働き方改革が叫ばれて久しいですが、その裏で休み方改革が進められていることを知る方はそれほど多くはないでしょう。本記事では、休み方改革の概要や推進される背景、具体的な政府の取り組みなどについて紹介していきます。働き方改革と共に、休み方改革の支援策も取り入れて、働きやすい企業を作りましょう。
休み方改革とは
休み方改革を知るためには、改革の概要と改革が推進される背景について知ることが必要です。まずはそれらについて解説していきます。
改革の概要
休み方改革は、企業で働く従業員が休暇を取りやすくするために施策される官民一体の取り組みです。労働者が働きやすい労働環境を作ることを目的にした、政府主導の労働環境に関する政策の1つとなっています。
休み方改革を実施する中で2014年には「休み方改革ワーキンググループ」を発足、その後「休み方改革官民総合推進会議」を開設するなど、政府によるさまざまな施策が進んでいます。ワーキンググループによる会合では、休み方を見直すことの重要性や必要性、秋の連休を大型にするための自治体や企業の課題、実現のための具体的方策、休み方を向上させるためのあらゆる施策など、さまざまなことが議論されました。また、この会合では、休み方のみではなく、働き方にまで言及されています。
なお、休み方改革では、企業に対して労働者の休暇の取得を推進するだけでなく、休暇が特定の時期に集中するのを見直すように勧めたり、休暇の過ごし方に言及したりしている点が特徴です。しかし、休暇を利用して地域活性化や旅行消費を増加させることを目的とするなど、休暇をどのように過ごすのかといったプライベートな部分についてまで踏み入った施策を出していることに、一部では疑問の声も出ています。
改革が推進される背景
休み方改革が推進される背景には、労働時間の長さや年次有給休暇の取得率の低さ、ゴールデンウィークやお盆など特定の時期に長期休暇が集中しているため、ほかの時期に長期休暇を取りにくくなっていることなどがあります。
厚生労働省の調査によると、日本において週49時間以上の労働をしている人の割合は1位の韓国(37.9%)に次ぐ多さ(23.1%)であるとの結果が出ています。
日本では労働基準法など、労働に関するさまざまな規制があるにもかかわらず、サービス残業をしたり、休日出勤をしたりするなど長時間労働をせざるを得ない人の割合が多いのです。業界によっては人手不足によりこのような事態が起きているところもあります。そのうえ、「残業してまで業務をしている人=頑張っている人・責任感の強い人」として評価が得られやすいという日本特有の考え方も関係していると見られています。
有給休暇に関しては、旅行サイトのエクスペディアがおこなった2018年に世界19か国を対象に有給休暇取得率を調べた調査によると、2016年から連続3年の間、日本が最下位となっています。また、同調査により、有給休暇を取得することに罪の意識を感じる人が59%もいるという結果も浮き彫りになりました。
さらに、厚生労働省が2016年におこなった調査では日本人の有給休暇取得率は48.7%という結果も出ているのです。
この数字からも労働者全員の半数以上が有給休暇を取得していないことが分かるでしょう。日本で有給休暇が取りにくいのは、自由に取得できる雰囲気ではない企業があることや、上司が有給休暇を取得しないことなどが関係しているとのデータもあります。欧米諸国の有給休暇はほぼ完全に取得されている状況を鑑みれば、いかに国内における労働を取り巻く環境が異常か分かるでしょう。
欧米企業では自分が担当している仕事で成果を出していれば、ほかの仕事を手伝わなくても問題はありません。しかし、日本では業界によって慢性的な人手不足が起きているため、自分の担当以外の仕事も掛け持ちしなくてはいけない場合や、休もうとしたときが繁忙期に被っていて取得申請をしにくいなどの事情があると考えられます。また、上司が定時以降も残業することが多い場合や有給休暇を取得していない場合、その上司の下で働く部下も休暇の申請をしにくい雰囲気になってしまうのは仕方のないことなのかもしれません。
休み方改革に関連する政府の取り組み
ここからは休み方改革に関して、政府はどんな取り組みをおこなっているかを紹介していきます。具体的には、休暇の取得・普及推進や勤務間インターバルの普及促進のほかにも、休み方改善コンサルタントの配置や長時間労働の是正が挙げられます。自社で取り入れられる施策があるようなら、少しずつでも推し進めていくとよいでしょう。労働者の健康に気を配ることも雇用主として大切な業務の1つです。
休暇の取得・普及推進
休暇の取得・普及推進としては、有給休暇取得促進期間を設けるほかに、「仕事休もっ化計画」や「プラスワン休暇」、「キッズウィーク」などの施策を進めています。厚生労働省は毎年10月を「年次有給休暇取得促進期間」として、全国の労使団体への周知依頼をおこなったり、インターネット広告などで有給休暇の取得を推進したりしています。
