働き方改革で日本人の働き方が見直されている中、「ワークライフバランス」というキーワードに注目が集まっています。しかしながら、その意味を誤解されている方や、実践に至っていない企業も多いようです。この記事では、ワークライフバランスの正しい意味やメリット、どのように取り組むとよいかの実践例を紹介しています。
ワークライフバランスとは
ワークライフバランスとは、名前の通り「仕事と生活のバランス」を重視する概念です。
ただし、バランスという言葉に引っ張られて、間違った解釈をする方も中にはいます。「仕事とプライベートのどちらか一方を犠牲にして、もう一方を優先する」といった意味合いのものではないのです。
そこで、まずはワークバランスとはどんな意味を示す言葉なのかについて、簡単に解説します。
ワークライフバランスの意味
ワークライフバランスは、「仕事と生活の調和」を意味するキーワードです。ただ両方の均衡がとれているだけではワークライフバランスが実現していることにはなりません。
それぞれが相乗効果で高められている状態、すなわち、「よりよい生活を送ることで、仕事への活力アップや生産性の向上を図る」「効率的に仕事をすませることでプライベートの時間を増やす」というように、両者が互いに良い影響をもたらし合っている状態を表します。
決して従業員が好き勝手にプライベートと仕事のバランスを設定してその通りに生活していくことではないのです。
ワークライフバランスは、「ファミリー・フレンドリー」と「男女均等推進」という2つの概念で成り立っています。
ファミリー・フレンドリーとは、仕事と家庭生活の両立を支援する考え方です。政府は、育児や介護のための休業制度取得支援や多様な働き方の実現など、従業員の働く環境を整えている企業を「ファミリー・フレンドリー企業」(現・均等・両立推進企業表彰企業<ファミリー・フレンドリー企業部門>)として、平成11年より毎年表彰しつづけています。
一方、男女均等推進は、男女の性差で区別されることなく、平等にスキルを評価され機会を与えることを目的とした考え方です。
男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから誕生した現在、当時と比べれば、確かに募集や採用、配置、昇進といった面において男女差による不公平感は解消に向かいつつあります。
しかしながら、まだまだ叶えられていない部分は多いです。そのため、男女均等となる環境づくりを推進していくことがすべての企業に求められています。
ワークライフバランスを達成するためには、この2つを実践していくことが急務なのです。
ワークバランスが注目される背景
1990年代に入って日本に入ってきたワークライフバランスという考え方は、1980年代にアメリカで誕生したものです。
戦後の好景気に沸く日本において、従業員はすべてを企業に捧げるべきという考え方が理想とされていました。
従業員が働けば働くほど企業の業績は上がり、その分、給与やボーナスもしっかり支払われていた時代です。正社員を中心とした終身雇用や年功序列制度が敷かれ、従業員も経済的な豊かさを得るため、企業に依存していました。
ところが、バブルが弾けた90年代に入ると、それまで当たり前に思われていた企業形態が崩壊します。引く手あまただった求人も打ち切られ就職氷河期が到来、大企業では千人単位でのリストラまで行われました。
終身雇用や年功序列も成果主義にとって代わられ、以降、多様な働き方が模索されるようになります。このように、それまで信じられていた企業の在り方が180度変わってしまったのです。
夫が専業主婦の妻を養うといった家庭の様相も、共働き夫婦が当たり前となり、現在では少子高齢化による働き手の減少から、女性と高齢者にスポットがあてられるようになりました。
慢性の人手不足を抱える企業では、従業員一人当たりの負担は大きくなる傾向にあります。仕事が終わらず夜遅くまで残業し、結果、家族と過ごす時間が減り、リフレッシュもできない、その上、女性は子育てや介護に追われる…と、ますます状況は悪化するばかりです。
こういった悪循環から従業員を救い、ひいては企業の生産性を向上させるために、ワークライフバランス実現の重要性が注目されるようになったのです。
ワークライフバランスがもたらすメリット
