働き方改革の推進や新型コロナウイルスの感染拡大などの影響も相まって、企業は組織構造や経営体制の抜本的な改革が求められています。そんななか、大きな注目を集めているのが、次世代型の組織モデルと呼ばれるティール組織です。本記事は、新しい時代に即した組織のあり方として注目されるティール組織について詳しく解説します。
ティール組織とは
ティール組織とは、組織に属する人間一人ひとりが経営目標の実現に向けて意思決定を行う、主体的かつ自律的な組織体制を指します。トップダウン型のワンマン経営とは異なり、従業員一人ひとりに意思決定権があるという点が大きな特徴です。ティール組織という概念は、2014年に米国で出版されたフレデリック・ラルー氏の著書「Reinventing Organizations」にて、新しい時代に即した組織モデルとして紹介されました。この本は世界中でベストセラーになっており、日本では2018年に英治出版より「ティール組織」というタイトルで邦訳版が出版されています。
現代社会はテクノロジーの進歩・発展に比例するかのように市場の変化が加速しています。企業を取り巻く環境に柔軟に対応し、市場における競争優位性を確立するためには、組織内部の構造や運用方法を改革していかなくてはなりません。そこで大きな注目を集めているのが、組織に属するすべての人間がルールや仕組みを理解し、独自の知見をもとに意思決定を行うティール組織です。
ティール組織のメリット
ティール組織のメリットとして挙げられるのが、組織に属する人間一人ひとりの主体性や自律性の強化です。ワンマン型の経営体制は権限がトップ一人にあるため、迅速な経営判断によるスピーディかつフットワークの軽い組織を構築できます。しかし、迅速な意思決定によって事業の急成長が見込めるもののブレーキが効きにくく、間違った経営判断を下した際や失敗時の軌道修正が非常に困難です。また、経営者と従業員との意識にギャップが生まれやすく、メンバーの主体性や自律性が育ちにくいというデメリットもあります。
ティール組織はトップダウン型の組織とは異なり、ピラミッド型の指揮命令系統がなく、組織に属する人間一人ひとりに意思決定権が付与されます。もちろん、裁量権に伴って責任は増すものの、従業員の事業活動に対する当事者意識やモチベーションの向上につながる点が大きなメリットです。従業員一人ひとりの主体性を最大限に尊重できるため、企業風土や組織構造の改革がしやすく、社内政治が起こりにくいというメリットもあります。そして、組織内のすべてのメンバーが企業目標の実現に向けて自律的に工夫していく企業文化が醸成されることで、環境や市場の変化に柔軟に対応できるのがティール組織の優れた点です。
ティール組織に至るまでの5つの段階
ティール組織の語源は色名の「Teal」であり、「鴨の羽色」と呼ばれる青緑色の一種です。組織体制には5つの基本的なモデルがあり、それぞれが「レッド(Red)」「アンバー(Amber)」「オレンジ(Orange)」「グリーン(Green)」「ティール(Teal)」と、色名に由来する名称で呼ばれています。ティールと呼ばれる青緑色は、生命が生まれた根源とされる海を象徴する色です。原始的なものからの進化を象徴する色でもあり、レッド型の組織からアンバー型→オレンジ型→グリーン型と発展していくことでティール型の組織へ進化すると言われています。ここからはティール組織に至るまでの5つの組織モデルについて見ていきましょう。
レッド(衝動型)組織
レッド型の組織は、トップが支配的な管理体制を構築する組織モデルです。衝動型組織とも呼ばれ、いわゆる絶対的なワンマン経営者によるトップダウン型組織を指します。レッドは情熱や積極性を表す色ですが、危険や緊張、争いや怒りを象徴する色でもあります。強力なリーダーシップとカリスマ性を誇るトップが力と恐怖で支配し、組織に属する人間は命令に対して従属するという特徴がレッド型と呼ばれる所以です。ワンマン経営者のカリスマ性と衝動的な行動によって一時的な成功を収めるものの、中長期的なビジョンに欠ける傾向があり、継続的な発展は難しいとされます。
アンバー(順応型)組織
アンバー型の組織は、階級や制度といった概念が組み込まれた組織モデルです。いわゆる政府機関や軍隊形式の組織モデルを指す用語であり、順応型組織とも呼ばれます。アンバー型の組織はメンバー一人ひとりに明確な役割が定められており、身分の上下と集団の規範に忠実であることが重要視されるのが大きな特徴です。レッド型の組織と比較した場合、ルールや秩序が保たれた安定的な組織といえますが、階級が重視されるため変化に対して順応しにくい組織モデルといえます。
オレンジ(達成型)組織
