スズキ株式会社の鈴木様にご登壇いただいたイベント「スズキ株式会社の Asana 導入事例」が開催されました。
本イベントでは、スズキ株式会社でITシステムを担当する鈴木様が実際の業務でAsanaをどのように活用しているか、また社内で Asana の認知を広げ、利用を定着させた方法についてご紹介いただきました。その内容をレポートにまとめましたので、ぜひご覧ください。
Asana展開の舞台裏:成功への道のり
スズキ株式会社の概要
はじめに、スズキ株式会社の紹介をさせていただきます。当社は四輪車のメーカーとして広く認知されていますが、それだけでなく、二輪車やマリンボートの船外機、さらにはセニアカーなどの幅広い事業を展開しています。
会社概要は以下の通りです。
- 従業員数:72,372人
- 売上高:5.37兆円
- 経営実績:黒字70年以上
- 販売台数:国内第2位
- 販売地域:200以上
- 生産拠点:20カ国
続いて、簡単に私自身の自己紹介をさせていただきます。私は1993年にスズキに入社し、現在ITシステム部に所属しています。これまで、生産システムや部品表の開発・導入に携わってきました。その後、グローバルなシステム導入の取り組みとして、インドやインドネシアへの部品表や生産管理システムの立ち上げを行いました。
また、社内で汎用的なワークフローや電子稟議システムを導入する役割を担い、システム開発やプロジェクト管理に関する社内教育、主にIT部門向けの教育も担当しています。インドに頻繁に出張しており、これまで30回以上訪れているほどです。
Asana導入のきっかけ
Asana導入のきっかけは、2019年にシリコンバレーの拠点からIT本部長に紹介があったことです。当時、Asana社を訪問していた本部長から「Asanaって知ってる?」というチャットが私に送られてきたのが始まりでした。その後、Asanaについて詳しく調べたり、社内でヒアリングを行ったりしました。
当時、IT本部内では「仕事の管理が不十分」「仕事が属人化している」という課題がありました。この状況をAsanaで解決できるのではないかと考え、2021年にIT本部内の約100名を対象に3カ月間のトライアルを実施することになりました。このトライアルにおいて目指したのは「仕事を見える化して共有する」ことです。
具体的には、次のような状態を実現することが狙いでした。
- 依頼や問合せのメールをAsanaに転送してタスク化し、チームで対応
- チームでタスクと期限を共有し、フォローし合える体制を構築
- 依頼や仕事はタスクに期限を付けて受け渡し
- 問合せや依頼の対応をタスクに記録し、ノウハウとして蓄積
- 定期的な仕事は繰り返しタスクとし、忘れ防止と仕事の見える化を実現
- 日々の仕事を記録、そのまま引継ぎマニュアルとして活用
これらを実現することで、仕事の進捗や対応漏れが減少し、業務の効率化が図れるのではないかと期待してスタートしたという流れです。
具体的な利用方法
IT本部内におけるAsanaの具体的な利用方法としては、次の3つが挙げられます。
- タスク管理
a. eラーニングやアンケートなどの期限付きタスクを一括作成(部内)
b. 新入社員やキャリア採用、異動者受入のタスクをテンプレート化 - システムの依頼・問合せ管理
a. システム宛のメールをAsanaに自動転送し、タスク化・分類を行い、担当者へ振り分け
b. 対応履歴をタスクに残し、後から参照できる形で管理
c. タスク情報をダウンロードして社内の生成AIに入力し、Q&Aアプリを作成 - 課内の情報共有
a. 課の運用ルールや伝達事項、有休・出張予定をAsana上でタスク化し、掲示板のように共有
b. 週次定例会ではAsanaの画面を共有しながら情報を確認
それぞれの利用方法について詳しく説明いたします。
タスク管理
ここからは実際の画面とともに、当社におけるAsanaの活用方法を紹介します。1つ目はタスク管理です。
当社では、全社向けの依頼事項や業務連絡をAsanaのタスクとして作成し、チーム全体で管理しています。以前は「Eラーニングの動画を視聴してください」「アンケートに回答してください」といった依頼をメールで送信していたのですが、こうした連絡は、受け取った時点ですぐに対応しないと忘れてしまうことが多く、後からメールを探すのにも時間がかかるという課題がありました。
この問題を解決するために、各部門ごとにAsanaでタスクを作成し、依頼内容や期限を明確に管理するようにしました。課の担当者が依頼事項をまとめ、課内で展開する流れを作ったことで、「誰がタスクを完了させており、誰が未完了なのか」が一目で把握できるようになりました。管理者もタスクの進捗状況を確認しやすくなり、課長がフォローしやすい環境が整いました。
具体的なタスク管理の例として、研修ローテーションがあります。他部門からの異動者やキャリア採用者、新入社員など、新たに課に加わる人がいる場合に備え、事前にタスクをテンプレート化して準備しています。
例えば、次のような内容をまとめておきます。
- 新入社員向けタスク:業務内容の確認、必要な手続き
