消費者の行動が多様化する現代社会において、自社の商品やサービスの優位性を高めるのは年々難しくなってきています。本記事では、顧客を囲い込む差別化戦略である、「カスタマー・インティマシー」という考え方の定義を説明し、実践するにあたって取り組むべきポイントを具体的にご紹介します。
カスタマー・インティマシーとはなにか
カスタマー・インティマシーとは、アメリカの経営コンサルタントであるM・トレーシー氏とF・ウィアセーマ氏の2人が、1995年に発表した著書『ナンバーワン企業の法則』のなかで触れた、企業の経営における「価値基準」のひとつです。
企業と顧客間の親密性を意味しており、親密になることで顧客との関係を強固なものにし、長期的・安定的に戦略的優位性を目指す考え方です。つまり、顧客との関係性を通じて、顧客一人ひとりに合わせた自由度の高い対応を価値として提供することで差別化する戦略です。カスタマー・インティマシーと似た意味で「ロイヤリティ」という言葉があります。これは顧客が企業や企業が提供する製品・サービスに対して持っている愛着心のことですが、カスタマー・インティマシーは企業と顧客との関係性全体を指している点が異なります。
カスタマー・インティマシーと共に重要な2つの価値基準
『ナンバーワン企業の法則』のなかで、カスタマー・インティマシーとともに重要とされている2つの価値基準があります。ひとつが「オペレーショナル・エクセレンス」、もうひとつが「プロダクトリーダーシップ」です。それぞれを解説します。
オペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)
オペレーショナル・エクセレンスとは、業務の卓越性という意味です。ビジネスにおいて「オペレーション」とは、業務フローを定めることや、定めたフローに沿って進められる一連の業務のことです。オペレーションの効果や効率向上を目指すことによって、競争優位性を獲得する価値基準モデルがオペレーショナル・エクセレンスです。
オペレーションは企業の日々の活動そのものであり、競争戦略に直結する要素です。既存のオペレーションを改善したり、新たに優れたオペレーションを構築できたりすれば、企業にとって大きな武器になりえます。
オペレーショナル・エクセレンスが確立された企業では、業務フローの改善さえもマニュアル化されて、常により良いオペレーションを各従業員が考えながら日々の業務を行うようになり、競合他社より圧倒的な優位性を保てるようになります。※同時作成中の見出しNo.15「オペレーショナル・エクセレンス」へ内部リンクを貼る
プロダクトリーダーシップ(製品の優位性)
プロダクトリーダーシップは、製品の優位性という意味で、品質や性能などで他社とは異なる独自の特徴を持つことで、競争優位性を図る価値基準モデルです。価格やブランドではなく、製品やサービスそのもののスペックに価値を見出す考え方であり、ライバルが簡単には真似できないような、革新的なアイディアでスペックを高めることを目指します。ビジネスモデルの策定段階においては、まずはプロダクトの革新に焦点を当てて進めていきます。
『ナンバーワン企業の法則』の著者は、以上3つの価値基準「カスタマー・インティマシ―」「オペレーショナル・エクセレンス」「プロダクトリーダーシップ」のうち、どれかひとつを極めてライバルと圧倒的に差別化すればナンバーワンになれる、と主張しています。この3つの価値基準全てを追求するのではなく、自社の特性や戦略の方向性によって、どの価値基準を伸ばしていくかを使い分けることが必要です。
カスタマー・インティマシーは購入時の判断基準につながる
カスタマー・インティマシーは、顧客が似たようないくつかのサービスのなかから、どれを購入しようか悩んだときに、普段から好意を持っている企業のサービスを選ぶ、という考えが基盤になっています。
顧客との親密性を重視している企業は、リピーターやファンを獲得しやすくなります。
一般的によくある方法が、企業が顧客の専属担当者をつけるというやり方です。
特定の営業担当者が顧客に定期的に製品やサービスの紹介をおこなうほか、何か困っていることはないかヒアリングして、ソリューションを提案するなど、コンサルティングもすることで親密性が増し顧客からの信頼が得られます。そのため、似たようなサービスがあってもその企業を優先的に選んでもらえるようになります。
情報化社会において多様化するニーズに応えるためにも、カスタマー・インティマシーは必要なのです。
カスタマー・インティマシーを高める4つの取り組み
カスタマー・インティマシーを高めるには、どうしたらよいのでしょうか。そのための具体的な取り組みをご紹介します。
1. 個別ニーズを意識したアプローチをする
顧客はそれぞれに異なるニーズを持っています。個別ニーズを意識したアプローチ方法を取ることで、カスタマー・インティマシーを高められます。
例えば顧客別に専属担当者をつけるなど、顧客との関係づくりが自然にできる体制を整えれば、個別ニーズをくみ取ることができ、個々の顧客にとってベストな提案を行うことができます。
専属担当がついてさまざまな相談に乗ってもらえる環境があることで、顧客は大切にされていると感じ、親近感を持てるようになります。
メールを送る際は顧客全員に同じコンテンツを一斉送信するワン・ツー・メニーではなく、顧客によってコンテンツを少し変えるなど、個々に向けたワン・ツー・ワンを意識することが大切です。
2. コミュニケーション機会を増やす
SNSを活用するなどして、顧客が企業に親近感を抱くような機会を設けるのもおすすめです。最近ではTwitterなどで企業が一般ユーザーと対話するケースもよく目にしますが、そのように顧客とコミュニケーションを取る機会があることで、いいイメージを抱かれやすくなります。顧客にダイレクトメールを送るなど直接接触する機会を作るなら、メルマガのように一斉送信するのではなく、顧客にとって興味のあるコンテンツを個別に作成するなどの工夫をする必要があります。
3. 顧客体験の向上を図る
顧客が企業の製品・サービスに興味を持ってから購入後に至るまでの顧客体験の向上を図ることも有効です。顧客が製品・サービスを購入してみて、アフターサービスまで含めて良い体験をしたと感じたら、それがそのまま企業への親密度の向上につながっていきます。
そのため、販売して終わりではなくアフターサービスも充実させることで、長期的な顧客との良好な関係性を目指します。
4. 顧客情報をデジタル化する
さまざまなものがIT化した現代では、顧客行動のデータ化や分析が可能です。顧客情報をデジタル化して、なぜ購入したか、なぜ購入されなかったのか、購入したタイミングなどを分析することで、顧客ニーズの理解につなげられ、次の戦略を立てやすくなるのです。
CRMを活用して、顧客との関係性を維持したり、顧客の特性別に異なるアプローチをかけたりするなどの工夫も効果的です。
まとめ
多様化する現代社会の企業と顧客との関係性においては、カスタマー・インティマシーという考え方が重要です。
顧客と親密になるための具体策として、顧客の個々の要望に沿った提案で信頼の獲得を目指したり、顧客行動をデータ化・分析したりすることで顧客ニーズの把握ができ、より戦略を立てやすくなります。
オペレーションの改善を極めて、改善することがごく当たり前にできるようになるまでに持っていければ、他社との圧倒的な差別化を図ることが可能です。また、顧客エンゲージメントの向上にもつながるでしょう。
ワークマネジメントツール「Asana」は、カスタマー・インティマシーの向上に向けたワークフローの整備やデータ管理に役立つツールです。カスタマー・インティマシーの考え方を取り入れるなら、ツールの導入も併せて検討してみてはいかがでしょうか。
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