オレンジ型の組織は、階層構造によるヒエラルキーは存在しつつも、個人の能力や成果が重視される組織モデルです。アンバー型の組織のような絶対的な階級構造ではなく、身分や役職とは無関係に成果に応じて出世や報酬の獲得ができます。階層構造に流動性があるため、個人の能力が発揮されやすく、市場や環境の変化に対して比較的柔軟に対応できる点がオレンジ型の大きな特徴です。成果が重視されることから達成型組織とも呼ばれており、いわゆる近代国家における企業体制がオレンジ型組織に該当します。
グリーン(多元型)組織
グリーン型の組織は組織に属するメンバーの主体性を尊重し、現場に裁量権を与える組織モデルを指します。階層構造は存在するものの、オレンジ型の組織よりも個々の多様性や主体性が尊重されるという、いわば家族のような組織構造がグリーン型の特徴です。多元型組織とも呼ばれるボトムアップ型の組織モデルであり、目標達成度合いや成果ではなく、コミュニケーション能力や協調性といった人間性が重視されます。グリーン型組織の企業事例としては、すべての従業員を「パートナー」と呼び、優れた顧客体験の提供を重視する「スターバックス」が挙げられます。
ティール(進化型)組織
レッド→アンバー→オレンジ→グリーンと順次発展し、最終的に辿り着くのが進化型と呼ばれるティール組織です。記事冒頭で述べたように、ティール組織は、組織の人間一人ひとりが経営目標の実現に向けて意思決定を行う自律的な組織モデルを指します。そして、レッド型のようなワンマン体制やアンバー型のような厳格や階級構造もなく、従業員一人ひとりに公正かつ公平な意思決定権があるという点が大きな特徴です。要約すると、絶対的な階級構造がなく意思決定権が分散されており、すべての従業員が主体的かつ自律的に事業活動に従事する組織モデルといえます。
ティール組織の実現に必要な3つの要素
ここからはティール組織の実現に必要な3つの要素を見ていきましょう。具体的には「進化する目的」「セルフマネジメント」「ホールネス」という3つの要素が、ティール組織を実現するための設計図といえます。
進化する(組織の)目的
先述したように、ティールと呼ばれる青緑色は生命が生まれる海を象徴する色であり、レッド型の組織から発展していくことでティール型の組織へと進化します。そこで重要となるのが、この組織は何のために存在するのかという問いをすべての従業員が追求することです。かつて進化論を唱えたチャールズ・ダーウィンは「生き残る種は強いものではなく変化に対応できる生物である」という考えを示したとされます。変化の加速する現代社会で企業が生き残っていくためには、組織の企業理念や経営ビジョンを全従業員が共有し、組織体制を変革していかなくてはなりません。
セルフマネジメント
すべての従業員が平等な意思決定権をもつということは、裁量権と同等の責任が伴うことを意味します。そのため、従業員一人ひとりが当事者意識をもち、情報の透明化や意思決定プロセスの権限委譲、人事プロセスの明確化など、制度や仕組みを工夫しながら運営していかなくてななりません。ティール組織を単なる綺麗事で終わらせるのではなく、現実的に運営していくためには、従業員一人ひとりの高いセルフマネジメント能力が求められます。
ホールネス(全体性)
ホールネスとは、英語圏の言葉で「wholeness=全体性・完全性」を意味する用語です。ややスピリチュアル的な意味合いを含む用語ではありますが、組織自体を1つの存在や生命体と捉え、全従業員がその一部であると自覚することといえます。従業員一人ひとりは組織全体のためにあり、また組織は従業員一人ひとりのためにあるというのがホールネスの基本的な概念です。個人の多様性を尊重して受け入れ、一人ひとりが独自性や主体性を発揮し、組織とともに健全な成長と発展を遂げることがティール組織の目指すあり方といえるでしょう。
まとめ
ティール組織は従業員一人ひとりが意思決定の権限をもち、階級型のヒエラルキーを排除した先進的かつ自律的な組織モデルです。もちろん、こうした組織体制を構築するのは簡単なことではありません。しかし、テクノロジーの進歩・発展とともに市場の変化も加速しており、企業は新しい時代に即した組織体制の構築が求められています。
次世代型組織を築く際におすすめしたいのが、ワークマネジメントツール「Asana(アサナ)」の導入です。「Asana」は企業の経営データを統合管理することで、組織全体における業務プロセスを可視化し、業務効率の改善と労働生産性の向上に寄与します。時代や市場の変化に柔軟に対応できる組織体制を構築するためにも、ワークマネジメントツール「Asana」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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