Asanaのユーザーコミュニティから派生したエンタープライズ企業向けAsanaユーザーグループ「PLANETS」による初のカンファレンスが2023年11月22日に開催。「武闘派CIO」として知られるフジテック専務執行役員CIO/CDO 友岡賢二氏がIT/DX推進リーダーへ熱いメッセージを伝える基調講演をはじめ、Asanaを活用して業務改善や企業変革に取り組む企業3社による事例紹介、Asanaからのプロダクトセッションと、盛りだくさんの内容で行われました。今回はこの模様をレポートします。
コミュニティで越境する:DX推進のためにリーダーが知っておくべきこと
最初のセッションは、フジテック株式会社 専務執行役員 デジタルイノベーション本部長 友岡賢二さんによる基調講演。『コミュニティで越境する:DX推進のためにリーダーが知っておくべきこと』と題し、コミュニティを軸にしたDX推進の方法論が語られました。
“無理ゲー”でない「最初の一手の繰り出し方」
「ChatGPT」を社内へ広めるにあたり、コミュニティマーケティングの手法を活用。挙げられた3つのキーワードにフジテックでは、生成AIである「ハードルの低い状態からDX推進に取り掛かるための“最初の一手”のヒント」が詰まっていました。
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「ファーストピン」を見出す
DX推進においては、新しい技術や知見に対する興味が強く、自発的、積極的に試す啓蒙役、すなわち「ファーストピン(ボウリングの先頭ピン=切り込み隊長)」にあたる人をまず見出すことが重要です。
友岡さんが具体的にとった「ファーストピン探し」の手法は、まず部署内で要望や提案を挙げた人に対して「あなたがかなわないと思う”師匠”」を聞き、さらにその人にとっての“師匠”をたどっていくということ。どの現場でも、“師匠”を探して2世代ほどさかのぼると、ある共通した人物が浮かび上がってくるといいます。
「論文の評価は、他の論文から参照されるほど高くなります。インターネット検索の表示順位も、他のサイトからリンクされるほど上がるもの。コミュニティづくりにおいても、『リンク先の多い師匠』をまず見つけ出すことが大事です」(友岡さん)
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代走・伴走・コーチ・自走
続いて友岡さんは、社内における新しい技術や知見を部門に展開するステップを「代走・伴走・コーチ・自走」の順に定義します。
テクノロジーに対する知見がまだない最初期はまるごとアウトソース(=代走)して教えてもらい、知見がある程度身についたところで、次は一緒に開発(=伴走)。その後、コーチングによって自発的な気づきと学びを促してもらうことで、最後に自ら開発・運用(=自走)する体制が整えられます。
Linuxに学ぶ、トップダウンだけでない「社内の動かし方」
DX展開の例として参考になるのが、世界的に広まったLinuxのムーブメント。その背景には「自由である」「差別しない」「すべてを公開する」というオープンソースコミュニティの憲法的原理がありました。
各国から多くの開発者が参加し、メンテナンスされ続けているLinuxの開発コミュニティで大切にされているのが、「決定を下す際に徹底的に説明と文書化をする」こと、「間違いを素直に認める」こと、そして「議論を公開する」こと。これら3つは、社内コミュニティを作るうえでも非常に重要な考えだと友岡さんは語ります。
「多くのプログラマーがオープンソースに貢献するのは、『面白いことをやる集団』への帰属感を求めているから。承認欲求でも社会貢献でもなく、ただ『そこにいるのが楽しい』という感情が原動力になっているのです。自分自身が加わって踊り、それによって自分たちがモチベートされることが大事なのです」(友岡さん)
イノベーションを起こすために、コミュニティをどう活用するべきか
友岡さんは、経営理論の世界から2つの理論「弱いつながりの強さ理論(SWT理論)」「ストラクチャル・ホール理論」を引用しながら、イノベーションを起こすためのコミュニティの活用方法を説明します。
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弱いつながりの強さ理論(SWT理論)
ここでいう「弱いつながり(ブリッジ)」とは、会ったことも話したことくらいの距離感の人と薄い関係性でつながることを指し、言うなれば「知り合いの知り合いに面白い人がいる」程度の状態。こうした関係性こそが、実は新しい発見の宝庫であるといいます。
「社内でイノベーションを実行するには社内の強いつながりも大切ですが、同業のつながりを飛び出して違う世界に飛び出すことも大事。こうした『違う世界』との接点をもつ場所として、コミュニティを積極的に活用してみてほしいと思います」(友岡さん)
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ストラクチャル・ホール理論
一方ともう一方の人が共通の人を介してのみつながる関係は、人間関係の中にできた「構造上の穴(=Structural Hole)」であるとする理論。両方をつなぐ、すなわち穴を埋める役割の人を「ブローカー」と呼びます。具体的には商社や広告代理店、卸業者がこれにあたりますが、この立場にいる人は経済的に得をしやすいことが証明されています。
「人間同士のブリッジを作り、コミュニティを通じて誰かと誰かを媒介することは経済的にも得なことです。こういう役割を複数の箇所で持てると非常に強い」(友岡さん)
多様性が叫ばれる昨今ですが、「もともと人間はあまり多様性をもたない生き物」と友岡さんは語り、「意識的に外に出なければいけない」と強調。「クラスターとクラスター、組織と組織、コミュニティとコミュニティを越境し、つなぐ役割になることがイノベーションの起こりやすい環境を作る」とメッセージを伝えました。
Asanaで「脱エクセル&パワポ」を目指すアステラス製薬。注目は「他部署連携」
イベント後半は、さまざまな業種の企業から3名のAsanaアンバサダーが登壇し、自社におけるAsana導入の事例を紹介しました。
