年功序列の組織体制が時代に合わなくなってきており、トップダウンのマネジメントから目標管理など従業員の主体性を引き出すマネジメントが広まってきています。OKRもそのうちのひとつの手法です。しかし、導入しても必ずしも期待した成果に結びつくわけではありません。導入成功の学びとなるよう、本記事では、OKRの失敗例を詳しく解説します。
OKRの失敗理由について知っておく意味
新しい物事に取り組む際、何が失敗につながるのかを事前に把握しておくことが大切です。OKRを実践するうえで、失敗するパターンとその理由を知っておくことは、成功に向けた重要なプロセスです。
OKRという、目標とその達成に必要な成果による目標管理方法は、「万能薬」というわけではありません。しっかりと運用しなければ失敗することもあります。その失敗理由を知り、成功に向けた学びとしていきましょう。以下では、OKRが失敗する典型的な理由を8つ解説します。自社がそれぞれのケースに該当していないかチェックしてみましょう。該当していれば、ひとつひとつ解決することで成功する確率を高められます。
OKRが失敗する8つの理由
OKRが失敗する典型的な理由を8つご紹介します。
難易度が適切でない
まずは、目標設定そのものに関する要素です。仕事で成果を出していくうえで、目標を立ててそこに取り組んでいくプロセスが重要とされていますが、そのなかでも設定する目標の水準がポイントです。
目標達成の難易度が高すぎれば、達成するイメージが湧かず、「これは達成困難だ。」「できるわけがない。」といった気持ちが先行し、モチベーションが下がりかねません。目標と現状が離れすぎているために、達成に向けた道筋が見出しづらくなります。
そうかといって、簡単に達成できる目標を設定してしまっては「手を抜いてもできる。」「努力しなくてもいい。」と思ってしまうため、目標が低すぎてもモチベーションにはつながりません。
OKRは従業員のモチベーションを引き出すことが大きな目的のマネジメント方法です。能力や経験などを踏まえ、「努力すれば達成できる。」というレベルに設定することで、各従業員のやる気やポテンシャルを引き出すことにつながります。高すぎず、低すぎず、ちょうどよい目標を設定することが成功の秘訣です。
報酬との連動がある
OKRでは目標とそれに必要なKPIを設定するため、その達成度などを個人や組織の報酬と連動する傾向もあります。数字でKPIへの到達度が測定しやすいため、人事評価や報酬と連動させやすいためです。
しかし、報酬と連動する仕組みにしてしまうと、それ自体が従業員の目標設定に悪影響を及ぼすことがあります。報酬欲しさに、達成度が高くなるようにわざと安易な目標設定をするという行動につながりかねません。あるいは、上司や管理職が報酬を抑えるために、高すぎる目標をトップダウンで設定してしまうこともありうるでしょう。
このように、OKRと報酬が連動すると、目標設定において2つの意味で悪影響が及ぶことがあります。
設定に関わるメンバーが限定的
目標設定に関わるメンバーが限定的であることも、うまくいかないケースのひとつです。
目標は、従業員一人ひとりが能動的に決定に関わっていないとモチベーションを引き出すことが容易ではありません。もちろん、従業員に任せきりでは低い目標設定になってしまう可能性もありますが、経営陣など上層部からのトップダウンのみで決定してしまうのも失敗につながる可能性が高いといえます。
このような問題を解決するために、上層部からのトップダウンと、従業員の主体性をうまく組み合わせた形で目標を設定しましょう。まず経営陣が企業として向かう方向性やビジョン、それに関するOKR導入の意図や背景、社員に期待することをラフな形でも発信し、全員に知らせます。会社全体としてのOKR決定は従業員からの提案を歓迎し、意見交換も行いながら決定していきます。次に、そのOKRに基づいて部署やチーム単位でOKRを決めていきます。そして最後にそれに基づいた個人単位のOKRに落とし込んでいきます。こうすることで、全員が当事者意識を持つことができ、従業員の主体性を引き出すことにつながります。
目標(O)が軽んじられている
OKRは、分解すると"O"と"KR"に分かれます。そのバランスに問題があり、運用が失敗するケースもあります。
典型的なのが、目標(O)が軽視され、成果指標(KR)ばかりが重視されるパターンです。忘れてはならないのは、目標があってこその成果指標である点です。目標が漠然としていたり、形骸化しているケースでは、成果指標ばかりにベクトルが向いてしまっていることがあります。
目標と成果指標のバランスが崩れているのは、そもそも目標が明確に定まっていないことが問題です。Oが軽視される状態は、すなわちチームや従業員の目標があいまいで、従業員は何のために達成するのかがわからず、ただ成果指標に従っているだけになってしまいます。目標が軽視されている状態のOKRは、従業員への悪影響が懸念され、失敗どころか、企業全体としてビジネスの停滞を招く危険性もあります。
OKRの共有がうまくできてない
