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福山市 企画財政局企画政策部 デジタル化担当部長 兼 総務局 総務部参与(デジタル化担当) 岩崎 雅宣 氏(中央)/ 福山市 総務局 総務部 ICT推進課 ICT企画担当次長 松岡 基司 氏(左)/ 福山市 総務局 総務部 ICT推進課 主事 曽根 将之 氏(右)
広島県で2番目に人口が多く、瀬戸内の中央に位置する福山市。穏やかな気候と豊かな自然に恵まれ、築城400年以上の歴史を持つ福山城や、戦後復興の市民活動からはじまった植樹によって“ばらのまち”としても知られています。
多くの地方自治体と同様に、人口ならびに職員が減少傾向となる中でも、住民から寄せられるさまざまな要望に迅速に応えなければならない状況を抱えていた同市では、2021年に策定した福山市総合計画「福山みらい創造ビジョン」において、産業・地域・行政の3分野のデジタル化を掲げ、各分野の実行計画を同年度に起ち上げ、利用者目線でのデジタル化が本格的にスタートしています。
行政のスリム化や働き方改革へ向けて業務の見直しをすすめる中で、縦割り構造による他部署との連携の壁、非効率から高まる作業負荷、モチベーション維持への課題などが見えてきました。そこでこれらの課題を解決し、効率よくスピーディに質の高い行政サービスを提供できるようワークマネジメントツールの「Asana」を導入。
行政のデジタル化をリードする同市総務部の3名にAsana導入の経緯や効果、将来の展望をお聞きしました。
行政スリム化と多様化する住民の要望
両方に応えるため効率化が急務に
福山市では、主な産業として繊維業や鉄鋼業などがさかんで、様々なものづくり企業が立地しています。人口も約46万人と中四国地方でもトップ5に入るほどの都市ですが、2020年をピークに人口は減少傾向にあります。そのため、近年では状況を打破するべく子育て支援や経済の活性化、市の魅力を伝えるPR活動にも積極的に取り組んでいます。
とりわけ2016年に枝広 直幹氏が福山市長に就任してからは、「スピード感・情報発信・連携」を市政運営の根幹に据え、市長自らが市民の意見を聞く活動も展開しました。そこで集まった市民の声を反映したのが「福山みらい創造ビジョン」です。2021年からの5年間で「福山駅周辺の再生加速とグローバル都市の創造」「希望の子育てと寛容で健やかな社会の実現」「人や企業が安心・安全に活躍できる都市環境の構築」「新たな価値を創出する人材育成と個性光る地域振興」「歴史・文化とスポーツによる新たな体験価値の創出」という5つの挑戦の実現へ向けて取り組んでいます。
福山市の部署は約120あり、職員数は4098人。掲げたビジョンの実現に部署同士の協業は必須でしたが、それぞれが独自に業務を運営する縦割り構造で、スムーズな連携は難しい状況でした。また、市全体でどのようなプロジェクトがあり、進捗がどうなっているか、全体像が把握しにくいことも課題でした。福山市 企画財政局企画政策部 デジタル化担当部長 兼 総務局 総務部参与(デジタル化担当)の岩崎 雅宣 氏は当時の状況を振り返り「より多くの市民の要望に応えていきたいのですが、その一方で職員数も限られています。必要な業務を精査した上で、人を増やさずとも計画的に進められる体制が必要だと感じていました」と語ります。
そこで、民間の有識者も参加したCDO(最高デジタル責任者)チームと連携しながら、行政のデジタル化や職員の働き方改革に着手することになりました。限られたリソースで迅速な業務遂行ができる体制づくりに乗り出したのです。
福山市 企画財政局企画政策部 デジタル化担当部長 兼 総務局 総務部参与(デジタル化担当) 岩崎 雅宣 氏
事業進捗管理の課題は、意思決定をする上層部と、現場の職員それぞれにありました。副市長への重要業務に関する進捗報告は月に1度、担当者から次長、課長、部長、局長と各レイヤーでエクセルによって作成した報告書をブラッシュアップしていく流れになっており、報告資料の作成に2週間以上、報告確認までに3週間かかっていました。また、進捗管理の対象事業の数は600を超え、部署間の連携もないまま各方面から粒度の異なる報告が上がるため、上層部の方でもタイムリーに適切な意思決定がしづらい状況にありました。
