企業が経営ビジョンや事業目標を達成するためには、定量的なデータ分析に基づくロジカルな目標設定が欠かせません。そこで重要となるのが、中間目標の達成度合いを評価する「KPI」の設定です。本記事では、KPIの概要や具体的なメリットを解説するとともに、設定時におさえておきたい重要なポイントをご紹介します。
KPIとは何か?
「KPI」とは「Key Performance Indicator」の略称で、日本語では「重要業績評価指標」や「重要達成度指標」と訳されるマーケティング用語です。ビジネスシーンでは、組織レベルおよび個人レベルの目標達成に向けて、さまざまな指標が用いられます。そのひとつがKPIであり、目標設定において非常に重要な役割を担う指標です。
KPIの概要とメリット
KPIは「最終目標を達成するための道しるべ」であり、目標達成に必要な中間目標の達成度合いを評価する指標です。KPIを適切に設定することで、最終目標の達成に至る道筋が具体的な数値やイメージとして定量化できます。目標達成に向けて必要なアクションが明確化されるため、部門やチーム全体の相互理解が深まり、全社横断的な業務連携が可能になります。さらに、個人領域におけるKPIを設定することで、従業員一人ひとりが自分に求められる役割を明確化できる点も大きなメリットです。
またKPIは、公正かつ公平な人事評価制度を確立するうえで欠かせない指標です。従業員の業績貢献度は、目に見える数字だけで推し測れるものではありません。組織への貢献意識や業務に対する労働意欲、能動的に行動する積極性やチームの和を保つ協調性なども重要な評価基準です。従業員の目標管理能力や目標達成度合いなどを評価基準に取り入れることで、より公正な人事評価制度を整備できます。
KPI(中間目標)とKGI(最終目標)
「KGI」は「Key Goal Indicator」の頭文字をとった略称で、「重要目標達成指標」と訳されるマーケティング用語です。KPIが中間目標の達成度合いを測るものなら、最終目標の達成度合いを定量化する指標がKGIです。つまり企業や部門、あるいは従業員一人ひとりの最終目標がKGIであり、その実現に必要な工程の達成度合いを測る指標がKPIといえます。
たとえば、「今期のECサイト事業における売上高を前年比120%にする」という目標をKGIに設定したと仮定しましょう。これを達成するためには、自然検索流入数の増加や再訪問率の向上、リスティング広告のコンバージョン率や直帰率の改善といった、複数の中間目標が必要です。KGIとKPIは2つで1つの関係性であり、最終的なゴールであるKGIを頂点として、その達成に必要なKPIをツリー型に落とし込むのが一般的な設定方法です。
OKRとは?
「OKR」とは「Objective and Key Result」の略称で、企業や個人のゴールと向かうべき方向性を明確化するマネジメント手法です。「Objective(目標)」を具体化し、何をもって「Key Result(成果指標)」とするのかを定める目標管理のフレームワークといえます。「達成したい目標」と「どのように目標を達成するのか」を管理し、企業および従業員が向かうべき方向を定めることが、OKRの主な役割です。
OKRは世界最大手の半導体メーカー「Intel」で生み出されたマネジメント手法であり、組織レベルから個人レベルまで、それぞれの領域で設定するのが一般的です。組織と個人が掲げるゴールと方向性を管理することにより、目標達成型の組織を構築できるというメリットがあります。日本での導入例は少ないものの、「Asana」のようにOKRの設定機能を搭載したソリューションが普及しつつあります。
あらためて、KPI・KGI・OKRとの違いを押さえよう
- KPI(Key Performance Indicator)
ゴールへ辿り着くために必要な各工程の達成度合いを測る中間数値指標 - KGI(Key Goal Indicator)
経営ビジョンや事業目標を達成するうえで、何をもってゴールとみなすのかという最終目標を定量化した指標 - OKR(Objective and Key Result)
達成すべき目標と成果指標を可視化し、組織と個人のゴールを紐付ける目標管理手法
KPI設定時は「SMART」を意識
