政府がまとめた「働き方の未来2035」とはどのようなものか?

 2020.05.19  2022.02.17

政府がまとめた「働き方の未来2035」は、未来の日本の指針となる報告書です。少子高齢化と技術革新が進んだ2035年の日本社会はどのような状態か、また2035年に向けて何を備えておくべきなのでしょうか。

当記事では、「働き方の未来2035」による未来の考察と、未来に向けた提言・議論の内容について解説します。

政府がまとめた働き方の未来2035とはどのようなものか?

働き方の未来2035とは

厚生労働省が2016年8月に公開した「働き方の未来2035」は、20年後(2035年)の技術や社会、働き方、制度がどう変化しているのかという考察と、そのうえで「一人ひとりが輝く社会をつくる」ためにすべきことは何かという提言をまとめた報告書です。2035年には少子高齢化がさらに進む一方で、AIをはじめとした科学技術が大きく発展すると考えられています。

そんな中、私たちの働く環境が大きな変化を遂げるであろうことは想像に難くないでしょう。たとえばサラリーマンなら、これまで終身雇用が一般的でしたが、1つの会社に定年まで勤め上げ、高額の退職金を得て老後は安泰といった時代ではなくなるのです。

働き方の未来2035で予想されている社会

「働き方の未来2035」では、少子高齢化と技術革新によって社会の在り方が大きく変わると考察しています。ここからは、それぞれどのように変化すると考察されているかをご紹介します。

少子高齢化

2035年には、世界人口は現在の73億人から85億人に増えるのに対し、日本の人口は1.27億人から1.12億人に減ると予測されています。加えて長寿化・少子高齢化が進行し、高齢化率は26.7%から33.4%に上昇するとの予想もあります。

そうした状況下において、労働者を確保するために高齢者や女性の社会進出、外国人労働者の受け入れなどに注目されているのが現状です。「働き方の未来2035」では、働きやすい社会を実現するために、どのような未来を目指すのかきちんと考え、必要なステップを踏んでいくべきだと主張しています。

また「働き方の未来2035」では、産業別就業者数の将来予測にも注目しています。この予測では、情報通信業・医療・福祉等では就業者数が増えるものの、そのほかの産業では減ると見立てています。「働き方の未来2035」では、労働者不足を補うために最先端技術によって効率化・省力化を進め、新たな価値を持ったサービスが創出されなければならないとしています。

技術革新

「働き方の未来2035」では、20年後の社会状況を考察するためには、技術革新の影響を踏まえることが必要であるとしています。「働き方の未来2035」が注目している具体的な技術革新とは、AI・通信技術・センサー・VR・AR・移動技術などです。

その中でも、最も多く触れられているのがAIです。AIの進化によって、定型的な業務は専門知識を求められる種類であっても、AIにその大半が代替されると考察しています。一方で、定型業務でも少しの間違いも許されない種類に関しては、AIは人間の支援程度にとどまると予想されています。

また、がん検出後の判断のように、大局を見たうえでの判断が重要となる業務や、現場監督のような例外的な状況に対応すべき業務についても、AIに代替されず引き続き人間が行うだろうとのことです。

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人は職場でどのように時間を使っているのか

これによって労働形態が大きく変化する一方、たとえば人間性が問われるような、人にしかできない仕事が新しく創出されるとも述べています。仮にAIがコンテンツを作成したとしても、その価値判断は人にしかできないからです。

通信技術に関しては、2035年にはモバイルの通信速度が100Gbpsを上回ると想定され、世界人口の大半が高速なモバイル通信で接続できるようになると考察しています。

ほかにも、毎年1兆個といった規模のセンサーが使われる社会となり、脳波や臭いなどの生体センサーが、医療をはじめとする各分野で革新をもたらすとのことです。

さらにVR(仮想現実)・AR(拡張現実)に関しては、医療や教育などの分野ですでに実用段階にありますが、今後はより発展し、今以上に使いやすく進化するだろうとしています。

このように「働き方の未来2035」では、AIをはじめとする技術革新に期待を寄せており、2035年には何歳になっても現場で活躍できるような「現役長寿」が一般的になるだろうと述べています。加えて、新しいサービスの登場によって雇用が創出され、働き方がさらに多様化される中、企業や社会が柔軟に対応できる仕組みが必要とされるとも述べています。働き方の変化によって、成果の評価やそれに見合った報酬体系の整備などが重要になるだろうというのが、「働き方の未来2035」の主張です。

