2020年4月から中小企業においても本格に施行され始めた「働き方改革関連法」。事業者のなかには未だにこの法制度についてよく理解していない人もいるかもしれません。そこでこの記事では、働き方改革の概要と必要性について詳しく紹介します。
働き方改革とはどのようなものか
2019年4月1日より、働き方改革関連法案の一部が施行されています(厚生労働省公示資料)。この背景には、日本が直面する少子高齢化による生産年齢人口(15歳〜65歳未満の人口)の減少という問題があります。さらに、出産や育児、親の介護、高齢であることなどを理由に、働きたくても働けない潜在的労働力をいかに活用していくのかも課題のひとつでしょう。
そして、新型コロナウイルス感染拡大まで生じている現在。働き方改革実現は、どの企業でも重要な経営課題のひとつになっています。
主な内容としては、「正社員と非正規社員による待遇の差をなくす・働き方改革長時間労働の見直し・賃金の引き上げ・働き手のニーズに合わせた環境整備」など、どれも従業員の置かれている現状をよりよくしようとするものです。
各企業が、「フルタイムで働きたい」「1日数時間だけ働きたい」など、多様化するニーズに合わせ柔軟な対応を、取ることで、国家全体の労働力不足の解消を目指しています。
また、長時間労働を見直すことにより過労死を防ぎ、休暇を取得しやすい環境づくりを推進するなど、ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の両立)の確保にも力を入れる必要があるでしょう。
このような取り組みが正しく実行され生産性が向上すれば、国民一人ひとりが活躍できる「一億総活躍社会」の実現も夢ではありません。さらに、働き方改革は従業員だけでなく企業にとっても多くのメリットがあります。働きやすい環境づくりに尽力すると社員の満足度がアップし、パフォーマンスの向上につながります。
またそうした企業は、世間から「社員に優しい会社」という良いイメージを持たれるでしょう。その結果、求人応募率がアップし、優秀な人材の確保がしやすくなるなど、複合的なメリットがあるのです。
働き方改革を導入している企業は年々増加傾向にあり、特に大手企業では率先した動きが見られます。しかし、少数精鋭で業務を行う会社や人手不足の中小企業などでは、長時間労働を見込んで就業している場合があり、働き方の見直しによって倒産の危機に追い込まれるところも少なくありません。そのため中小企業などでは、なかなか改革が進まないといった現状があります。
中小企業における働き方改革の必要性
前述したように大手企業で導入が進む働き方改革ですが、中小企業にこそ必要な改革であると言われているのをご存知でしょうか。日本国内における企業数の割合は大手企業が0.3%、中小企業が99.7%と言われています。また、従業者数の割合でみても大手企業が約30%、中小企業が約70%と中小企業が圧倒的に多いことがわかります。(中小企業庁公開資料(2006年のデータに基づく))
日本国内の雇用をほとんど担っているとも言える中小企業が働き方改革を推進しないことには、労働環境はいつまで経ってもよくならないのが現実です。
中小企業では人手不足による人材の確保が急務となっている場合が多いです。優秀な人材確保のためにも、従業員のワーク・ライフ・バランスを重視した働きやすい環境の整備や、潜在的労働力の積極的な採用など、働き方改革の推進が必要なのです。
しかし、慢性的に人手が不足している会社では、働き方改革を導入することでかえって倒産してしまうのではないかと危惧する声もあります。残業規制により今まで受けていた仕事がこなせない、賃金を引き上げることで社員を削減せざるを得ないなど、中小企業が抱える問題は山積みです。
働き方改革のなかには実施が義務化されているものがあり、導入に踏み切れず違反した場合、罰金刑や懲役刑などの罰則が科されるため注意が必要です。では、どのようにして働き方改革を進めていけばよいのか、次の章で詳しく説明します。
中小企業がするべき働き方改革
ここからは中小企業がするべき働き方改革について、2019年4月から順次進められている「働き方改革関連法案」をベースに解説します。なお、中小企業とは資本金(出資金)の総額または常時使用する従業員の数で決まります。以下にまとめた中小企業の定義のうち、どちらか一方または両方とも当てはまる場合は中小企業です。
※働き方改革関連法の施行時期は、企業の大きさや項目ごとに異なります。最新の情報は自身でご確認ください。
◯小売業
資本金または出資金の総額:5000万円以下
常時使用する従業員の数:50人以下
◯サービス業
資本金または出資金の総額:5000万円以下
常時使用する従業員の数:100人以下
◯卸売業
資本金または出資金の総額:1億円以下
常時使用する従業員の数:100人以下
◯製造業・その他
資本金または出資金の総額:3億円以下
常時使用する従業員の数:300人以下
上記のいずれにも当てはまらないものを働き方改革関連法では大企業と定義しています。
労働時間や休暇に関すること
◯残業時間(時間外労働時間)の上限規制(義務)
年間:360時間(特別な事情がある場合は720時間以内)
月間:45時間
※月の残業時間が45時間を超えてもよいのは年間で6ヶ月まで
※違反した場合、30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役が課されます。
◯年次有給休暇付与の義務(義務)
10日以上の年次有給休暇がある従業員に対しては、年間で最低5日間の有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇のときは、従業員の意向を尊重した上で使用者が指定します。また、従業員ごとの年次有給休暇に関する記録を作成し、3年間保管してください。