現場の課題について、総務局 総務部 ICT推進課 ICT企画担当次長の松岡 基司 氏は「仕事の量・種類が圧倒的に増えました。市民のニーズは複雑化し、求めるレベルも高まっています。もはや一つの部署だけでは解決できず、組織を横断して情報共有しながら事業をスムーズに進められる体制づくりは必須でした」と説明しました。同じくICT推進課主事の曽根 将之 氏は「割り当てられた業務の目的が見えないケースもあり、内容に疑問が生じたり、連携部署への説明が困難になったりすることもありました」と加えます。
進捗管理にとどまらない導入効果
業務や働き方への意識にも変化が
福山市のデジタル化実行計画が2021年度に策定されたのち、2022年度の4月から6月の間で事業進捗管理のためのデジタルツールの選定が行われました。様々な部局や職級で構成される選定チームが候補となった3種のツールを比較検討し、Asanaの導入が決まりました。
採用の理由について岩崎氏は「進捗管理だけでなく、外部も含めたコミュニケーションのツールとしての可能性を感じました」と語り、試用を担当した曽根氏は「全体を俯瞰できるポートフォリオ機能や目標管理のゴール機能によって、自分の作業の目的が明らかになり、上長との共通認識を得られる点が非常に魅力的でした」と語りました。
また、これまで福山市ではセキュリティ面を考慮し、インターネット環境で利用するSaaSツールの使用を控えていましたが、Asanaは日本政府が求めるセキュリティ基準に準拠していたこともあり、最終的には問題なく導入の決定が下りました。
Asanaの導入は2022年7月に始まりました。松岡氏は、Asana導入によって自分が担当しているプロジェクトの多さに気づいたと言います。「これまでは課題が生じるたびに個別で対応していたので全体像までは把握できていませんでした。Asanaですべてのプロジェクトが可視化されていれば、複数のプロジェクトが走っていても、全体を見ていまどこに注力すればいいか優先度がひと目でわかる点が非常にいいですね」(松岡氏)
福山市 総務局 総務部 ICT推進課 ICT企画担当次長 松岡 基司 氏
これまで上長として担当者に電話やメールで進捗を確認することの多かった岩崎氏は、そのやりとりの回数が減ったことを実感しています。「Asanaを見ていれば、事業がうまくいっているかどうかを確認できます。わざわざ問い合わせをして職員の手を止めたり、書類を受け渡すために移動したりするような時間も節約されました」(岩崎氏)
トップ自らも浸透を旗振り
600以上の事業管理をAsanaに移行
福山市役所でのAsanaユーザーは、Asana公式パートナーである日商エレクトロニクスのサポートも受けながら、8月に400、9月にはさらに300増えて700アカウントと着実に拡大していきました。しかしAsana浸透の過渡期において実施していた使い方講習などを通じて、従来から続く書類での業務管理とAsanaでの管理が重複して負担が増えるという声も上がりはじめました。
民間企業であれば、売上や利益など業績を基にした評価指標が業務のモチベーションにつながりますが、行政サービスでは税金をいかに効率的に活用して質の高いサービスを市民へ還元できるかが求められます。コストを抑えるために業務負担を増やして補っても、根本解決につながらない上に職員のモチベーション低下にもつながりかねません。そこで、健全なワーク・ライフ・バランスを保ちながら、モチベーションも向上できるように、達成した業務が「市民へのサービスにどの程度直結するか」という点も評価指標のひとつに加わりました。
その指標に対するパフォーマンスを高めるため、職員全員に対してプロジェクトマネジメントの考え方やスキルを身につける研修を実施しています。この研修に先立ち、デジタル化推進のトップであるCIOを担当する副市長自ら、プロジェクトマネジメントの重要性と最適なデジタルツールを活用することの必要性について、力強いメッセージを発しました。こうしたトップによる旗振りが、組織全体の意識をより高める強力な一助となるためです。
