普段何気なく使用している「業務プロセス」という言葉は人によって様々な解釈があります。すなわち、業務プロセスの定義が曖昧だということです。
日常的な、なんら変哲のないビジネスでの話なら曖昧な理解でも構わないかもしれません。お互いが何となく理解さえしていれば、意外と仕事は回るものです。しかし、業務プロセスを改善し、組織力の強化を目指すビジネスプロセス管理を実践する上ではそうもいきません。
「業務プロセス」という言葉の定義を定義し、関係者全員が明確に理解していなければその取り組みは失敗するでしょう。
そこで今回は業務プロセスの定義について改めて見直し、多くの企業が抱える課題について触れていきます。
業務プロセスは「道路」と「車」
企業が持つ業務プロセスは複雑で、そして巨大です。まさに全国津々浦々を通る「道路」と「車」のように。
業務プロセスを道路と車に例えるならば、業務は車でプロセスは道路です。スタート地点と目的地が設定されると、そこに向かって道路(プロセス)が敷かれます。そして交通整理が完了したらスタート地点から目的地に向かってどんどん車(業務)が走っていきます。
つまり、プロセスは特定の目的を達成するために設けられた工程や手順であり、業務は各工程で発生する仕事や処理を指します。業務を遂行するのは人であったりシステムであったりと様々で、プロセスによって最適な処理手順が示されるのです。
また、業務プロセスは複雑な道路のように部門間をまたがったり、様々な条件分岐を持ちます。迂回したりスタート地点近くまで戻ることもありますが、最終的には目的地へたどり着くように設計されているのです。
業務プロセスが持つ4つの特性
さらに業務プロセスには、「目的が定義できる」「入力と出力がある」「何度でも繰り返せる」「効果が測定できる」という4つの特性があります。
例えば「請求」という業務プロセスには「売掛金や製品代金を回収する」という定義された目的があります。さらに請求業務を入力(インプット)することで「請求書発行」や「代金回収」という新たな業務プロセスが出力(アウトプット)されます。さらに請求は請求先が変更になっても何度でも繰り返し行え、請求速度など効果測定を行うこともできます.
業務プロセスのあるべき姿は?
経営者の口から「業務プロセスをあるべき姿に戻したい」という言葉をよく耳にします。この「あるべき姿」とは何でしょうか?果たして、当人が認識している「あるべき姿」は本当にあるべき姿なのでしょうか?
多くの方が業務プロセスのあるべき姿を「業界のベストプラクティスにもとづいた業務プロセス」だと認識しています。
ちなみにベストプラクティスとは「特定の結果を得る上で最も効率的な技法、手法、プロセス、活動」を指した言葉です。ここで声を大にして言いたいのが「業界のベストプラクティスはあくまで一般的な成功例を寄せ集めてもの」ということです。
同じ業界に属していたとしても、そのベストプラクティスが必ずしも自社にとって「ベストな業務プロセス」とは限りません。むしろ、間違っていることの方が多かったりします。
業務プロセスの「本当のあるべき姿」とは自社の経営戦略にもとづき、理想と現実の乖離が限りなくゼロに近いものです。つまり経営戦略を達成する上で最も効率的かつ効果的なものが業務プロセスの「あるべき姿」だと言えます。
業界によって違う「プロセス」の定義
ここでBPMにおける業務プロセスについて定義しましたが、業務プロセスの曖昧さが消えることはありません。例えば一部の製造業では一つ一つの工程を指して「プロセス」と言ったりもします。
さらに言えば英語圏では「Business Process/ビジネスプロセス」ではなく「Business Flow/ビジネスフロー」や「Operation Flow/オペレーションフロー」と言ったりします。
このように「業務プロセス」という言葉の曖昧さが消えることはありませんが、大切なのはBPM関係者全員が共通認識のもとで業務プロセスを理解するということです。従って、BPM実践ではまず業務プロセスの認識共有化が重要だと言えるでしょう。
ほとんどの企業が抱える業務プロセスの課題
企業によって課題は様々だと言われていますが、業務プロセス上に課題についてはほとんどの企業が持っている課題があります。
2重作業による業務上のミスや遅滞
業務アプリケーションが発展してきた歴史の中では、部門ごとに分断化されたシステム環境が構築され、今や企業では独立したシステムがいくつも存在している状態です。こうした環境下では2重3重のデータ入力作業など、異なる従業員が同じ作業を行うことも少なくないのです。
そして当然、業務のミスや遅滞が発生してしまいます。
情報の停滞による経営の鈍化
複雑かつ分断化されたシステム環境や業務プロセスの中では、組織間を情報がスムーズに行き渡りません。これにより引き起こされるのが「経営の鈍化」です。
今や経験や勘に頼った経営を行う経営者は少なく、ほとんどの企業が「データにもとづいた経営戦略」を推進しています。しかし、その多くの企業が情報の停滞によって経営の鈍化を余儀なくされているのです。
業務プロセス、そしてシステム環境を整備し、常にリアルタイムな情報を参照に経営戦略を練れる環境が必要です。
属人化した業務による様々な影響
業務プロセスの中に一つでも属人化した業務があれば、そこには大きなリスクが潜んでいます。特定の人材のスキルに依存するような業務は万が一のケースが発生した時に業務が大幅に遅滞したり、あるいは新たな人材を確保しなければならないという負担があります。
全ての業務プロセスはできる限り標準化され、誰もが行える環境を整えるのがベストです。
慣習や伝統によるムダな作業
慣習や伝統を重んじるのは日本人として大切にすべき「心」ですが、組織においては業務プロセスを阻害する原因になることもあります。企業にも変革の時が訪れれば、古い慣習や伝統を捨てて新たな文化を築くことも大切です。
非定型処理において発生する対応のムラと処理速度の低下
業務プロセスには予め定義された手順に従って処理される「定型処理」と、ケースバイケー
スで都度処理される「非定型処理」がります。割合で言えば7対3ほどで、意外にも非定型処理が占める割合が大きいのです。
非定型処理のパターン化と処理手順が定義されていないと、対応のムラや処理速度の低下が発生してしまいます。特にクレーム対応など顧客と直接関わる業務プロセスの場合は、顧客満足度に強く影響するので整備が必要です。
部門間をまたがる複雑な業務プロセスによる作業の煩雑化
部門間にまたがる業務プロセスは基本的に複雑で、連結部分に様々な問題が発生する可能性があります。部門間とはまさに「国境」であり、自国から他国へモノを運ぶ際に様々な問題が発生するように、部門間にも様々な問題が発生するのです。
まとめ
BPM実践において「業務プロセス」の理解と共有化は必須です。全ての関係者が業務プロセスについて等しく理解していないと、プロジェクトの指針は失われ、成功とは違う方向へと進んでいきます。
まだ社内で業務プロセスについて定義できていないという企業は、ぜひ本記事で紹介した業務プロセスの定義を参考にしてください。
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- BPR・変革管理