最初に登壇したのは、アステラス製薬株式会社 Rx+事業創成部の柴田彩英子さん。
Rx(医療用医薬品)で得た知見を活かし、患者向け疾患管理支援アプリなどの新規医療ソリューションを提供する同部署では、プロジェクトマネジメントオフィスのメンバーが中心になり、定例会議における議事録やアクションアイテムの管理、予算管理、月報作成などの業務の進捗管理にAsanaを活用。導入によって「今まで見えづらかった他のメンバーのタスクの内容や進捗が見え、業務の透明性が上がった」「メールが減った」と好評の声が上がっています。
一方、従来の使い慣れた、また多くのメンバーが使っているツールや社内メールからなかなかAsanaの利用への移行が進みにくい現状もあり、これをどう解決していくかが今後の課題とも。Asanaのアカウントを増やし、社内でもっと使ってもらうことで対応していきたいといいます。将来的には今、エクセルやパワポで管理されているプロジェクトの進捗管理もAsanaに代替していきたいと考えているとのことです。
「現在は社内プロセス上の課題でまだ使用できていませんが、他のメンバーとの連携や協働がスムーズにできる点がAsanaの強みだと思うので、部内に広げることはもちろんプロジェクトに関わる他部門でも活用できるよう体制を整えていきたいと思います」(柴田さん)
“アンバサダー役”の社員が活用を啓蒙。みずほ第一フィナンシャルテクノロジーの事例
2番目に登壇したのは、みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社の数理コンサルティング・データアナリティクスグループ コーポレートアドバイザリー部の田所雅大さん。みずほグループ内外のデータ分析業務を担当する同社では、業務効率化施策の一環としてAsanaを活用しています。
導入にあたっては利用ガイドラインを設定し、利用研修もあわせて実施。積極的に使用している社員が“アンバサダー役”を務め、実際の業務における活用法を社内セッションで啓蒙するなど、手厚いサポート体制がとられています。
さらにAsanaを社内で活用してもらうための施策として、業務上連携することの多いグループ内関連会社への導入支援も実施予定。組織のトップダウン・ボトムアップ両面のムーブメントを起こすことで、活用シーンの増加を狙います。
現在同社では、ポートフォリオ機能の作成を部署単位で自由に任せ、同じ属性をもつプロジェクトを一つのポートフォリオにまとめる施策を実施中。また、ゴール機能の記入方法を統一し、各プロジェクトの位置づけを全社横断して見られるようにしたことで、「各プロジェクトが部の目標と結びつき、さらにその目標が社会課題に結びつくツリーを表現したことで、各社員のエンゲージメント向上に繋げたいと考えている」(田所さん)といいます。
今後は、社内で別途に運用されている工数管理システムの「予定・実績データ入力ツール」としてAsanaを活用し、さらなるシナジーの創出を目指しています。
そんな田所さんですが、Asanaの導入にあたっては社内の厳格なセキュリティが「壁」だったそう。求められる要件をクリアしていることを上層部に説得する過程では、社内のIT部門にサポートを得られたことが大きかったといいます。
「社内のIT担当者は、セキュリティに関するディスカッションを実施しつつ、説明資料の作成をサポートしてくれました。『導入できない理由ではなく、導入する理由を探しましょう』という言葉がとても心強かったです」(田所さん)
Asana社によるサポートの甲斐もあって、セキュリティ要件が十分に精査され、無事導入にこぎつけることができたと田所さん。「新しいツールの導入には『仲間を引き入れる』ということが大事なのだと実感しました」と語りました。
進捗管理からKPIへの寄与まで可視化。三菱ケミカルが取り組む「Asanaでプロジェクト管理」
3番目は、三菱ケミカル株式会社 デジタルストラテジックプランニング本部 プロジェクトマネジメントチーム長の大西知樹さんが登壇。
同社では、紙資料ベースの煩雑な会議や手続きの効率化のためにAsanaを活用しています。現在は本社の事業部門をはじめ、各地の事業所や工場、アメリカやヨーロッパなどの海外拠点で利用。当初は各拠点それぞれでアカウントを契約していましたが、その後本社のデジタル部門での契約に一本化しました。
「グループ会社間の結びつきが強くなったことで複数の部署に所属するメンバーが増加し、同一プロジェクトにもかかわらず、ディビジョンを跨いだメンバーで運用できない問題が発生していました。Asanaの運営を統合することにより、どこでどのようなプロジェクトが動いているかを把握しやすくなりました」(大西さん)
同社では、主要プロジェクトの確認にポートフォリオ機能、KPIに対するタスクの紐づけにゴール機能を利用。KPIを登録し、これに紐づけてプロジェクトを立ち上げるというフローを確立させています。このほか、外部ベンダーとのタスク管理にも活用。課題の共有、要件定義の段階からすべてAsana上でプロジェクトを管理できるよう取り組んでいます。
さらに、これを発展させるかたちで大西さんらが取り組んでいるのが、Asanaを用いた「プロジェクト立ち上げのガイドライン」の実現。アイディアレベルから計画、実施フェーズまでを6段階に分けることで、次のプロセスに行くまでに必要な段階を定義。それぞれを明確にクリアした状態で進行できるようにします。
「プロジェクト単位の進捗確認だけにとどまらず、KPIに対する寄与のレベルまでをステータスとして管理できるようにするのが目標です。将来的にはプロジェクト立ち上げ段階の精査にもAsanaを活用できればと思います」(大西さん)
「企業変革リーダーが集い、共に学ぶ」というテーマで行われた今回のPLANETSカンファレンス。セッションを通じて、参加者がお互いの会社や業務の領域を超えながら共通の課題を持ちより、ブレイクスルーのヒントをお互いに持ち帰る場となりました。
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