インターネットの普及によって購買行動における消費者と企業の関係に変化が生じた結果、企業が一方的に情報提供して購買行動を促す必要がなくなりました。そこで注目を集めるようになったのが、顧客エクスペリエンスという考え方です。ここでは顧客エクスペリエンスの概要とメリットについて解説していきます。
顧客エクスペリエンスとは?
顧客エクスペリエンスとは、顧客が企業と取引を開始してから終えるまでの期間において顧客が得られる価値やメリットの総称です。この顧客エクスペリエンスの考え方を正しく理解し、そのエッセンスを事業に取り入れることで、顧客の期待を上回るような体験を提供し、ロイヤリティや満足度の向上につなげられます。
なお、購買行動の期間に関する解釈には注意が必要です。ここでいう顧客と企業の取引は、単純に店頭に来て商品を買うまでの期間を意味しません。例えば、事前にお店のHPを確認する時間であったり、購入前の相談やヒアリング、購入後のアフターサポートなど商品の購入に関わったりする時間も全て顧客エクスペリエンスの対象です。
顧客エクスペリエンスの重要性
顧客エクスペリエンスの考え方が近年重要視されてきている背景には、近年のインターネットの普及による販売導線の変化があります。従来は、企業がマスメディアで広告を出し、電話や対面でのセールスによって顧客の興味を引き、実際に店舗に訪れてもらうなど、企業から顧客に対して一方的にアプローチする手法が主流でした。
しかし、多くの分野で製品のコモディティ化が進んでいる現在は、単に物の価値だけでは差別化が図りにくくなっています。その証拠に、顧客が購買前にインターネット検索で商品に関する情報を仕入れ、SNSや各種サービスの口コミを購買の意思決定の根拠として活用する購買経路が台頭してきました。実店舗に足を運ぶことなく商品を購入する顧客も多く、製品やサービスの差別化は評判などによって左右されます。そのため、企業が間に入ってコントロールできない評判を間接的にアップさせ、ブランドの価値を向上させる顧客エクスペリエンスの考え方に基づいた施策が重要性を増してきています。
顧客エクスペリエンスを向上させるメリット
顧客エクスペリエンスは売上の向上に非常に貢献します。具体的にどのように役に立つのかを見ていきましょう。
リピーターを獲得できる
1つ目はリピーター獲得につながる点です。まず、安定的な収入を獲得する観点から言えば、コスト投下せずともお金を支払ってくれるリピーターや長期契約者の獲得は非常に重要です。顧客エクスペリエンスが向上すれば、「この企業での購買体験がよかったから次も同じ企業から買いたい」「この企業なら安心して継続契約ができる」と顧客に思ってもらえるため、結果として解約率の低下やリピーターの創出につながります。このように顧客エクスペリエンスの向上が効率的な利益創出につながります。
顧客をファン化させることでブランドイメージが向上する
2つ目はブランドイメージの向上、いわゆるブランディングを図れる点です。とてもいい購買体験をした顧客の一部は、購買体験における感動から企業やブランドのファンになってくれるでしょう。ファン化した顧客は「化粧品と言えばA社」「カメラと言えばB社」というように、その企業やブランドを第一想起してくれる可能性が高まり、ブランド対する信頼が高ければ高いほど競合他社のへの乗り換えが予防されます。
ただし、一方で一度そのブランドイメージが毀損されると信頼を取り戻すのは大変です。ブランドに対してファンになってくれたら終わりではなく、スタートとして捉えて顧客との適切なコンタクトを意識しましょう。
口コミによる新規顧客の獲得ができる
メリットの3つ目は口コミによる新規顧客の獲得です。一般的な消費者は、広告よりも周囲の口コミの情報を信用する傾向があると言われており、マーケティング界隈では口コミは非常に影響力の強いファクターだと考えられています。つまり、顧客が口コミを広めてくれればくれるほど、新規顧客を獲得できる可能性が高まります。また、顧客ロイヤリティが高い人ほど周囲に好意的な口コミを発信する傾向にあることを考えると、新規獲得のために販促費を投下するよりも、既存顧客のロイヤリティを高める施策にコストを投じた方が効果を得られるのは言うまでもありません。
顧客エクスペリエンスの指標とは?