「仕事休もっ化計画」は年次有給休暇を計画的に割り振るための制度です。この制度の利用には、休暇の付与日数が10日の労働者はそのうちの5日、20日付与されている労働者はそのうちの15日までという上限が設けられています。また、年5日までであれば、有給休暇を「時間単位」で取得することも可能です。年次有給休暇については、働き方改革でも柱となっているポイントでもあるので、その点についても忘れず押さえておきましょう。
「プラスワン休暇」は、通常の土日祝日の休みに合わせて有給休暇を使い、連休にすることを推進する制度のことです。2015年6月より推奨されて以来、「仕事休もっ化計画」の一環として広報活動がおこなわれています。
「キッズウィーク」はこれまで全国一律だった学校の長期休業時期を分散させ、家族で休暇を過ごす機会を作ることを目的とした制度です。導入するかどうかは自治体の判断によりますが、厚生労働省は全国の学校に休暇の時期をずらすように要請をおこなっています。
勤務間インターバルの普及促進
「勤務間インターバル」とは勤務が終わった時間から翌日の勤務開始時間までの間に設ける一定の休息時間のことです。勤務間インターバルにより、労働者の生活時間や睡眠時間を確保することができます。働き方改革関連法に基づいて労働時間等設定改善法が改正されたことを受けて、雇用主の努力義務として定められました。過重労働は労働者の肉体的・精神的な安定を妨げ、最悪、過労死などを引き起こしかねません。勤務間インターバルを普及促進することで、十分な休息時間を確保できるようになり、ワークライフバランスを保てるようになるでしょう。
休み方改善コンサルタントの配置
年次有給休暇取得や労働時間制度などの疑問に答えるために、各都道府県は「働き方・休み方改善コンサルタント」を配置しています。無料で働き方・休み方改善コンサルタントへの相談ができ、アドバイスや資料ももらえます。企業の規模や業種は問わないので、社員の休み方などの見直しをしたい場合は、遠慮せずに利用することが可能です。具体的な支援内容としては、コンサルタントが企業に訪問して現状をヒアリングした上でアドバイスをおこなう個別訪問支援、企業内で労働時間や休暇に関する説明会をおこなう際の講師の派遣、ワークショップの開催などをしています。働き方・休み方改善コンサルタントについてのリーフレットは厚生労働省の公式HPからダウンロードできるので、参考にしてみてください。
長時間労働の是正
長時間労働の是正としては「ゆう活」や「プレミアムフライデー」などの取り組みが実施されています。「ゆう活」は夏の生活スタイルを変えるための取り組みです。夏は日照時間が長いので、朝早くに仕事を始め、その分、退社時間を早めることで生活を豊かにする機会を設けるために作られました。ゆう活を導入することで、友人や家族と過ごす時間が増えたり、自分の趣味を楽しむ時間を増やしたりすることができるのです。
なお、ゆう活には、労働者だけでなく企業にもメリットがあります。この制度によって労働者の生活の質が良くなると、仕事への意欲も上昇し、資格取得のために勉強をする人が出てくることが予測されるほか、業務の効率化や生産性の向上も期待できます。
一方、「プレミアムフライデー」は2017年に始まった、月末の金曜日の退社時間を早めて週末を有意義に過ごせる機会を設ける取り組みです。労働時間の短縮のほかに、経済を活性化させる目的もあって導入されましたが、実際には月末は業務が忙しい人も多いため実現は難しく、導入に至っていない企業も多いです。
切り離せない休み方改革と働き方改革
休み方改革は、労働者のワークライフバランスの推進を目的として実施されている政策ですが、労働者の働きやすさを向上させるための政策として制定された「働き方改革」でもワークライフバランスが重要視されています。実際、休み方改革で推進されている支援策の中でも、時間外労働等改善助成金制度や勤務間インターバル制度の普及促進、テレワークの推進は働き方改革でも推奨されているのです。
休み方改革と働き方改革では同じ支援策が打ち出されていることからも分かるように、両者は同じ目的を果たすために制定された、異なる方面からのアプローチといえます。政府も休み方改革と働き方改革を表裏一体のものと考えているので、企業担当者もそれを意識すると、改革がすんなり進むことでしょう。労働者のワークライフバランスを守りつつ、生産性を上げるためにも、休み方改革や働き方改革両方のアプローチを導入していくことが大切です。
まとめ
休み方改革では休暇の取得・普及や長時間労働の是正など、さまざまな取り組みが推進されています。休み方改革と働き方改革で目指す目的は同じなので、企業の担当者は両方の改革を意識しながら、従業員にとって働きやすい職場作りを心がけていきましょう。
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