企業における心理的安全性とは? 導入メリットについて解説

 2022.07.04  ワークマネジメント オンライン編集部

職場の労働環境を向上させる上で、近年「心理的安全性」という概念が注目されています。本記事では、心理的安全性の概要から、心理的安全性が高いことで企業が得られるメリット、実際に心理的安全性を高める方法までを解説します。

企業における心理的安全性とは? 導入メリットについて解説

心理的安全性について

「心理的安全性」とは、職場において自身の考えや気持ちを素直に表明しても、チームメンバーとの関係が壊れることなく、誰に対しても安心して発言できる状態を指します。これは、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱したもので、現在はビジネスに関する心理学用語の一つとされています。

また、エドモンドソン教授は、心理的安全性を「チームにおいて発言することを恥じたり、他のメンバーから拒絶されたり、罰を与えられたりしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクを取るのに安全な場所であるという信念がメンバー間で共有された状態」と定義しています。

さらに心理的安全性が高い職場の特徴として「お互いを尊敬している」「問題や不安が生じてもメンバー全員で課題に取り組むことができる」「1人ひとりがありのままでいられる」ことなどを挙げ、心理的に安全な職場を作るために心理的安全性が必要であることを主張しています。

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心理的安全性が注目された背景

近年、心理的安全性への注目度が高まっている理由としては、Googleが2016年に発表した「心理的安全性が生産性を高める」という研究結果が大きく関係しています。Googleは、2012年から4年間ほどかけて「プロジェクト・アリストテレス」という研究を行っていました。これは、成功しているチームに必要な条件を探るもので、社内にある数百のチームを対象に、より生産性の高い働き方をしているチームを調査するものでした。その結果、心理的安全性の高いチームに所属するメンバーは、「離職率が低い」「他のメンバーが発案したアイデアをうまく利用している」「収益性が高い」「マネージャーから評価される機会が2倍多い」という事実が明らかになりました。また、チームメンバーの能力や働き方よりも、他者への気遣いや尊重、そして何より臆することなく発言できるといった心の持ちようが生産性に大きく影響を与えることも明らかになりました。

心理的安全性が低い際に生じる不安

一方で、エドモンドソン教授によれば心理的安全性が低い職場では以下の4つの不安が挙げられるといいます。

無知だと思われる不安(IGNORANT)

周囲に「そんなことも知らないの?」と思われるのが怖いために、質問や疑問が浮かんだとしても誰かに尋ねることをためらってしまう状態です。

無能だと思われる不安(INCOMPETENT)

周囲に無能だと思われたくないために、知らないことについて知っているふりをしてしまう、仕事でミスやトラブルが発生した際に適切な報告、連絡、相談がなされない状態を指します。

邪魔をしていると思われる不安(INTRUSIVE)

自分が発言することで会議などの進行を妨げたり、チーム運営の邪魔をしたりするのではないかと思い、メンバーが積極的に意見を出し合わない状態を指します。

ネガティブと思われる不安(NEGATIVE)

会議などで改善すべき点が思い浮かんでも、「相手の意見を批判している」とネガティブに受け取られることを心配して発言できないような状態を指します。

心理的安全性がもたらすメリット

心理的安全性が高い場合に企業にもたらされるメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

チーム内でのコミュニケーションが活発になる

心理的安全性が高くなると、自分のアイデアや悩みなどを口に出しやすくなります。自身の発言が尊重され、頭ごなしに否定されることはないと確信が持てるため、立場の上下や経験量、知識量などに関係なく意見が出やすくなり、結果的にチーム内でのコミュニケーションが活発になります。それによって業務が円滑に進むようになれば、生産性の向上にもつながっていきます。

チームメンバーのワークエンゲージメントが高まる

ワークエンゲージメントと心理的安全性は相関関係にあります。ワークエンゲージメントとは、「仕事にやりがいや誇りがある」(熱意)、「仕事に熱心に取り組む」(没頭)、「仕事中いきいきとしている」(活力)の3つが揃った状態のことをいいます。心理的安全性の高い職場は、自分の意見を主張しやすく、質問もしやすい環境であるため、ストレスが溜まりづらく、仕事に対してスピーディーに理解を深めることができます。

そして仕事に対しての理解が深まるほどやりがいを感じやすくなり、没頭して取り組めるようにもなっていきます。その結果、いきいきと働くことにもつながります。このようにワークエンゲージメントの3要素が揃った状態であれば、その職場は心理的安全性も高いことが窺えます。

