してくれる、リファラル採用も増加したといいます。
ピアボーナス導入における注意点
組織改革や人材の定着に効果があるとされるピアボーナスですが、運用方法を誤ると逆効果になってしまうこともあります。ここでは、ピアボーナス導入に際して特に注意すべき2点をご紹介します。
運用コストがかかる
ピアボーナスの導入がメリットとして表れるには、ある程度の期間を要します。ピアボーナスによって得られる賞与を用意する必要もあるので、運用コストがかかるということは理解しておきましょう。当然、ピアボーナスアプリなどの外部サービスを利用する場合も、初期費用や利用料がかかります。さらに、ルールを設けていないと無制限でボーナスを贈れることになり、コストがかさんでしまいます。
導入前に原資を確保しておかなければ、支出が増えただけで企業にとって負担になりかねません。会社の支出を減らす策として、「従業員の自腹で行う」「言葉だけで褒め合う」などの方法が取られることもあります。しかし、この解決策には、他者に贈るボーナスが自腹では従業員にとってはメリットがない、言葉だけのボーナスではモチベーションにつながらないなど、問題点が多々あります。
ピアボーナスがトラブルの火種になり得る
ピアボーナスは、社員同士でボーナスを贈り合って、モチベーションやスキルの向上につなげようという施策ですが、できるだけ多くのボーナスを得るために、評価されやすい仕事にばかり飛びつく社員を生んでしまうリスクもあります。また、ピアボーナスをもらうことに固執して他の社員をライバル視する社員が現れたり、自分だけボーナスがもらえないことに落ち込む社員が増えたりする恐れもあります。
従業員がお互いの評価に気を取られるあまり、本来やるべき仕事がおざなりになっては本末転倒です。ピアボーナスを導入することで職場の雰囲気が悪化したり、組織が弱体化したりしないよう、経営陣からのフォローや運用ルールの構築を徹底しましょう。
ピアボーナスの導入に失敗しないための対策
上記でご紹介した通り、ピアボーナスの導入によって、トラブルが発生するおそれもあります。ここでは、その対策として押さえておきたい2つのポイントをご紹介します。
目的・基準を明確にする
前述の通り、新しい制度の導入にはコストがかかります。目的が曖昧なまま導入して、はっきりした効果も出ないままピアボーナスを継続するのは、支出が増加するだけでなにも生みません。「業務効率化を図る」「団結力アップさせる」など、ピアボーナス導入の目的を明確にしておきましょう。
また、評価基準やルールなどのガイドラインを設け、公平性を保つのを忘れてはいけません。公平性という点で、従業員だれもが使いやすい仕組みにすることも重要です。アプリやツールを導入する場合も、賞賛プロセスが面倒だったり、一部の従業員だけが使えたりするようなものは避けましょう。
費用対効果も考えておく
ピアボーナスの報酬として現金や景品を用意する場合は、そのコストに見合う効果が得られるかを十分に検討しましょう。あらかじめ費用対効果についての評価基準を明確にしておき、運用開始後もコストと効果のバランスを確認することが大切です。加えて、運用成績に応じて、定期的に制度を見直すことも必要でしょう。
また、ピアボーナスを導入する際は、長期的に運用できる仕組みを整備しなければいけません。例えば、導入事例で紹介した株式会社メルカリでは、贈与できるメルチップは1人あたり400チップ/週と決めて運用しています。この仕組みなら従業員から不満も生まれず、ピアボーナスが増えすぎることもありません。
まとめ
ピアボーナスは、従業員同士で報酬を贈り合うことにより、従来の評価方法とは別の視点から社員を評価するための制度です。コミュニケーションの増加や離職率の低下など、さまざまなメリットがあります。
アメリカやイギリスなど、海外で導入が盛んな制度ですが、株式会社メルカリや株式ヴィクセスをはじめとした、日本企業でも導入が増えてきています。新しい人事評価制度として、導入を検討してみてはいかがでしょうか。ただし、ピアボーナスの導入には注意点もあるため、計画的に運用して、効果につなげられるようにしましょう。
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