長年、日本社会の課題の一つとされてきた「働き方」に関する問題は、平成30年の「働き方改革関連法」の制定により大きく変わろうとしています。今回は、この新たに制定された法律について、実際どのようなものなのか詳しく解説します。
働き方改革関連法とは
「働き方改革関連法」というのは通称で、正式には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」という名称になります。
「働き方改革」という言葉の意味を改めてみてみると「働く人がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を自ら選択することができる社会」を実現させようというものです。この法律は「長時間労働の是正」「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」という2本の柱により、この改革を推進し達成することを目指しています。
働き方改革関連法が注目される理由
日本は現在、急速に進む少子高齢化による労働力の減少という課題に直面しています。また、介護や待機児童などの問題もあり、働く人のニーズも多様化しています。さらに「ブラック企業」や「過労死」といった言葉に代表されるように、過酷な長時間労働も大きな社会問題となっています。こうした課題に対応し、解決を図るとともに、各人が自らのニーズや希望に合った働き方ができるような仕組みが、今の社会に求められているのです。
詳しくは、こちら「【3分でわかる】働き方改革とは?」記事でご参考にしてください。
働き方改革関連法の内容
この法律では、以下に示すような事柄が規定されており、一部を除いて令和元年の4月から施行されています。
時間外労働の上限規制
この法律により、初めて時間外労働に上限が設けられ、原則として月45時間・年360時間までということになりました。特別な事情があり、労使間で合意が成立した場合のみ、月100時間未満(休日労働を含む)・年720時間まで認められます。ただし、これも年間6ヶ月までとされており、さらに年間を通して2・3・4・5・6ヶ月間の平均労働時間が全て月80時間以内(休日労働を含む)でなければなりません。また違反した場合には、罰則の適用を受ける可能性もあります。
なお、医師など一部の業務や事業には5年間の猶予期間が設けられており、施行は令和6年からとなっています。
年次有給休暇取得の義務化
日本では長年、有給休暇の取得率の低さが問題とされてきました。こうした状況を変えていくために、年に5日間は必ず有給休暇を取得することが義務付けられました。この5日分に関しては、労働者側から取得を申し出る必要はなく、使用者側が労働者の希望を確認し、それを踏まえたうえで時季(日時)を決め、取得することになります。
なお、この制度の対象となるのは、年間10日以上の有給休暇が付与されている労働者となっています。
正規・非正規雇用の間の不合理な待遇差の禁止
非正規雇用の増加に伴い、「仕事内容は同じなのに、もらえるお金は全然違う」といった「不合理な待遇差」や「差別的な取扱い」が問題となっていましたが、この法律ではそれを禁ずることがより明確に規定され、ガイドラインも策定されました。
また非正規社員から、正社員との待遇差の内容や理由などについて説明を求められた際は、それに応じることも事業者の義務となりました。
さらに、行政から事業者へ助言や指導を行うことや、労働者と事業者との間で紛争となった際に、行政が無料・非公開の解決手続きを行うことも規定されました。
なお、中小企業においては、法律(パートタイム・有期雇用労働法)に適用されるのは令和3年4月からとなっています。
勤務間インターバル制度に関する努力義務
こちらも時間外労働に関連する制度です。「勤務間インターバル」とは、その日の仕事を終えてから次の日の仕事を始めるまでの間に、必ず一定時間の間隔(インターバル)を設けるようにするということです。
例えば、9時始業の会社がインターバルを12時間とるとすれば、夜中の12時まで残業した場合、出勤するのはお昼の12時でよいことになります。この際、12時を始業時間とせずに「9時~12時まで勤務した」とみなす方法もあります。ただ、こちらはあくまで努力義務となっており、実施は必須ではありません。
産業医と産業保健の機能強化
「産業医」とは、労働者の健康管理に関して指導や助言を行う医師のことで、労働者数が50人以上の事業場では必ず選任しなければなりません。問題があると判断した場合、産業医は事業者に是正などの勧告を行うこともできます。この法律で、産業医が業務を適切に行うために必要な情報を提供することが、事業者に義務付けられました。
また、産業医から勧告を受けた場合は、労使や産業医から構成される「衛生委員会」にその旨を報告することも義務となりました。
なお、50人未満の事業場においては、選任義務はありませんが、労働者の健康管理を医師に行わせるよう努めることが求められています。
割増賃金率に関する変更
「割増賃金率」とは、平たくいえば残業代のことです。時間外労働をした場合は割増賃金を支払わなければならないことが、労働基準法で規定されています。
割増率は通例25%ですが、月の合計が60時間を超えると、さらに25%追加され50%になります。
従来、この規定は大企業のみに適用され、中小企業は免除とされてきました。この法律ではその点が改正され、中小企業でも60時間を超える時間外労働には50%の割増賃金を支払わなければならなくなりました。ただ、こちらも猶予期間が設けられており、実際に施行されるのは令和5年からとなっています。
労働時間の客観的把握の義務化
労働時間を客観的に把握するという規定は従来から存在していましたが、それはあくまで割増賃金を適正に支払うためでした。そのため、割増賃金がいわゆる「みなし労働時間」に基づいて算定される「裁量労働制」の適用者や、経営者と一体的な立場にある「管理監督者」などは、この規定の適用対象とはされていませんでした。
この法律では、賃金のためではなく労働者の健康を守るために、全ての人の労働時間を適切な方法により、客観的に把握しなければならなくなりました。
高度プロフェッショナル制度の導入
こちらは、この法律により新たに始まった制度です。高度の専門的知識をもつ労働者(高度プロフェッショナル)は、本人が同意すれば、法定の労働時間や休憩・休日、および深夜の割増賃金が法律の適用外になるという制度です。これにより、開発や研究など専門的な業務に従事する人は、枠にしばられることなく、自分のペースややり方で仕事ができるようになりました。
ただし、乱用されることのないよう「年収は1,075万円以上」など、適用条件や対象となる業務は細かく規定されており、また「休日の保証(年間104日以上)」などの健康確保措置をとることも義務付けられています。
フレックスタイム制に関する変更
「フレックスタイム制」とは、あらかじめ規定された労働時間の範囲内で、始業時間や終業時間、労働時間を労働者がその都度自分で決めることができるという制度です。このうち労働時間に関しては、毎月規定の時間を超えた分は残業という形になり、割増賃金も発生しますが、逆に規定の時間に満たない分は「欠勤」という形にされていました。
この法律では、それが毎月ではなく「3か月」単位で計算されることになりました。これにより、例えば「6月にたくさん休みをとりたい」という場合には、4月と5月に規定時間以上の仕事をし、その超過分を6月の不足分と相殺することができるようになりました。
まとめ
働き方改革関連法では、時間外労働に上限を設けたり、割増賃金率を上げたりすることで、労働(残業)時間の短縮や有給休暇の取得の易化、各自のニーズや希望に合った働き方の実現が図られています。また、正規・非正規間の不当な差別の撤廃なども目的としており、あらゆる労働者の権利と健康を守る法律として施行されています。
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