今日、企業は急激に変化する市場環境に対応するため、大規模な変革が求められています。ここでは、企業変革力とは何なのかに始まり、変革に求められるリーダーシップ、変革を成功させるための8段階のプロセスとそれを進める際の注意点まで解説しています。
企業変革力とは
今日、企業は社会情勢や環境の急変に直面しており、企業が今後成長を遂げるためのキーポイントは大規模な変革だといわれています。しかし、多くの企業が変革に失敗し、その存続を危ぶまれる事態に陥る場合すらあるのが実情です。
リーダーシップ論で名高い経営学者のジョン・P・コッターの「企業変革力」(邦題)はロングベストセラーであり、企業変革の失敗が多い点に着目、その原因について調査し、さらに変革を成功させるプロセスを説いた本です。今まさに企業に求められるのがこの「企業変革力」といえます。
企業変革力が注目される背景
この企業変革力が注目されるようになったのは、時代の変化に関係しています。1991年のバブル崩壊後、日本は「失われた20年」とよばれる経済の低迷する時代に入りました。そして大企業も経営が悪化、「リストラ」という言葉が当たり前のように聞かれるようになり、企業は経費削減をはじめとした企業変革を余儀なくされていったのです。
そしてその後も新しい環境に適応するために、企業の変革は現在進行形で進んでいるのです。
リーダーシップとマネジメントの関係
「リーダーシップ」と似た言葉に「マネジメント」があり、ジョン・P・コッターはそれぞれの役割をこう述べています。
- リーダーシップ:組織をよくするための変革を実現する能力
- マネジメント:既存システムの中で環境に対応し課題を達成させる能力
従来の企業経営においてはマネジメントによる統制が重視されていたのに対し、企業変革の時代ではリーダーシップが必要だと強調しています。安定した時代なら「マネジメント」が有用ですが、変化が激しい時代では「マネジメント」による統制では企業の存続が厳しくなります。
つまり、環境変化の大きな今日、企業には将来への見通しを示し、それに向かって既存のシステム改善を行う力が求められており、それがリーダーシップなのです。ただ、マネジメントが有用でないわけではなく、どちらも企業経営には同等に必要なものだとも言っています。
変革を成功させるための8段階のプロセス
企業変革を達成するためのプロセスを、ジョン・P・コッターは、「企業変革力」の中で8段階に分けて書いています。
危機意識の共有と徹底
企業変革の第1段階では、企業の問題点を洗い出します。それは、危機意識と将来の明るいビジョンを共有しなければ、企業変革は成功しないからです。
一例を挙げるなら、企業を取り巻く環境である市場と競合を分析することで、その強みと弱み、発展の機会と衰退の危機を明らかにします。そうして得た具体的なデータを示し、企業全体に十分な危機意識を浸透させ、共有するのが重要ということです。
変革を推進するチームを形成する
企業で十分な危機意識を共有できたら、変革推進のチーム作りが必要です。企業変革は経営者だけではできず、従業員を巻き込んでいく必要があり、そのチームは強力なメンバーで構成されなければなりません。
そして、企業変革が成功する場合は、そのプロセスが進展するにしたがって、変革推進チームが拡大していくのも注目すべきポイントです。
簡潔で明確なビジョンを設定する
企業変革は、危機意識の共有だけでは足りません。簡潔で明確なビジョンと、それを実現できるリアリティのある戦略を立てることが不可欠です。説明に時間がかかり、理解困難なビジョンでは、企業内に浸透させるのは難しいといえます。
ジョン・P・コッターは、ビジョンを「将来のあるべき姿を示すものであり、なぜ人材がそうした将来を築くことに努力すべきなのかを明確に、または暗示的に説明したもの」と示しています。長くても5分以内で説明できて、わかってもらえるのがビジョンです。
ビジョンの徹底
企業変革のビジョンとそれを実現する戦略が決まったら、それを企業内に共有します。企業変革の中心となる変革チームが、あらゆる手段を尽くして従業員とのコミュニケーションを図り、ビジョンと戦略の共有を目指します。その姿を何度も目にすることで、従業員の意識の中に自ずとビジョンが浸透していくのです。
また、変革チームのメンバーが実際にビジョン実現のための行動をとり本気度を示すことも、従業員への周知徹底につながります。
ビジョン実現のために障害を取り除く
変革のビジョンが企業内に浸透したら、共有した変革ビジョンに基づき従業員が行動しやすくなるように環境を整えていきます。例えば、制度変更を行うことで「制度に反する可能性があり行動しづらい」といった障害を取り除くことが可能です。
そうすることで、従業員が変革に向けてのアイデアを自発的に考えたり行動しやすくなったりもします。
短期的成果を上げるために計画と実行
企業変革のプロセスが進んでも成果が見られないとなると、企業内の変革への士気が下がってしまいます。そのため、短期で成果を生む計画を立て、実際に成果を出してみせることが必要です。成果の内容の具体例は、新製品の開発・顧客満足度のアップなどが考えられます。
また、実際に成果を挙げた従業員に報酬を積極的に与えることも従業員のモチベーション向上につながり、変革実現に効果があります。
成果の定着とさらなる変革の実現
この段階では得た信頼を追い風に、成果の一層の定着を図ります。そして休むことなく新たな変革に着手し、さらには組織改編や制度変更なども見直しを続けることが大切です。
また、変革に貢献する人材を見いだし、採用と教育を同時に進めることも重要です。先手先手の変革が企業の成長を高めていきます。
新たなアプローチを根付かせる
「企業変革の成功は、5年から10年の期間で考える」ことをジョン・P・コッターは主張しています。企業変革を長く根付かせるには、企業の現在の成功がたまたま起こったのではなく変革によるものだと明確に示し、従業員にそれをしっかりと理解させねばなりません。
また、変革を後々まで定着させるために、次世代リーダーの育成と後継者への引き継ぎも非常に大切になってきます。引き継ぐ際は特に上層部の力をもつ人たちに、ここまで築き上げた方向性が曲がってしまわないように、しっかり伝えきることが肝心です。
変革の8段階のプロセスを実行する際の注意点
企業変革の8段階を実行するとき、いくつかの注意点があります。
まず求められるのは強いリーダーシップであり、これがなければ変革は成り立ちません。変革を推し進める強い意志を常にもち、各段階で生じる障害や難しい決断を迫られる場面にも断固として立ち向かわねばならないのです。
次に大切なのは企業変革を手順通りに実施することです。手順前後はいけませんが、もちろんそれぞれの段階が独立しているわけではなく、場合によっては同時進行もあり得ます。
そして、これまでも述べた通り変革は根付かせていくものなので、終わりはありません。そのため、気を抜くことなく8段階のプロセスを繰り返し行うことが重要です。
まとめ
今日、企業が変化する市場環境に対応して競争優位性を確立させるには、企業変革の継続と変革力の強化が求められます。そして企業変革を実現させるには、強力なリーダーシップと適切なプロセスを経ることが肝心なのです。
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