- 自己紹介用リンク:新しく加わった人が課のメンバー情報を把握できるページ
特に、私の課は2024年4月に新設されたばかりで、異動者が多く、効率的な受け入れ体制が必要でした。例えば、研修内容や手続きタスクの一覧を作成し、最下部には「自己紹介ページ」のリンクも設けました。これによって、課のメンバーに関する情報がすぐに把握でき、新しく加わった人がスムーズに馴染める仕組みになっています。
システムの依頼・問合せ管理
2つ目はシステムの依頼・問い合わせ管理です。私はアプリケーション担当として、社内の汎用ワークフローや電子稟議システムなど、社員全員が利用する仕組みを担当してきました。しかし、当社は共通のサービスデスクを使用していないため、各システムの問い合わせはメールベースで対応する形が一般的でした。
しかし、この方法では次のような課題がありました。
- メール対応では回答漏れが発生するリスクがある
- 後から対応履歴を探すのが非常に面倒
- 問い合わせ内容の分類がされておらず、管理が煩雑
こうした課題を解決するため、Asanaを活用しています。具体的には、Outlookの転送機能を使い、問い合わせ用アドレスに届いたメールを自動的にAsanaのプロジェクトに転送。Asanaに転送されたメールは、以下のように分類して管理しています。
- 問い合わせ
- 定常依頼
- 臨時依頼
Asanaのダッシュボード機能を活用することで、問い合わせ件数や担当者ごとの対応数を可視化し、分析できるようになりました。
さらに、最近では問い合わせのやり取りデータをエクスポートし、ChatGPTに入力してチャットボットを作成するという新しい取り組みも始めました。初めての試みでしたが、思った以上にうまく機能したため、今後の業務効率化への期待が高まっています。
課内の情報共有
最後に、3つ目の活用例として課内の情報共有をご紹介します。
当課では、Asanaを掲示板のように活用し、課内で必要な情報をタスクとしてまとめて管理しています。例えば、次のような情報を共有しています。
- 週次・月次ミーティングの予定
- 重要事項や各種運用ルールへのリンク
- 週ごとの報告事項や展開事項
Asanaのタスクに情報を集約することで、「ここを見れば必要な情報がすぐに確認できる」という状態を実現しています。特に、週次の定例会ではAsanaの画面を共有し、進捗や共有事項を確認する形で運用しています。
また、有休や出張の管理にもAsanaを活用しています。社員が有休や出張の予定をタスクとして登録し、カレンダービューで表示することで、以下のようなメリットがあります。
- 誰が休みか、誰が出張で不在かを一目で把握できる
- 不在予定のタグを設定することで、チーム全体でスケジュール調整がしやすくなる
Asanaを課内の情報共有の基盤とすることで、メールやチャットに頼らず、必要な情報がいつでも手元で確認できる状態を作り上げています。これにより、課全体のコミュニケーションがスムーズになり、業務の効率化が図れるようになりました。
Asana利用前後の変化
Asana導入前後の最も大きな変化は、依頼や業務がタスクとして「見える化」されるようになったことです。これまでは、口頭やメールで依頼が行われるのが一般的でしたが、この方法では「誰が何をやるのか」「期限はいつまでなのか」が不明確でした。また、対応状況の把握にも手間がかかり、タスクの進捗管理が困難な状況でした。
Asanaを導入したことで、依頼はタスクとして登録され、進捗状況や期限が一目で分かるようになりました。これによって、業務の見える化が進み、チーム全体でフォローし合う体制が整いました。また、Asanaは直感的に使えるツールなので、メンバー自身が工夫して仕事の効率化を進めるようにもなっています。
例えば、これまでExcelで行っていた台帳管理は、Asanaでのタスク管理に移行されました。Excelのように手作業で情報を更新する必要がなくなり、リアルタイムでタスクの進捗を把握できるようになったことが、大きな効率化につながっています。
Asanaを導入する際に苦労した点と、その解決策
Asanaの導入にあたり、いくつか苦労した点もありました。その中でも特に大きかったのが類似ツールとのすみ分け、ITサポート体制の構築、問い合わせや利用者の急増への対応です。以下で、それぞれについて詳しくお話しします。
類似ツールとのすみ分け
まず1つ目の課題は類似ツールとのすみ分けです。当社ではすでにプロジェクト管理ツールとしてJIRAを利用しており、さらにMicrosoft Plannerの全社展開も準備中でした。このため、「Asanaは他のツールとどう違うのか?」「一緒にした方が良いのではないか?」といった意見がIT本部の管理職会議で挙がりました。
そこで、比較表を作成し、それぞれのツールのすみ分けを以下のように明確化しました。
- JIRA:ソフトウェア開発を行う場合に利用
- Planner:簡単にタスク管理を始めたい場合に利用(全員が利用可能)
- Asana:チーム全体の仕事を包括的に管理する場合に利用
