近年、働き方改革の施行やDXが推進されるなかで、成果を維持しつつより効率的に業務をこなせる環境づくりが求められています。そこで注目されているのが、BPRやBPMといった手法です。 この記事ではBPRとBPMの違いや、それぞれのメリット、さらに導入手法について解説します。
BPMとBPRの違いとは?
BPMとBPRは、いずれも業務プロセスを見直し、組織全体の生産性向上や業務効率の改善を目的とする手法です。まず、それぞれの概要について紹介していきます。
BPMとは?
公益社団法人企業情報化協会では、BPM(Business Process Management)を「業務プロセスのPDCAサイクルを回して業務の成果を上げるための新しいアプローチ」と定義しています。
BPMでは、継続的にPDCAサイクルを回すことでコストの削減や生産性の向上を図ります。PDCAを回す手順として、まずは業務プロセスの可視化、再設計を行います。例えば製造業であれば、原料の調達から製造、販売などのプロセスがあり、可視化したプロセスをシステム上で管理し進行状況をモニタリングします。そうして蓄積されたデータを分析することで、業務プロセスの改善に役立てていきます。
BPMを適用するケースとしては、部門間の業務改善やシステムの定義、サービスの対応方法を的確にしたい場合などがあります。
BPRとは?
1993年に出版されたマイケル・ハマー&ジェイムズ・チャンピーの著書『リエンジニアリング革命』では、BPM(Business Process Re-engineering)を「コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセスを根本的に考え直し、抜本的にそれをデザインし直すこと」と定義しています。
キーワードとして、著者は「プロセス」を「劇的」「根本的」「抜本的」に直すことを挙げており、これらなくしてBPMの達成は困難であると言えます。
「根本的」とは物事の大元にあるものを示し、「抜本的」は根本に立ち返って是正することを言います。また「劇的」とあるように小手先だけの改善ではなく、生産性や顧客満足度といったものを飛躍的に改善させることを目的とします。従って「全体」の業務プロセスを見直すことでそれらを実現しようとする試みがBPMであると言えるでしょう。
BPMで行う施策の一例としては、一部の業務や特定の業務全般を完全に委託するBPO(Business Process Outsourcing)が挙げられます。
BPMとBPRの違いは?両者の違いをポイントごとに解説。
BPMとBPRは一見似ていますが、3つの点に違いがあります。ここではその違いについてひとつずつ見ていきます。
違い1:適用範囲
BPRは企業全体が適用範囲であるのに対し、BPMは多くの場合、部門間や部署内など限定されます。
例えば、BPRの手法としては特定の業務を委託する、新しい部署を新設する、子会社を創設するなどがあります。対してBPMでは、特定の業務プロセスの改善にワークフローや新しいシステムを導入するなどが当てはまります。
違い2:意思決定方式
意思決定の方式としては、BPRがトップダウン方式であるのに対し、BPMの多くはボトムアップ方式で行われます。
BPRは、業務プロセス全体の抜本的な改革を行うため、経営陣を中心とした意思決定のうえで全社的に実施する必要があります。
一方のBPMは、業務を熟知した従業員が業務プロセスを監視し、現場の提案をもとに改善を進めます。
違い3:実施回数
BPRは基本的にプロセス全体の改革であり、長期的な計画として行われる場合が多いため、同時多発的ないし短期間に複数回行うのは困難です。
対してBPMでは、短期的な改善を継続的に何度も行います。小規模な改善であっても、一度で効果が確認できなければ、調整を施しながら最適化していきます。
BPMとBPRの導入メリットの違いを解説
ここからは、BPMまたはBPRによるそれぞれメリットや、その違いについて解説します。
BPMのメリット
BPMには次に紹介する2つのメリットがあります。
業務プロセスの可視化
BPMの最初の段階では、業務プロセスを可視化します。これ自体に多くのメリットがあり、そのひとつとして業務上の課題を明確にできることが挙げられます。
可視化により、誰がどのような業務にあたっているのか、ボトムネックがどこにあるかといった現状を知ることができます。
情報システムの保守・運用コストの削減
BPMの実施により、情報システムの保守・運用コストの削減につながります。BPMシステムを導入し、データの共有化および業務の標準化を進めることで、属人化といった理由で無駄に蓄積していたデータを削減できるためです。
BPMの取り組みで業務プロセスが可視化されていれば、業務を自動化・電子化するツールを導入する際にも、適切なツールの選定や旧来の不要なツールを削除するといった判断に役立ちます。
BPRのメリットとは
次に、BPRの3つのメリットについて紹介します。
顧客満足度と従業員の満足度の向上
BPRは、根本的に無駄な業務プロセスの削減や適切な配置転換により、業務全体を最適化させることで従業員の満足度や業務スキルを向上させることを目的とします。従業員のスキルアップはサービスや製品の質に直結し、品質の高いサービスを受けた顧客の満足度を向上させることにもつながります。
意思決定のスピードアップ
BPRの組織改革では多くの場合、意思決定のプロセスを考慮した抜本的な見直しを行います。
業務効率を上げられない原因として意思決定の遅さがボトルネックになるケースも多く、迅速な意思決定を行える環境を構築することも改革における目的のひとつです。
すばやい意思決定ができる組織になれば、フットワークを生かした市場競争力の獲得につながります。
従業員の業務意識の変革
BPRは従業員の業務意識にも大きな影響を与えます。組織の体制変化に伴い、業務内容や人員配置が変更されれば、それぞれの従業員が自らの身の振り方について見直す機会となります。
BPMに役立つBPMNとBPMシステムとは?
ここではBPMの導入に役立つ2つのシステムについて解説します。
- BPMN(Business Process Model and Notation)
BPMNは業務プロセスを可視化・設計する際に用いる国際標準のプロセス表記法のことです。
記号によって業務フローを作成するには「QC工程図」がよく知られています。丸や四角などの図形に業務内容を書き込み、それらを矢印でつなぐことで業務プロセスを可視化する手法です。BPMN記法では、例えば角を丸めた四角には「タスク」、破線白抜き矢印は「メッセージのやり取り」を表すというように定められています。
またBPMNは国際標準(ISO19510)に指定されているため、特殊な理由がない限りは業務プロセスを可視化する状況の多くで用いられます。 - BPMシステム
BPMシステムは設計された業務プロセスを実行・管理するために構築された情報システムです。BPMシステムはPDCAの全ての段階を包括して管理します。
BPRに役立つERPシステムとは?
BPRの実施にあたってはERPシステムの活用が効果的です。
ERP(Enterprise Resource Planning)システムは「統合基幹業務システム」と訳すことができ、企業活動に必要な「人・もの・金・情報」を一元管理するシステムを指します。
通常の場合、在庫や発注状況、製造、人事、会計などは、それぞれが別のシステムで管理されています。しかし、それらはお互いに連携が取れないもの同士では情報共有やデータの受け渡しができず、プロセス全体を総括して見直すことが困難です。
EPRはプロセスを包括的に管理するシステムであり、BPRの実現には欠かせません。
まとめ
DXが進行する現在、BPMやBPRは企業戦略として必須の取り組みと言えます。BPMやBPRの実施を検討するのであれば、まずその目的を明確にすることが肝要です。両者とも業務効率化を目的とするものの、実施規模や方法に大きな違いがあるため、自社の状況や目的にあった手法を選ぶ必要があります。
それぞれ実施する際には、BPMシステムやERPシステムといった管理システムが役に立ちます。これらを導入し、まずは業務全体の可視化を目指しましょう。
- カテゴリ:
- BPR・変革管理