職員への地道な使用法レクチャーと副市長からの後押しで、主要メンバーにAsana利用が徐々に浸透していった結果、さまざまな変化が起こりました。例えば、業務負担や効率の悪さから課題となっていた副市長への進捗報告のためのエクセル資料作成は不要になり、報告確認までかかっていた時間も3週間から3日間に短縮されました。
松岡氏は「600以上の事業管理がすべてAsanaに移行しました。これまでのように報告が主目的ではなく、プロジェクトマネジメントのために使っています。プロジェクトマネージャーとなった担当者が、最低週に1度は事業進捗を確認して内容を更新し、上長はそれを見てリスクがあるものについて助言や他部署との連携をサポートするといった使い方です」と説明します。
福山市 総務局 総務部 ICT推進課 主事 曽根 将之 氏
個人のタスク管理でもAsanaは日常的に活用されており、曽根氏は導入効果について「個人的には、完了したタスクが可視化されることでモチベーションが高まっています。これまでは『今月もたくさん仕事をしたけど少しは進んだかな…』といった感覚のみだったのですが、いまでは自身の完了タスクがリストになって明確化されることで充実感を得られています」と語りました。
また、Asana導入に際して行ったアンケート調査では、「作業の抜け・漏れがあるかどうか」について、導入前より導入後の数値が高まったといいます。Asanaで業務が可視化されるようになった導入後の方が、業務の精度や意識が高まり、作業の抜け・漏れについても気づきやすくなったためです。導入前のように、経験や感覚を頼りに業務にあたり、問題が起こった際に都度対処するというやり方では、なんとなく出来ている気になり、実際の作業の抜け・漏れに気づくこと自体が難しかったのです。
ユーザーアンケートではAsanaの使用前後での意識変容が見られた
質の高いサービスをスピーディに
Asanaとともに次世代の行政組織へ
福山市職員のプロジェクトマネジメント意識や働き方は着実に変わってきています。民間のメンバーからなるCDOチームからは「プロジェクトマネジメントの定着とその手段であるAsanaの活用をきっかけに、行政サービスの運用における問題の本質を捉えられるようになった」との意見もありました。松岡氏は「Asanaを使っているうちに、例えばタスク分解ができないことや、ファシリテーター不在によって起こる進行遅延などの改善点が浮き彫りになり、働き方改革につながりました。問題の本質に気付けることがDXの肝だと思っていて、こうした職員のスキルアップが市民サービスの向上にもつながっていくのだと実感しています」と語りました。
2023年度以降にはこの活動を、必要なすべての部署に広めていく方針で、多くの職員がAsanaを利用できるように環境も整えています。これまでにもすべての部署にはセキュリティ・インシデントやIT機器の故障に対応する「ITリーダー」が部署ごとに1〜3名、約240名配置されていましたが、これを「デジタル化推進委員」と改めるとともに、業務の現状把握と課題分析、デジタル技術を活用した事業の企画立案などをその役割に加えました。これまでの業務と並行して、デジタルを活用した業務改善を行えるよう人材のレベルアップにも取り組んでいるのです。岩崎氏は今後の展望について次のようにコメントしました。
「プロジェクトマネジメントの定着に向けて、職階や役割に応じた実践的な研修を継続的に実施することにより、Asanaの効果を最大限に活かせると考えています。今後も、より質の高い市民サービスを提供できるよう、職員のスキルアップと働き方改革を進めていきます」
Asanaによってプロジェクトマネジメントの概念や手法が根付いてきた福山市では、これからもより質の高い市民サービスをスピーディに提供できる次世代の行政組織を目指しています。
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