このように役割を明確化することで、Asanaを「チームでのタスク管理」に特化して利用する方針を打ち出しました。また、個人利用や特定プロジェクトのみでの利用はNGとし、チーム全体で使うことを基本ルールとしました。
ITサポート体制の構築
2つ目の課題は、ITサポート体制の構築です。導入当初はAsanaの社内普及活動をほとんど行っておらず、利用者への支援が不十分でした。そのため、最初は以下のような方法でサポートを進めました。
- 情報共有用のプロジェクトを作成し、運用ルールガイドや活用事例を掲載して参考にしてもらう
- Asana社のサポート体制を活用し、技術的な問い合わせはAsana社の担当者に直接対応してもらえるように専用プロジェクトを用意
これによって、システムや運用に関する課題は徐々に解消されていきました。普及活動を行わなかったにも関わらず、トライアル開始から3カ月で300名だった利用者が、2年半で2.5倍まで増加しました。
問合せ・利用者の急増への対応
3つ目の課題は、問い合わせや利用者の急増への対応です。Asanaの利用者が増加する中、海外営業本部がAsanaを全体的に導入し、その事例がAsana社のホームページで紹介されることになりました。さらに、その内容を社内広報ブログで取り上げたことで、Asanaの存在が一気に社内に知れ渡ることが予想されました。
この状況に対して、担当者がほぼ1人という状態で効率的に対応するため、事前にAsanaの紹介ページを作成しました。このページには以下の情報を掲載し、利用希望者の自己解決を促しました。
- Asanaとはどのようなツールか
- JIRAやPlannerとの違いと使い分け
- お試し利用の案内
- 利用申請方法
この対応により、最終的に10チーム以上から利用希望がありましたが、混乱することなく対応できました。また、実際に利用を開始する際には、基準やルールを明確に設定し、計画的にAsanaを展開しました。
利用時のルール
Asana利用時の具体的なルールは以下の通りです。
- まずは10名程度のチームで試行し、チームの仕事を可能な限りAsanaで共有すること
- 特定のプロジェクト、個人・少人数での利用はNG
- 2カ月以上試行後に、希望部門には課内・部内展開を許可
Asanaは自由度が高いツールですが、いきなり多くの人に導入してしまうと、部内・課内で統一感がなくなり、それぞれが異なる使い方をしてしまう問題がありました。そのため、試行期間を通じて、各チームが自分たちの業務に合わせた運用方法を見つけることを重視しました。特に、チーム内にキーマンがいる場合、Asanaの浸透が非常にスムーズに進んでいるという印象です。
また、ライセンスを有効活用するために、以下の2つのルールを設定しています。
- 2カ月未使用のライセンスは回収
- 利用率(月の稼働日ベース)を課別・個人別に公開
部門の推進者は使っていないメンバーを把握しやすくなり、フォローがしやすくなったと好評です。現在の利用率は全体平均で約50%、つまり「2日に1回は使う」状態で、課別によっては8〜9割と高い頻度で利用されています。
導入初期には「ユーザー招待が自由にできてしまう」ことによるライセンス管理の課題がありましたが、Enterpriseプランに切り替えたことでActive Directory連携が可能になり、利用者の管理が制御できるようになりました。
成功のポイントと今後のAsanaに期待すること
2021年4月に2部門、約300名からスタートしたAsanaの導入ですが、2024年9月時点では10以上の部門、合計1,000名以上にまで利用が拡大しました。
Asanaは自由度が高く、使いやすいツールですが、単にツールを配布するだけでは浸透しないと考えています。成功のポイントは、業務部門における改革意識の高いリーダーと協力して活用を進めることです。各チームが自分たちの仕事に合わせてAsanaの活用方法を考え、工夫して浸透させていくことが重要だと考えています。
私自身、他部門に対して積極的にアドバイスを行ってきたわけではありません。しかし、部門リーダーたちが自主的にAsanaを活用し、チーム内での仕事を見える化・効率化してくれたおかげで、ここまでうまく展開することができました。
今後については、AI機能を活用したさらなる業務効率化が重要だと考えています。AsanaのAI機能には多くの期待を寄せていますが、より使いやすく、現場に寄り添ったAI機能の実装が進んでいくことを期待しています。
まとめ
実際にAsanaを活用しているスズキ株式会社の鈴木様より、Asana が社内でどのように広がり、管理されているか、管理者目線の工夫や施策も交えた視点からご紹介いただきました。
Asanaは、業務そのものの管理だけでなく、業務遂行に必要なタスクの見える化やチーム内の報連相を一元化することができるツールです。直感的に使えるインターフェースにより、誰でも簡単に導入・活用が可能です。ぜひAsanaを活用し、チーム全体のワークマネジメントの質を向上させ、効率的な業務遂行を実現しましょう。
- カテゴリ:
- DX(デジタルトランスフォーメーション)