企業やブランドに良い結果をもたらす顧客エクスペリエンスの向上は、数値化できなければ判断できません。実際に顧客エクスペリエンスを可視化する指標は下記の通りいくつかあります。
- GCR(目標達成率:Goal Completion Rate):顧客の目的やニーズが満たされたかを測る指標。
- CES(顧客努力指標:Customer Effort Score):顧客が目的を達成するためにどれほどの手間や労力をかける必要があったかの指標。
- CSAT(顧客満足度 : Customer Satisfaction):提供されたサービスや最終的に得られた価値に対して顧客が満足しているかどうかの指標。
- NPS(推奨度:Net Promoter Score) : サービスを体験した顧客がどれだけそのサービスを他の人にお勧めしたいかを示す指標。
ここで挙げたGCRから順にCES、CSAT、NPSという流れで指標を見ていくと、企業やブランドとしてサービスを提供する際にどのポイントに課題があるかを分析することが可能になります。例えば、GCRが低い場合はそもそも最低限のニーズを満たすところから不足していますし、CSATは高くてNPSがいまいちなら顧客は満足してくれているものの他人におすすめしたいと思わせるまでに至るほどの感動体験は得られていないということを示します。サービスの特性なども鑑みて適切な指標を設けて分析することが重要です。
顧客エクスペリエンスを向上させるには?
では計測のための指標や分析の手法が分かったところで、実際に顧客エクスペリエンスを向上させるための方法を3つ紹介します。
顧客データを適切に管理してニーズを把握する
1つ目は、顧客データから顧客が求めている価値を把握することです。自社の事業で適切にデジタル化を取り入れることができている企業では、顧客データが豊富にそろっているはずです。そのデータを顧客の購買履歴だけでなく性別や年齢といった基本的な属性も含めて分析し、自社サービスを必要とするシーンやニーズを見極め、その強みに投資をすることで顧客エクスペリエンスの向上を目指します。
また、実際に購買に至らなかった人々も分析対象にすることが大切です。例えば、自社のHPへ訪れた人が実際にサービスの契約に至った割合を分析すれば、顧客の離脱ポイントが明確になり、デザインやUIの改善につなげることができます。
カスタマージャーニーマップを設計してより良い顧客体験を描く
2つ目は、カスタマージャーニーマップを設計することです。カスタマージャーニーマップとは、顧客がニーズを想起してから最終的にサービスの提供を受けるまでの一連の行動や思考の流れを時系列に書き出して可視化したものです。
例えば、あるカフェのケースを考えると、新商品をSNSに友人が投稿しているのを見て自分も試してみたいと思ってもらえたら宣伝効果になることから、SNSに投稿したくなるような仕掛けを考えることができます。お店に入ったときに店員さんが挨拶してくれると嬉しいというデータがあれば、入店時の挨拶を徹底させると顧客エクスペリエンスの向上につながるでしょう。このように顧客の行動や思考を読み解くことで、それぞれのタッチポイントに対して有効な施策を検討できます。なお、優れたカスタマージャーニーマップを作成する方法としては、「顧客の立場にある人を交えて作成する」「事前アンケートやインタビュー等により顧客視点での行動を把握する」といった方法があります。
パーソナライゼーションを意識する
3つ目のポイントは、パーソナライゼーションの意識です。上記のカスタマージャーニーマップを作成できたら、より詳細な顧客像(ペルソナ)を意識して、顧客個人の属性に応じたアプローチを設計します。顧客の属性に応じたアプローチ方法としては、より個人に寄り添う「One to Oneマーケティング」があります。「One to Oneマーケティング」の具体例は以下の通りです。
- メール配信
従来的な方法ですが、顧客が直近閲覧したサービスに関連するキャンペーン情報などをメールで個別配信するアプローチ方法です。 - レコメンデーション
顧客の商品閲覧履歴などから「あなたが購入した●●という商品に関連する商品はこちら」といった提案をする方法です。ECサイトでよく用いられる手法です。 - リターゲティング広告
自社サイトを訪れたことがある人を追跡し、別のページを表示した際に自社サービスの広告を出してリマインドをかける手法です。ネットニュースの広告欄に表示される広告などは、この手法を用いる傾向にあります。 - ランディングページの最適化
顧客の属性ごとに、自社サービスをネット検索した際に最初にアクセスするページを分ける方法です。この施策によってサイトからの離脱率が改善し、コンバージョンレートの改善が図られます。
こうした情報のパーソナライズについては賛否が分かれる部分ですが、実は消費者の80%がパーソナライズされたエクスペリエンスを提供するブランドから購入する傾向があります。そのため、情報をパーソナライズして届けるアプローチはビジネス的には非常に意義のある取り組みとして知られています。
まとめ
顧客エクスペリエンスの向上が、現代の商業活動で重要視されています。そのカギは様々な業務に隠れていて、顧客エクスペリエンスの向上を図るためにはデータや業務と向き合う必要があります。この作業は多岐に渡るので、業務効率化も同時に求められるでしょう。そこで、まずはタスク管理やワークフローの設定など細かい作業を全社でまとめて管理・処理できる「Asana」などのツールを導入して、業務効率化から始めてみてはいかがでしょうか。
- カテゴリ:
- 業務のヒント
- キーワード:
- 経営