個人のパフォーマンスが向上する

心理的安全性の低い職場では、能力やスキルのある人でも発言を控えてしまい、上司の指示通りにしか動かないというケースが多々あります。反対に心理的安全性が高まることで、誰もが平等に意見を発することができるため、新しいアイデアが生まれやすくなります。さらに安心して仕事に集中できることで、個人のパフォーマンスも向上していきます。また、一人ひとりが仕事に貢献しているという実感が湧けば、それが仕事へのやりがいや自信にもつながります。

離職率が低くなる

心理的安全性が高くなることで、職場での居心地もよくなります。この場合の居心地のよさとは、成長意欲の低いぬるま湯的なものではなく、自分の考えを心置きなく発言でき、持てるスキルや能力を存分に発揮できる状態のことです。それによって仕事に精力的に取り組めるようになれば、離職率が低下し、人材が定着しやすくなり、優秀な人材に長く働いてもらうことが可能になります。

チームの心理的安全性を高める5つの方法

ここでは、チームの心理的安全性を高める5つの方法をご紹介します。

心理的安全性を体験できる仕組みをつくる

新人や若手社員は、発言したくてもできないような状態に陥っていることがあります。また、単純に発言の場が設けられていない場合もあるかもしれません。そこで定期的にミーティングを行ったり、社員同士がフランクに接せられるような場を設けたりして、まずは業務以外の場所で心理的安全性を体験できる仕組みを作っていくとよいでしょう。リアルの場だけでなくオンラインでのやりとりも有効です。その際は堅苦しい雰囲気ではなく、雑談のような気軽な雰囲気づくりを心がけましょう。そうすることで、従業員は発言することに対する不安感を徐々に減らしていけます。

多様性を認め、意見のハードルを下げる

「出る杭は打たれる」というように、日本社会では個性が強く出過ぎると周囲から敬遠されたり、少しでも人と違ったことをすると白い目で見られたりするケースが少なくありません。しかし、心理的安全性を高めるには、まずは人それぞれの多様性を認めることが大切です。その個性がのちのち会社や組織にイノベーションをもたらす可能性もあります。多様性が認められれば、そこに所属する全員は職場に対して「自分は認められている」という安心感を得やすくなり、発言することに対しての不安も感じにくくなります。結果としてメンバー同士がお互い尊重し合うような職場を作りやすくなるのです。

組織の透明性を上げる

組織の透明性を上げることも心理的安全性を高める上で欠かせません。仕事内容や評価基準を明確化するだけでなく、自身の出した意見がどのように扱われているのかが見えるようにする取り組みも効果的です。例えば会議の時には、アイデアや意見を出した従業員に対して、きちんとフィードバックするようにする、従業員の意見を募った際は結果をきちんと公表するようにするといった取り組みが挙げられます。そうすることで、1人ひとりの意見にきちんと向き合ってくれる会社だということが従業員にも伝わりやすくなります。

1on1や雑談で信頼関係を築く

1on1とは、上司(マネージャー)と部下が1対1で行う定期的な面談のことです。このような1on1や雑談できるような場を定期的に設けることで、違いの信頼関係を築きやすくなります。上司も部下がどんなことに悩んでいるのか、仕事にやりがいを感じられているかどうかを把握しやすくなります。その上で、上司は可能な限り部下の悩みや不満を解消できるように努めたり、部下の得意分野での業務を多く任せたりすると、心理的安全性がより高まっていくでしょう。

アサーションを取り入れる

アサーションとは、1人ひとりの違いを認め合い、気持ちを尊重しながら自分に正直なコミュニケーションをするためのスキルのことです。元々は心理療法として用いられていましたが、現在は企業などでも積極的に行われています。例えば、相手の主張に対して何か意見したい時には、相手の主張を非難するのではなく、「私はこう思う」と、主語を「私」にすることで角がなく自分の主張を率直に相手に伝えられるようになります。このようなアサーショントレーニングを積むことで、円滑な人間関係を築きやすくなります。相手と自分の考えに違いが生じた時には、自分の中に葛藤が生じたり反論したりしたくなったり、また時には言いたいことがあってもぐっとこらえてしまったりするものです。しかし、そんな時こそ冷静になって、お互いの主張を言い合い、認め合うことが大切です。

まとめ

今回は企業における心理的安全性について紹介しました。組織の心理的安全性を高めるための土台づくりとしては、部署ごとの連携やチームワークも大切になってきます。連絡を密に取ることで、信頼関係も築きやすくなるでしょう。

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