※違反した場合、30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役が課されます。
◯労働時間の客観的な把握(義務)
使用者は従業員の労働時間を適切かつ客観的な方法(クラウドによる勤怠管理・タイムカード・退勤管理システムなど)で把握しなければなりません。なお、従業員には、裁量労働制(みなし労働時間制)の適用者や管理者など、すべての従業員が含まれます。
また、労働時間を記録したデータは3年間保管しなければなりません。この記録がないと後述する割増賃金引き上げのための計算ができなくなります。
※違反した場合、30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役が課されます。
◯勤務間インターバル制度(努力義務)
使用者は従業員の健康と安全を守るため、勤務終了後から翌日の出勤までの間に十分な休息時間を与えるよう努めましょう。過密スケジュールにより前日の疲労が残った状態で仕事をするとパフォーマンスも低下します。従業員のワーク・ライフ・バランス向上を目指す意味でも、使用者が取り組むべき項目と言えるでしょう。
※この制度は義務ではないため罰則などはありません。
賃金や待遇に関すること
◯月60時間を超えた残業の割増賃金の引き上げ(義務)
2023年4月より、1ヶ月に60時間以上残業した場合、60時間を超えた分の残業代に対して一律50%以上の割増賃金率が適用されます。なお、60時間以内の割増賃金率は一律25%以上です。
※違反した場合、30万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役が課されます。
◯同一労働同一賃金制度(義務)
使用者は従業員の雇用形態(正規または非正規)に関わらず、同じ仕事をしている従業員に対し同一の賃金を支払わなくてはなりません。
※違反した場合の罰則はありません。
働き方の多様化に関すること
◯高度プロフェッショナル制度
特定高度専門業務を行う従業員に対する報酬を、労働時間ではなく成果によって決められる制度です。この手続きを踏むことで、従業員の生活残業(意図的な残業)を防ぎ、残業代を削減できます。また、従業員にとっても就労時間をコントロールしやすいなどのメリットがあります。なお、厚生労働省によって特定高度専門業務となり得る業務として、「金融商品の開発の業務」など5つの例があげられています。また年収が1,075万円以上の人が対象です。(※)
詳しい条件などは、次の資料でよく確認してみてください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000497408.pdf(※P9)(P11)
◯フレックスタイム制の拡充
フレックスタイム制(所定労働時間で始業・就業時間を従業員が決める制度)を導入して、従業員のワーク・ライフ・バランス向上に貢献しましょう。また、多様化する従業員のニーズに応えられるよう、テレワークの導入を検討するのもよいでしょう。
社員の健康に関すること
働き方改革の要として、従業員のメンタルヘルス対策があります。産業医や産業保健機能をこれまで以上に強化し、労働時間や雇用形態に関係なく従業員が医師による指導を受けられる体制づくりが必要です。
中小企業の働き方改革を進めるときのポイント
続いては中小企業が働き方改革を進める際のポイントについて紹介します。
ガイドラインや参考情報の確認
「働き方改革について詳しく知りたい」「わからないことを相談したい」という人は、各都道府県に設置されている「働き方改革推進支援センター」に相談してみましょう。相談は窓口・電話・メールなどで受け付けています。
厚生労働省 働き方改革特設サイト「働き方改革推進支援センター連絡先一覧」
助成金の利用
働き方改革では条件を満たす企業に対し、働き方改革取り組みにかかった費用の一部を助成する助成金制度を設けています。利用できる助成金がないか、支給の要件や応募期間を厚生労働省のサイトで確認してみましょう。
厚生労働省 働き方改革特設サイト「助成金のご案内」
事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)の引上げを図るための業務改善助成金や、非正規雇用従業員の企業内でのキャリアアップを促進するキャリアアップ助成金などが、設けられています。
ツールの導入
働き方改革を促進するためにITツールの導入を検討しましょう。具体的にはテレワークのためのWeb会議ツールやチャットツール、従業員の労働状況を把握するための勤怠管理ツールなどが挙げられます。
そんなツールのひとつである「Asana(アサナ)」は、タスク管理・チャット機能・カレンダー機能など、テレワークに必要なさまざまな機能を提供するワークマネージメントプラットフォームです。プロジェクトごとにタスク管理する仕組みを採用しており、加えて、タイムライン形式で情報を随時確認可能。
Asana上ですべての業務を完結できるため、テレワークによる勤怠管理を、スマートに支援します。
まとめ
中小企業が働き方改革に取り組むためには、解決しなければならない問題が山積みです。まずは助成金などを上手く活用しながら義務化された項目から取り掛かり、本格施行に向け体制を整えるのがよいでしょう。従業員のワーク・ライフ・バランス向上のために「Asana」のようなアプリ完結型のITツールを導入し、多様な働き方に寄り添う環境づくりに努めましょう。
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