ワークライフバランスの実現は、雇用主側・従業員側それぞれにメリットをもたらすものです。
まず従業員側の観点でみると、仕事が忙しくて家庭を顧みることができないといった状況が解消される上、育児や介護の時間がとれるようになります。
またプライベートが充実してリフレッシュできたり、スキルアップの時間がとれたりするのもメリットです。結果的に、仕事をする活力もうまれます。
一方、雇用主側からみると、女性をはじめとした労働力を確保できることや、従業員のモチベーション・生産性のアップといったメリットがあげられます。
無駄な残業時間が削減されれば、人件費も抑制されます。その他、職場環境が良くなることで離職率の低下につながり、そのことから企業イメージの向上という効果も期待できるでしょう。
ワークライフバランス実現への取り組み方
ワークライフバランスによって様々なメリットが得られますが、その効果を把握していたとしても、なかなか取りかかれていない企業も多いことでしょう。
ここでは、よく採用される取り組みの例を紹介します。社内で採用できるものがないか、参考にしてみてください。
休暇制度の重視
有休休暇とは、取得することで従業員の心身におけるリフレッシュを促すことを目的とした従業員に与えられている権利です。
ところが、職場の雰囲気いかんでは利用しづらいといったことがあるのも現実です。そのため、従業員が正当に有給休暇を利用できる職場の環境づくりは急務となります。
有休は1日ごとの取得でなくとも、時間・半日単位の活用でも有効的です。ただし、企業側から時間・半日単位の有休を強制することはできません。
有休の他にも従業員が満足を得られる休暇を用意してもよいでしょう。一例として、従業員のリフレッシュを目的とした「リフレッシュ休暇」や病気療養のための「病気休暇」があげられます。
勤務時間の短縮
短時間勤務制度は、勤務時間を短縮することで、育児・介護などの理由で通常勤務が困難な従業員の労働環境を整えるための制度です。
短時間勤務制度を広く利用してもらうためには、従業員にあわせた柔軟な勤務形態を考えておくといでしょう。
たとえば勤務時間や短時間勤務をする日をある程度自由に選べたり、1週間のなかで出社する日数を減らして在宅勤務に切り替えたりする方法もあげられます。ただし、他の従業員の負担が重くなることもあるため、社内での理解や協力が必要となります。
働き方の多様化
育児・介護中を含め、多くの従業員が働きやすい職場を作るために、多様な働き方を認める企業が増えています。たとえばフレックスタイム制の導入も、その事例の1つです。フレックスタイム制とは1ヵ月の総労働時間を定めた上で、その範囲で従業員が始業・就業の時刻を自分で決められる制度を指します。これにより幼い子供がいる従業員が、子供を保育園へ送ってから出社するなど、自身の都合で働く時間を設定することができるようになります。
また育児や介護で自宅にいる必要がある従業員など向けに、自宅で仕事ができる「リモートワーク」を導入している企業もあります。リモートワークが可能となれば、やむを得ない理由で休業中の従業員を仕事に復帰させやすくなるといった効果もあります。
その一方で外部からの作業となるため、セキュリティはもちろんのこと、どのようにコミュニケーションや情報共有をするかといったシステム上の整備をしなくてはなりません。
福利厚生制度の充実
福利厚生制度により従業員の私生活を応援することも、ワークライフバランスの実現にとっては有効です。
たとえばレジャーや宿泊施設、フィットネスなどの利用補助(割引など)を用意したり、従業員が何かしらの資格を取得する際の奨励金を提供したりといった例があげられます。
従業員にとって魅力のある福利厚生を用意することで、満足度をアップさせ離職率を抑制できるのはもちろんのこと、新たな人材を獲得しやすくなるといった効果も期待できます。
まとめ
ワークライフバランスとは、仕事と家庭生活のいずれかを重視する概念ではなく、お互いに良い影響をもたらしあい相乗効果を生み出す状態を指しています。生活を充実させることで仕事への活力が生まれ、仕事の生産性・効率性も高まります。仕事の効率化が進めば長時間労働が抑制され、プライベートの時間も増やせるでしょう。
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