年功序列制度の廃止や少子高齢化、働き方の変化によって、「従業員の定着」にも変化が起きています。終身雇用が基本的な考え方だった時代に比べ、転職は当たり前になりました。そして、企業は離職率の把握も重要な業務となったのです。しかし、「離職率についての定義や計算方法が今ひとつわからない」という担当者も少なくありません。本コラムでは、離職率の定義からその計算方法をおさらいしながら、離職率計算の注意点や離職率が高くなる原因についても解説します。
離職率の定義とは
離職率の定義は、一定期間において退職した人(離職者)の割合のことです。
また、離職者とは、雇用されている従業員のうち、離職率の調査期間中に退職、あるいは解雇された従業員を指します。つまり、「1年前には企業に雇用されていたが、現在は退職している従業員」が離職者です。
離職率計算の対象者は、雇用期間の定めがない常用労働者や、雇用期間の定めがあり1ヶ月以上の期間で雇用される従業員、そしてパートタイムで働く従業員などを含みます。
離職率の計算方法
それでは、離職率の計算方法をみていきましょう。
離職率の計算方法は、企業の離職率調査期間によっても異なります。一般的には、期初となる4月1日を起算日とし、そこから1年間、あるいは3年間などを基準に計算する企業が多いようです。
また、離職率の計算方法は法的な定義がありません。そのため、企業によって算出方法が異なります。さらに、離職率の調査期間に関する「一定期間」にも定めがないため、1年間や3年以内の退職率、過去5年や4ヶ月の退職率など、「企業が調査したい期間」で自由に計算できます。
ここでは、厚生労働省において利用されている計算方法をもとに、一般的な計算式と「3年間の離職率の計算例」をみていきましょう。
離職率の計算式
離職率の計算式は、一般的に以下のような式で計算されます。
- 離職率=離職者数÷現在の従業員数×100%
参考)厚生労働省「-2019 年(令和元年)雇用動向調査結果の概況-」
つまり、離職者数を現在の従業員数で割り、さらに100を掛け合わせれば、離職の割合を導き出せるということです。
例えば、元々200人の従業員がいて、調査期間中に10人の従業員が退職した場合です。
このとき、企業に在籍している従業員数は、「200-10=190」で190人になります。この数値を上述の式に当てはめると、以下のような計算になります。
- 10÷190×100=約5.2
つまり、離職率は約5.2%だということがわかります。
3年の場合
例えば、過去3年間の離職率を計算する場合には以下のような計算式になります。
条件:元々200人の従業員がおり、過去3年間で年に3人ずつ採用したが、うち4人が退職した
このとき、退職した人数が4人、採用人数が9人ですので、以下のように計算します。
- 4÷9×100=約44%
直近3年間の離職率は約44%であることがわかります。
離職率は任意の期間で算出できるため、調査対象を「新卒社員」や「中途採用社員」「企業全体」など、必要な期間と対象を絞って調査ができるものです。
離職率計算の注意点
離職率の計算方法がわかったところで、その注意点についても確認しておきましょう。
「一定期間」内に入社・退職した人が計算に含まれない
離職率を計算する場合、企業が決めた「任意の一定期間」が対象になります。そのため、調査期間内に入社して退職した従業員は離職率に影響しません。
つまり、計算に含まれないため正確な離職率が算出できないということです。
例えば、2021年4月1日から2022年3月31日までを調査期間とした場合です。
2021年4月5日に10人入社して、2021年7月1日に10人が退社すると、本来ならば離職率が100%であるにもかかわらず、離職率の計算結果は0%となってしまいます。
離職率は調整可能である
上述のように、調査期間内の離職率が100%になってしまう場合、企業としての印象は良くありません。そのため、離職率調査の「一定期間」をずらすことも可能です。
ただし、企業にとって都合の良い計算ばかりをしていると、企業内の離職原因調査などには役に立たなくなってしまいます。
離職率が高い原因
離職率が高い企業は、その原因調査が必要です。なぜ従業員が定着しないのかを分析することで、離職率を軽減させる糸口をつかむことができるかもしれません。
ここでは、離職率が高い企業の一般的な原因をみていきましょう。
人間関係によるストレス
人間関係のストレスによって、離職率が高くなることが多いようです。
人間関係によって離職率が高いと判断できる場合には、職場環境の改善や、離職を考えている従業員の部署異動など、職場の人間関係を円滑にするための施策を検討しましょう。
まずは、従業員への「職場環境についてのヒアリング」からはじめるとよいでしょう。
給与が低い
給与が低い場合にも、離職率が上がります。これは、従業員の満足度が低いためです。
同業種で給与の高い企業があれば、転職を考える従業員は増えます。一昔前の終身雇用や年功序列といった制度がなくなった今、転職に対する抵抗が薄れたばかりか、「転職が当たり前」の時代になっているのです。
優秀な人材獲得と定着には、給与設定の見直しも重要な課題だといえます。
労働時間が長い
残業が多いなどの労働時間の長さも、離職率を高める原因になります。
近年における「働き方の変化」や、「仕事よりもプライベートを優先する従業員が増えた」現代では、労働時間を調整し、従業員のプライベート時間の確保も考慮する必要があります。
公平性を欠く評価
人事評価においても、公平性を欠く企業は離職率が高くなる可能性があります。
近年では、成果主義を掲げる企業も増えているため、「成果を出しても昇給・昇進できない」などの不満は離職につながります。
改善するためには、評価制度に透明性をもたせ、従業員のだれもが「公平」であることを認識できる体制づくりが必要です。また、必要に応じて人事評価制度の見直しも検討したほうが良いでしょう。
人事評価制度については、【人事評価制度とは?その種類やメリット・デメリットについて理解しよう】にて詳しく解説していますので、合わせて参考にしてください。
まとめ
離職率は、これから企業を志望する人材側にとっても企業選択のひとつの指標です。離職率が高ければ「人が定着しない企業」「職場環境の良くない企業」といった印象を与えてしまいます。ですので、人事担当者は離職率についての理解と、離職率が高い場合にはどのような原因と解決策があるかを知る必要があります。離職率は、その定義と計算方法によって変化する値であること、そして「どのような企業であるか」を判断する指標にもなりえることをしっかりと認識しておきましょう。
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