OKR(Objectives and Key Results)とは、目標とそれを達成するために重要な結果指標のことです。これは企業における目標管理の手法のひとつですが、組織が目標に向かってさらに前進するために役立つプロセスです。OKRを実践している企業の成功事例をご紹介します。
OKRを実践している企業の事例
OKRはさまざまな企業で取り入れられつつあります。OKR手法の導入企業が、どのように管理・運営しているのかをご紹介します。
インターネット検索最大手で有名なGoogleは、OKRを導入した先駆者であるといっても過言ではありません。
目標設定において、具体的か、客観的か、達成する価値があるか、そして達成度が60~70%に落ち着きそうなゴールであるかの4点を押さえ、あらゆる層の社員が提案しながら決めていきます。これをもとにして、組織、チーム、個人の目標設定に落とし込んでいきます。
各OKRは設定時に全社に向けて公開され、1年ごとと四半期ごとに全社ミーティングを行って評価を検証します。さらに四半期の中頃にすべてのOKRの検証が行われます。
Googleが導入に成功している理由の一つに、「ストレッチゴール」という考え方を明確に示したことがあります。これは設定した目標の70%が達成できれば成功である、とする考え方です。目標達成に向けた努力を継続するための高いモチベーション維持と、挑戦できる体制を整えているのです。また、OKRを公開して透明性を作り出すことにより、個人のOKRに対して責任を持たせていることも成功要因の一つと言えます。
Chatwork株式会社
Chatworkは、世界の働き方を変えるという目標をもとに、ビジネスコミュニケーションツール「チャットワーク」を主力事業(開発・販売)として展開している企業です。
同社は、「OKRを通してどれだけチャレンジしたか」に対する評価を人事評価の参考にしています。もともとは達成率を人事評価と連動させる仕組みを取っていましたが、それだと社員が自然と保守的な目標設定をするようになってしまい、挑戦することに後ろ向きな風潮となっていました。この状況を打開するため、人事評価を達成率と連動しないこととしたのです。
また、評価・見直しは四半期に1回とし、目標に対するコミュニケーションの機会を増やしました。
これらによって、社員は目標達成に向けてチャレンジすることや、コミュニケーションを取ることに注力することができ、企業文化も挑戦に前向きな姿勢に変化したのです。
メルカリ
メルカリは、フリマアプリ「メルカリ」をはじめとするサービスを日本とアメリカで展開している企業です。
同社の特徴の一つに、プロセスを重視した評価指標があります。
基本的に難易度が高いゴール設定を推奨しているため、達成に向けてどのような働きをしたのか、それが全体のOKRにどのように貢献できたかという、プロセスの部分が重視されています。
もう一つの特徴は、個人の視点を引き上げて組織の結びつきを強化した点にあります。
同社は、設定からフィードバックなど組織管理に必要な機能を集約した独自のシステムを運用しています。その中で設定したOKRを共有し、自己評価、管理者評価、360度レビューなど様々な視点から人材管理を行っています。
また、半年に1度の合宿でチームごとのOKRを共有し、社内コミュニティを可視化するとともに、個人やチーム、部署のOKRについて1on1ミーティングの場で適時進捗確認を行っています。このように定期的に話し合える環境があることで、全体の進捗状況の可視化ができ、個人のモチベーション維持にもつながっています。
Sansan株式会社
Sansanは、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」と個人向け名刺アプリ「Eight」を開発・提供している企業です。
同社で特徴的なのは、中長期で目標設定ができるよう意思決定を行う仕組みを作っているところです。3か月ごとに、全体での優先事項の細かいすり合わせを実施し、より大きな目標達成のアクションプランを調整できるようになっています。
また、どういう状態になるとよいのかを目指し、定量や目標数値を追いすぎないようにしています。人事評価上もOKRはあくまで参考情報としており、大きな目標に対して大きなインパクトを与えた人を評価するという体制を敷いています。
GameWith
GameWithは、ゲーム攻略、ゲーム紹介、動画配信という主に3つのコンテンツを提供している企業です。
同社は、OKRの導入に際し、あらゆる人事データをクラウド化し、可視化を進めています。全社的なスコアデータを全員に開示し、数値に基づいて組織側の課題がきちんと把握できるようになっています。
そのため組織や上司から何を求められているかが明確になり、取るべき行動がわかりやすくなっています。納得感のある目標設定と評価の醸成が社員のモチベーションを向上させています。
また、※「SMARTの法則」に基づいて設定した目標を、各事業の責任者や人事も交えてすり合わせを行っています。このミーティングは1on1で行い、キャリア形成や上司へのリクエスト、困っていることや業務上での気づきなど、6つのテーマを設定しています。
※SMARTの法則 Specific(具体性)、Measurable(計量性)、Assignable(割当設定)、Realistic(実現可能性)、Time-related(期限設定)という5つの成功因子で構成された、目標達成の実現可能性を最大限に高めるための目標設定方法です。
失敗から学ぶOKR運用のコツ
ここまで見てきたとおり、OKRをうまく導入・運用するためには、全社に目標(O)自体を公開するなどの透明性を保つことや、容易には達成するできない挑戦的な目標設定をすること、フィードバックのスピード(頻度)が重要となります。
一方で、導入しても期待した高い効果に結びつかない理由のほとんどは「挑戦的な目的が設定できていない」「フィードバックが適切に行われていない」「運用段階で透明性が機能していない」の3つに集約されます。
導入・運用するためのコツの一つとして、ムーンショットと呼ばれる、60~70%の達成で成功とみなされる、挑戦的な目標を掲げることが必要です。たとえば人事評価を主目的とした目標管理では、達成できそうにない高い目標は自分の査定が不利になってしまうため、自然と保守的な目標設定になってしまいます。目標が高すぎたり低すぎたりすると、当事者のモチベーションが下がってしまう要因となるわけです。
また、OKRはおのずと細かい内容になりがちですが、設定に多大な時間をかけてメンテナンスするよりも、設定したOKRに対して高頻度でフィードバックを行い、OKR自体をアップデートしていくほうが組織や個人の成長に効果を生み出します。
運用をエクセルなどで共有している場合、細かな数値であればあるほど進捗管理や確認に手間がかかったり、直感的に把握することができないため、結果として透明性があまり機能しなくなってしまいます。
これらの課題を解決するには、まず組織のトップが、目的の重要性を説き、各担当の考える目標と向き合ってすり合わせていくことが大切です。進捗管理のエクセル管理では、数字だけでなくグラフや色などを使用し、直感的にわかるようにしておくことで確認のスピードがあがります。また、管理者個人の裁量でフィードバックするのではなく、組織としてフィードバックする仕組みを作る必要があります。
まとめ
OKRは、シリコンバレーの企業だけでなく、近年では東アジアや日本企業にも広まっています。実際の導入・運用には時間と慣れが必要となりますが、ここまで見てきた企業の導入例やコツを参考にし、まずは導入してみて、状況を見ながら修正を加えていくスピード感と柔軟性が重要になってくるでしょう。
詳しくは、こちら「OKRとは?Google、Facebookも使う目標管理のあり方」記事でご参考にしてください。
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