OKRは、組織全体に浸透していないと機能しません。経営陣や上司だけでなく、現場のメンバーに共有されている状態でなければ、成果を生み出すのは難しいでしょう。
ここでいう「共有」は、単に目標や数値を伝達することだけにとどまりません。現場レベルまでしっかりと理解してもらい、そのうえで各自の行動スケジュールや成果指標に落とし込みます。それらについて、定期的に進捗や達成度をチェックしていく仕組みも必要です。
これらの実行にあたり、ツールの活用も有効でしょう。社内共通のシートを作成したり、オンラインでの共有や可視化ができるクラウドサービスを活用したりと手段はたくさんあります。
特に、クラウドサービスの利用は、対面しなくてもリアルタイムで各従業員の達成状況や問題点などが可視化できます。新型コロナウィルスでテレワークが広まっているなか、活用の余地が広い方法といえるでしょう。
振り返りや見直しの機会が欠如している
OKRは一度設定して終わりではなく、改善・運用していくことが大切です。振り返りや見直しの機会がないか不足しているとOKRが形骸化し、結果的に失敗に終わる可能性が高いでしょう。
インターネットを始めさまざまな技術が高度に発展し、ビジネスにおける変化のスピードが非常に速くなっています。一度OKRを決めて安心するのではなく、できるだけ短いサイクルで定期的に見直しを行わないと向かうべき方向性を見誤ることもあります。見直しや修正は当たり前というぐらいの認識を持ち、内外環境を見極めながら柔軟に対応することが大事です。
また、定期的にミーティングを行い、OKRと現実のギャップを振り返ることも大切です。従業員やチームのOKRと業務量や難易度に大きなギャップがある場合には、思い切った目標の変更も必要になるでしょう。
目標達成の価値が低い
目標は各従業員のモチベーションに大きく影響します。仮にその目標を達成しても、たとえば企業の業績アップにつながらないように感じるものや、利益とのつながりが見えない目標では、その達成に向けてモチベーションを高めることは難しいでしょう。
OKRでは、達成してもあまり価値がないような目標設定だと、失敗する危険があります。運用自体が目的化してしまうと、価値の低い目標が設定されてしまう確率が高くなります。
これを防ぐには、やはり企業として実現したいことや具体的な利益などを目標に定め、明示していくことがポイントです。ビジョンやミッションがあってこそのOKRであり、それらから導き出されるOKRであれば、従業員がその達成に向かって主体的に行動していくでしょう。
企業とOKRの相性がよくない
企業によって、ビジネスの形態や特徴はさまざまあります。目標管理は非常に重要ではあるものの、そのビジネス特性からOKRとはそもそも相性が良くないケースあります。そのなかで、無理やり導入しても成功する確率は低いでしょう。
たとえば、OKRが合わない企業風土もあります。OKRは基本的に高い頻度で目標や成果指標を見直していきます。大企業などで、たったひとつの決定事項を変更するのに多くの時間と労力が必要だったり、柔軟性に欠ける面があったりすると運用が失敗するリスクが高いでしょう。
また、目標達成のプロセスである1on1ミーティングやチームミーティングを、オンラインもしくはオフラインで定期的に開催できる土壌がないと、従業員のモチベーション維持が難しかったり、進捗状況や問題点を可視化したりできません。
いっぽうで、ベンチャーやスタートアップなど、そもそも外部環境の変化などに合わせて柔軟に動かないといけない企業にとっては、非常に相性の良いマネジメント手法といえるでしょう。
また、業務特性やビジネス上OKRと相性が悪い可能性があるのは、日々目の前の業務に追われている状態の企業です。目標の設定や見直しに使う時間が確保できない業務体制では、OKRの運用が中途半端になります。
忙しい現場でOKRを導入するには、まずは業務体制を整えたうえで、現場の従業員が業務と目標の連動性や成果指標の妥当性などを考える時間を確保する必要があります。これを省略し、無理やりOKRを設定しても従業員がそれを自らのアクションに落とし込むのは困難でしょう。
まとめ
OKRは導入すれば必ず成功するわけではなく、その導入が目的化してはなりません。一方で、本記事で解説した「OKRが失敗する理由」を理解し、対策を打てばその分だけ成功する確率が高まります。
トップダウンではなく、あくまで従業員との連携のなかで目標や成果指標を設定すること、環境の変化に合わせて柔軟に目標や成果指標を修正していくこと、OKRに合った組織体制やシステムにすることなどのポイントを押さえ、実践しましょう。
OKRを成功させていくうえで、ツールの活用も効果的です。「Asana」は、OKRにおける目標や成果指標を設定していくプロセスそのものや、設定したOKRの実行や追跡、評価までトータルで支援するツールです。オンラインで状況をリアルタイムで可視化できたり、他ツールとの連携がスムーズにできたりと、利便性も高く、リモートワーク環境でも実践しやすくなります。興味のある方は、是非検討してみてください。
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