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働き方の未来2035における議論のポイント

少子高齢化や技術革新によって、2035年の社会がどう変わるのかという考察については理解できました。「働き方の未来2035」にてどのような議論が交わされているのか、詳しく見ていきましょう。

働き方について

インターネットが開発される以前は、労働者は同じ部屋に集まり一緒に仕事をしないと、ほとんどの業務が進みませんでした。しかし技術革新が進んだ現在においては、別々の場所にいてもインターネットを介してリアルタイムでコミュニケーションをとり、共同作業が可能です。「働き方の未来2035」では、その流れは今後も進むだろうとまとめています。

一方で工場においては、作業現場に人が必要と考える人が多いでしょう。しかし「働き方の未来2035」では、工場で必要となる物理作業の大半をロボットが担うようになるだろうと指摘しています。

同じ空間・同じ時刻に仕事をする必要があった以前には、その場所にいる「時間」が評価の中心にありました。しかしながら、時間や空間に縛られないスムーズな働き方を目指すためには、働いた時間でなく実際の成果による評価が重要になる、というのが「働き方の未来2035」の論です。

また「働き方の未来2035」では、2035年には働くことが単にお金を稼ぐ手段というわけではなく、社会貢献や周囲の人との互助、自己の充実感などさまざまな目的を持って行われるようになると述べています。労働の定義・意義が現在とは大きく変わるというのです。

社会への影響について

「働き方の未来2035」では、技術革新が働き方だけでなく企業や経済社会全体の在り方をも大きく変えるとしています。物理的に空間と時間を共有して仕事をすることが必要であった時代は、企業があたかも1つの国家やコミュニティのような存在でした。しかし「働き方の未来2035」では、2035年にはそのような企業は少数派になっているだろうと予想しています。

極端にいうと2035年には、企業という存在がはっきりとした目的を持つプロジェクトの塊となり、労働者は1つのプロジェクト期間中その企業に属するものの、プロジェクトが終われば他企業に所属するというのです。企業が人を抱え込む「正社員」「非正社員」といった概念もなくなるとのことです。

「働き方の未来2035」によれば、2035年には企業間を自在に行き来する働き方が大幅に増加するとの見立てです。そして、このような未来を迎えるために、労働者が簡単に移動できる仕組みの整備や、労働者の能力や評価に関する情報がより幅広く共有される社会に変化していく必要があると主張しています。

制度について

労働者が自身の意志に基づき自由に働ける時代になったとしても、たとえば命の危険を伴うような、自己責任で済むとはいい難い過酷な労働に対しては、何がしかの手当が必要になるだろうと「働き方の未来2035」では述べられています。加えて、労働者が社会の一員として人間らしい暮らしができるための所得を確保すること、そのほかさまざまなリスクに備えるためにも保障・保険的な機能が必要になるとのことです。

ただし、法制度のもとでそれをどこまで提供する必要があるのか、民間にどこまで任せるかは注意深く検討する必要があるとも述べています。仮に法制度で準備する場合、民間での活動が適切に行われるようバランスを考えるべきというのが「働き方の未来2035」の主張です。

教育について

「働き方の未来2035」では「自立するための教育」についても触れています。仕事も働き方も多様化していくことから、子供たちの未来も無限に広がっているといえます。

そんな中で、子供たちが「知らなかったから選べなかった」という事態に陥ることが少なくなるよう、教育現場において色々な機会が与えられるようになるべきというのが、「働き方の未来2035」の主張です。そのためには、現場の裁量である程度自由なカリキュラムを組めるようになるべきだと述べています。

政策について

技術革新は大きなチャンスでもありますが、そのチャンスを活かすためには新しい労働政策が必要だと「働き方の未来2035」では述べられています。働き方自体が、技術革新によって大きく変化していくためです。

また、そうなると企業自体も大きく変化していくであろうことが想定されます。「働き方の未来2035」では、企業の変化に応じた新しい労働政策の必要性を主張しています。

まとめ

「働き方の未来2035」では、少子高齢化と技術革新によって日本社会は大きく変わると主張しています。人々が時間と空間に縛られず働くようになり、AIでは代替できない仕事に注力できるようになるとも予測しています。そうした変化に対応できる制度や教育、政策などが、今後の日本社会の支えとなるでしょう。

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