KPIの作り方として重要となるのが、「SMARTの法則」を意識した設定です。これは、「Specific(明確性)」「Measurable(計量性)」「Achievable(達成可能)」「Relevant(関連性)」「Time-bounded(期限)」という5つの概念の頭文字をとった目標管理モデルです。1981年にコンサルタントのジョージ・T・ドラン氏により提唱されたフレームワークであり、この法則に沿ってKPIを設定することで、効率的かつ戦略的なKPIを策定できます。
- Specific(明確性)
設定したゴールが明確かつ具体的であるほど、組織や個人の進むべき方向が明瞭化されます。 - Measurable(計量性)
具体的な数値として計測できる目標であれば、ゴールへ至る達成度合いを定量的に分析できます。 - Achievable(達成可能)
現実離れした目標は達成率の低下を招くため、希望的観測や主観的な願望を排除した、客観的かつ現実的な目標設定が必要です。 - Relevant(関連性)
企業理念や経営ビジョンの実現、または組織の発展や従業員の成長につながる目標でなくてはなりません。 - Time-bounded(期限)
期限という制約を設けることで、ゴールに辿り着くまでに必要なプロセスを逆算的に計画できます。
KPI設定時のポイント
ここからは、KPIを設定するうえで押さえておきたい重要なポイントを解説します。
まずはKGIを決める
適切なKPIを設定するためには、まず企業や個人の最終的なゴールであるKGIの策定が必要です。これが曖昧な状態では、目標を達成するためにどのようなプロセスが必要になるのかを可視化できず、具体的なKPIを策定できません。KPIはあくまでも中間目標の達成度合いを測る指標であるため、まずは企業理念や経営ビジョンに基づくKGIを明確にする必要があります。
また、KPIの策定において重要なポイントのひとつが、KGIから逆算して設定することです。基本的に1つのKGIを頂点として、その達成に必要な各プロセスをツリー型に細分化し、数値や言語に落とし込みます。KGIが複数あると、KPIとの関連性が曖昧になり、進むべき方向が不明瞭になります。したがって、KGIでは具体的かつ定量的な目標を1つのみ設定しなくてはなりません。
具体的なデータを基に、定量的なKPIを立てる
KPIにおいては、データ分析に基づくロジカルな指標の設定が必要です。たとえば、ある営業パーソンのKGIが「新規顧客の開拓」と仮定した場合、最終的なゴールは1つでも、そこに至る道筋には「名刺交換」「アポイント獲得」「訪問」「提案」といった、複数のプロセスが存在します。この各プロセスをKPIに落とし込むためには、「アポイントを〇〇件獲得する」「見込み客に○○件訪問する」といった具体的な数値目標が不可欠です。
そして、具体的な数値目標として落とし込むためには、その根拠となるデータも必要です。そのため、基幹情報を管理する「ERP(Enterprise Resource Planning)」、顧客情報を管理する「CRM(Customer Relationship Management)」などのソリューションを用いて、顧客の潜在需要や市場動向、製品開発情報や営業活動などを分析しなくてはなりません。さまざまな観点から市場や顧客を定量的に分析し、その結果に基づいて具体的な行動指標と数値指標を設定しましょう。
各プロセスがツリーを形成するよう意識
最終目標と中間目標を具体化できたなら、KGIを頂点として、その達成に必要な各プロセスをKPIツリーに落とし込みます。KPIツリーを作成することで、KGI達成に至るプロセスの全体像を俯瞰的な視点から把握できます。ここで大切なのは、すべてのKPIがKGIの実現に向けて足並みをそろえていることです。「すべてのKPIはKGI実現へ向かうツリー内のステップである」という点を意識して設定しましょう。
まとめ
最終的なゴールは1つでも、そこに至るプロセスには無数のルートと可能性が存在しています。「ゴールに辿り着くために何をすべきか」という抽象的かつ定性的な概念を、具体的かつ定量的な数値や言語に落とし込むことで、KPIが可視化されます。最終的な目標となるKGIから逆算してKPIを明確化することで、ゴールへと至る具体的な道筋や進むべき方向性が見えてくるでしょう。ぜひ、本記事を参考にして目標管理の最適化に取り組んでみてください。
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