キャリアの成功を考えたとき、すべてが当初の計画通りに動くとは限りません。むしろ成功している人ほど、偶然のチャンスや出会いを目敏く見つけて活用しているものです。このように、キャリア形成における偶然性の役割を重視した考え方を、計画的偶発性理論と言います。本記事では、この理論の概要や注目の背景、キャリア成功のために必要な特性などを解説します。
計画的偶発性理論とは
計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)とは、スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が1999年に提唱したキャリア理論です。クランボルツ氏は、キャリアパスにおいては計画性と同じくらいに偶然性が重要な役割を果たすと考えました。
あるキャリア目標やキャリア計画を持つことはたしかに大切なことです。しかし、その目標や計画に縛られすぎて、かえってキャリアチャンスをつぶしてしまうこともあります。それよりは、大まかな方向性だけ決めて前向きに物事へ取り組み、予期せぬ出来事や偶然の出会いなどからチャンスを拾い上げることがキャリア形成につながるというのが、計画的偶発性理論の基本的な考え方です。
計画的偶発性理論の3つの骨子
計画的偶発性理論は、以下で示す3つの骨子から成り立っています。
- キャリアの8割は偶然起こる事象に依存する
- 自分の行動や努力次第で偶然の事象をキャリア形成に役立てられる
- 偶然の事象は意図的に引き寄せることが可能である
クランボルツ教授は、個人のキャリア形成は8割が偶然によって決まると考えました。ただし、計画的偶発性理論が意図するのは、「チャンスが目の前に転がってくるのを受け身で待っていればよい」ということではありません。重要なのは、偶然のチャンスが起きやすい環境へ計画的に身を置き、チャンスを見つけたと思ったらすかさずそれを掴むことです。
「計画性」と「偶然性」は一見矛盾しているように思えることでしょう。しかし、宝くじを考えてみてください。宝くじが当たるかどうかは偶然によって左右されます。しかし、最初に宝くじを買わないことには、当たりが出ることは決してありません。
計画的偶発性理論の考え方も基本的にはこれと同じです。「もしかしたらいい出会いがあるかもしれない」と前向きに考えて準備や行動を進めることが大きなキャリアチャンスにつながります。
計画的偶発性理論とキャリアアンカー理論の違い
計画的偶発性理論は、キャリアアンカー理論としばしば比較されます。
キャリアアンカーとは、キャリア決定の指針となる目標や価値観のことです。つまり、キャリアアンカー理論とは、キャリア形成は自分の確固とした目標や価値観に従って行うべきだとする考えです。
計画的偶発性理論は、柔軟な態度で目の前のチャンスを拾い上げることを重視しているので、両者は対照的な理論と捉えられます。
計画的偶発性理論が注目される理由
計画的偶発性理論が注目されているのは、現在のビジネス状況や社会情勢が「VUCA時代」と言われるほど流動的で不透明だからです。
たとえば、現在のデジタル技術は日進月歩で進化しており、それによってビジネスモデルも大きな変革を迫られています。実際、少し前までは音楽や映画はレンタルショップで借りて視聴するのが当たり前でした。しかし近年は、サブスクサービスでこれらを視聴する人が増加しています。
今後さらにデジタル技術が進化していった先で、ビジネスや社会にどのような変化が生じるのか見通すことは非常に困難です。たとえば今自分が就いている仕事が、数十年後はAIが代行していないと誰が断言できるでしょうか。
また、コロナ禍に代表される社会の急激な変化も注目すべき点です。コロナ禍は非接触型ビジネスやテレワークの普及など、社会に大きな変化を迫りました。さらに2022年にはロシアがウクライナに侵攻するなど、予想もしていなかった方向に国際情勢が動いています。
このような状況下では、10年後、20年後のキャリアプランを立ててもどこまで当てにできるか分かりません。それならば、今まさに揺れ動いている状況の中からキャリアチャンスやビジネスチャンスを掘り当てることに注力し、その都度の環境へ柔軟に適応していく姿勢こそが重要になるのではないでしょうか。
こうした理由から、オープンなマインドでキャリア形成していく計画的偶発性理論が注目を集めています。
計画的偶発性理論を実践するために必要な5つの特性
計画的偶然性理論では、5つの特性がチャンスを掴むのに役立つと考えられています。その5つの能力とは、「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」です。
好奇心
日常生活に追われていると、周りの世界に対して好奇心を持つことを忘れてしまいがちです。しかし、好奇心を失っては視野が狭まり、新しいことに出会う機会も少なくなってしまうでしょう。チャンスに出会うためには、自分の世界を広げ、新しい学びの機会に対してオープンであるべきです。好奇心を高めるには、他の業種について調べたり、何か習い事をしてみたり、SNSや交流会などで多種多様な人とつながってみたりすることをおすすめします。
持続性
新しいことに挑戦したり、馴染みのない環境に飛び込んだりすることには、失敗が付き物です。努力が裏目に出たり、行き詰まったりすることはよくあるでしょう。しかし、それで挑戦することをやめてしまっては、チャンスに出会う可能性を失ってしまいます。「失敗は成功の母である」という言葉もあるように、失敗は決して無駄な経験ではありません。試行錯誤することを後ろ向きに捉えず、粘り強く物事に当たることが大切です。
楽観性
楽観的な姿勢を保つことで、自分には新しいチャンスがあり、そのチャンスを手に入れられると信じられます。この姿勢は、たとえ挫折を味わったとしても、粘り強さを保つのに役立つでしょう。楽観性を保つためには、もしも直接的に自分の利益につながらないようなことでも、どんな経験にも価値があるのだと、前向きに捉えることが大切です。
柔軟性
状況の変化に応じて自分の考え方や信念を変えられるような広い心を持っていれば、偶然のチャンスが生じた際にそれを利用できる可能性が高くなります。逆に、考え方が凝り固まってしまっていると、狭い範囲の人々や物事にしか関われません。柔軟性を身につけるには、既存の考え方にこだわりすぎず、さまざまな角度から物事を考えたり、自分とは考え方の違う人々の意見を聞いてみたりすることが役立ちます。
冒険心
冒険心とは、リスクを恐れず行動することを意味します。多かれ少なかれ、新しいことへの挑戦にはリスクが付き物です。しかしリスクを恐れすぎると、結局、何も行動できなくなってしまいます。リスクばかりが気になってしまい、目の前のチャンスを逃してしまうこともあるでしょう。冒険心を育むには、多少のリスクには目をつぶることが必要です。企業であれば、多少の失敗は許容して、挑戦することを奨励する社風を作ることが重要になるでしょう。
まとめ
計画的偶発性理論とは、キャリア形成においては偶然性が重視であり、たまたま出会ったチャンスを積極的に活用していくことが成功につながるとする考え方です。チャンスを掴むためには、キャリアプランや価値観・考え方をあまり詳細に固めすぎず、オープンな姿勢を保つことが重要になります。新しいことを学んだり、未知の領域に飛び込むことを恐れずに行動し続けたりすることで、チャンスからチャンスへとつなげやすくなります。
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