顧客行動が複雑化し、社会全体が不透明かつ急激な変化に晒されている現代において、顧客ニーズを的確に把握して商品・サービスに反映していくには新しい方法論が必要です。本記事では、そのひとつとして用いられる「デザイン思考」というフレームワークの概要やメリット、進め方などを解説します。
デザイン思考とは
デザイン思考とは、デザイナーの作業プロセスをビジネスに応用した実践的な思考方法です。具体的には、「ユーザーのニーズやトレンドを探る」、「試作品を作る」、「検証する」などの過程がこれに該当します。
とりわけ重要なのは、最初に挙げたユーザーのニーズの把握です。デザイン思考においては、ユーザーの視点やニーズなどを根幹に置き、そこから市場に真に求められている商品・サービスを開発することを目指していきます。入念な分析を通してユーザーの潜在的なニーズまで深く汲み取ることができれば、前例のない革新的な新商品を開発したり、既存の商品をよりユーザーの希望に沿った形で改良したりすることが可能になります。
昨今では、「カスタマーエクスペリエンス」や「顧客のペルソナ設定」など、顧客目線・顧客理解を中心にビジネスを展開していくことが重要視されています。デザイン思考もそうした潮流のひとつとして、アップルやグーグルなどの世界的な先進企業がすでに導入しており、今後さらに多くの企業に活用されていくことが予想されます。
デザイン思考を実施するプロセス
デザイン思考は、以下の5つのプロセスによって実践されます。
- 共感
- 定義
- 概念化
- 試作
- テスト
これらのプロセスは必ずしも順番通りに行う必要はありませんが、ユーザーのニーズを的確に汲み取り、そこから生まれたアイデアを実際の商品・サービスへと効果的に落とし込むためにはいずれも重要なポイントです。以下では、この5つのプロセスに沿ってデザイン思考の進め方を解説します。
共感
共感は、アンケートやインタビュー、観察などの調査を通じて、ユーザーの抱えているニーズを把握していく段階です。ユーザーが何を求めているのか、既存の製品のどのような部分に不満や不便を感じているのかなどを深く共感することを通して、ユーザーから真に求められている商品・サービスとは何かが発見しやすくなります。
定義
定義とは、先の調査結果を分析し、今後取り組むべき中心的な課題などを明確化する段階です。たとえば、既存の家電製品を改良する場合、ユーザーがよりコンパクトな製品を求めているのであれば、「小型化」や「軽量化」が、デザイン性の改良を求めているのであれば「カラーバリエーションの追加」などが具体的な課題として定義されることになります。
課題を定義する際には、それが的確にユーザーのニーズを反映したものであるように、十分に検討することが必要です。ユーザーのニーズを把握するための手法としては、顧客のペルソナ設定などが代表的な手法として挙げられます。
概念化
概念化は、定義された課題を解決するために必要なアイデアや手法を出していく段階です。たとえば、「カラーバリエーションを増やす」と言っても、実際には無数の種類の色が候補として考えられます。単色だけでなく、木目調にしたりビンテージ風にしたりと、さまざまなアイデアが考えられるでしょう。
概念化においてさまざまな視点から最適な解決策を模索するには、ブレーンストーミング(ブレスト)という手法がおすすめです。これは複数のメンバーが自由にアイデアを出し合うことを通して、既存の方法論や価値観にとらわれない新しいアイデアの創出を目指す方法です。ブレストで多種多様な観点からの意見を集めるためには、さまざまな属性を持った参加者を集めつつ、お互いの立場などを超えて気軽に発言できる雰囲気を作ることがカギになります。
試作
概念化を通して課題解決のための具体的なアイデアが定まったら、それを基に試作品を作ります。実際に試作品を作ったり手に取ったりすることを通して、そこに含まれる問題や改善点に気づきやすくなるからです。実際に触ってみなければ分からないことは数多くあります。また、試作段階で完璧なものを作る必要はありません。試作は何回も繰り返すのが当然と考え、まずは実行を優先することが大切です。
テスト
試作品を作ったら、今度はそれをユーザーに試用してもらい、その出来をチェックします。試作とテストの繰り返しを通して、ユーザーのニーズへのマッチ度や改善点などを明らかにし、段階的に商品のクオリティを上げていくことが可能です。
デザイン思考により期待されるメリット
デザイン思考によって期待されるメリットは、主に以下のことが挙げられます。
ユーザーの支持獲得
デザイン思考をすることで、商品やサービスは企業の一方的な価値観ではなく、ユーザーのニーズに寄り添ったものになりやすくなります。こうした商品は、ユーザーにとっては当然歓迎すべきものなので、ユーザーの支持をより多く獲得できます。
アイデア提案や意見受容の習慣化
ユーザー調査やブレストに代表されるように、デザイン思考においては他者の意見に触れたり、メンバー間でアイデアを出し合ったりする機会が豊富にあります。デザイン思考やブレストが組織に根付けば、多様な意見を尊重したり、活発に議論したりできる社風が浸透していくことが期待できます。こうした社風の醸成は、チーム力の強化やイノベーションの創出にもつながります。
デザイン思考を取り入れるにあたっての注意
多くのメリットがある一方で、デザイン思考を取り入れる際にはいくつか注意点が存在します。
たとえば、デザイン思考はゼロベースからまったく新しいアイデアを生み出すことには向いていません。というのも、デザイン思考はユーザーが抱いているニーズへの対応を軸に展開していくものだからです。
したがって、デザイン思考によるイノベーションは、あくまで既存のニーズの延長線上にあり、ニーズそのものを新しく創出してしまうような飛躍的な発想は生まれにくくなります。また、この問題とも関連して、デザイン思考では型にとらわれず自由な視点からアイデアを出せる人材がいないと、アイデアが平凡になりがちであるという欠点も存在します。
デザイン思考に役立つフレームワーク例
デザイン思考を導入する際には、他のフレームワークも併用するのがおすすめです。以下では、そうしたフレームワークの例として「事業環境マップ」と「共感マップ」の二つを解説します。
事業環境マップ
事業環境マップとは、以下の4つの視点からビジネスモデルの有効性などを評価・分析する手法です。
- トレンド:最新のテクノロジーや法規制の状況、社会的・文化的傾向など
- 市場:市場のターゲットや需要と供給の関係など
- 産業:競合他社の存在や新規参入の難易度など
- マクロ経済:社会全体の好不況や資本市場の動向、原料のコスト状況など
この4つの視点からビジネスモデルを検討することで、現在の外部環境の状況を踏まえた上で、事業の将来性などを適切に評価しやすくなります。
共感マップ
共感マップとは、ユーザーの思考や価値観、状況などを把握するためのフレームワークです。共感マップは、顧客(ペルソナ)が見聞きしていることや考えていること、ストレスを感じていることなどを分析し、ユーザーのニーズを捉えやすくします。デザイン思考においては深い顧客理解が必要不可欠なので、共感マップとの親和性は高いです。
まとめ
デザイン思考とは、ユーザーのニーズを深く理解・共感して実際の商品・サービス開発などに還元していく手法です。ただし、プロジェクト進行や事業運営を円滑に遂行していくためには、デザイン思考などの考え方を取り入れるだけでなく、ITツールなどの活用も重要になります。
プロジェクト管理ツールのAsanaは、各メンバーの仕事状況などを一元管理し、チームコラボレーションを促進するITソリューションです。デザイン思考と併せて、ぜひ導入をご検討ください。
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