多様な働き方が可能になった現代は、個人が仕事を通じて感じる「働きがい」が重要視される時代と考えられます。本記事では働きがいという言葉の意味を整理しつつ、企業経営の視点から従業員の働きがいを高めるメリットやその方法について詳しく解説していきます。
働きがいとは
そもそも「働きがい」とは、どういった意味合いを持つ言葉なのでしょうか。
海外諸国では昨今、働きがいについてWork MotivationないしはEmployee Motivation(仕事/従業員のモチベーション)という語句に基づく学術的研究が行われるなど、経営活動における重要な概念と見なされています。
例えば、「アメリカ心理学会」(American Psychological Association)は、Work Motivationを、「自分の仕事に対して努力しようとする意欲や意志」であると定義しており、モチベーションを高める要因には、「給与などの待遇」「地位や評価への欲求」「仕事の達成感」「同僚との関係」「自分の仕事が役に立っているという実感」などの事柄を挙げています。
以上のことから、働きがいとは「内発的な要因」と「外発的な要因」という2つの要素に大別できる概念であることがわかります。
内発的な要因とは、例えば「働くことが好き・楽しい」といったように、従事している労働そのものに価値を見出すモチベーションのあり方です。これは例えば、「仕事が趣味」といった言葉に端的に示される現象でしょう。
それに対し、外発的な要因とは「お金のため」「人に評価されるため」といったような、報酬や労働条件、就労環境などによって左右されるモチベーションの在り方です。
ただし、内発的/外発的と区分される2種のモチベーションに優劣はなく、こうした区分はあくまで分析する上での便宜上のもので、実際にはモチベーションは双方が交じり合って構成される複合的なものです。
例えば、いくら仕事が好きでも労働条件が劣悪過ぎればもちろんモチベーションは下がりますし、いくら労働条件がよくても、つまらない仕事を延々と続けたい人はそういないでしょう。
したがって、従業員のモチベーションを効果的に高めるためには、個々人が「仕事のやりがい」と「働きやすさ」の双方を得やすい環境づくりを試みることが有効と考えられます。
働きがいが注目される理由
「働きがい」の重要性が注目されるようになった一因として考えられるのが、時代の変化とともに「人材定着の重要性」が高まったことです。
「終身雇用制度が崩壊した」と言われて久しい現在、労働者にとって会社は一生をかけて仕える場所ではなくなりつつあります。新入社員の3年以内の離職率は3割を超えるとも言われ、人材採用・人事活動に関する各企業の負担は飛躍的に高まりつつあります。
加えて、組織における人材の流動性が高まったことが、結果として各社でのマネージメント層育成なども難しくなっていると見られています。これは、企業成長を妨げる遠因としても問題視されてきてもいるのです。
以上の問題は、今後さらに少子高齢化が進んでいくにつれ、ますます重要課題となっていくと目されています。このような状況下において、有能人材を自社に引き留める、あるいは呼び込むために重要なのが「働きがいの向上」なのです。
例えば全国の16歳から29歳までの男女を対象にした内閣府の2017年の調査によると、職業選択において重視する要素に「自分のやりたいことができること」を挙げた人が88.5%にものぼることが報告されています。これは「収入」が88.7%、「福利厚生の充実」が85.2%であることと比較しても、きわめて高い数値であると言えます。
つまり、現代社会における仕事の重要性は「報酬」や「出世」といった意欲に並ぶ勢いで、より「自分らしさ」を大切にすることに主眼が置かれつつある、とも考えられます。そうした要素を包括する概念として、改めて「働きがい」が注目されているのです。
働きがいを向上させるメリット
ここまで、「働きがい」という言葉の持つ意味や重要視されるようになった背景を整理してきました。続いて、従業員の働きがいを向上させることで企業が得られるメリットについて、より具体的に解説していきます。
業績の向上
平成25年度の厚生労働省の調査報告では、自社について従業員が「働きがいがある」または「働きやすい」と多く回答した企業は、「働きがいがない」「働きにくい」と回答された企業に比べて、生産性が有意に高いことが示されています。
つまり、それぞれの従業員が自分の業務に対して働きがいを感じている状態は、業務の生産性を高め、企業全体としての労働生産性の向上、ひいては業績の改善にもつながると考えられるでしょう。
人材の定着につながる
先述したように、働きがいは人材の定着を図る上でも重要です。業務に対する働きがいが高い環境では、従業員の離職の原因が解消され、人材定着率が高まることが想定されます。
そうすることで、企業は熟練人材の確保が可能となり、生産性やチームワークの改善といった取り組みに注力していけるようになります。結果として、従業員それぞれと企業が相互に成長していくことにも期待できるでしょう。
企業ができる従業員の働きがいを高める方法
働きがいを高めるメリットが整理できたところで、気になるのは従業員の働きがいをどのように向上させるかでしょう。続いては、従業員の働きがいを高めるための方法について、具体的なアイデアを紹介します。
企業の経営理念への共感
従業員の働きがいを高めるために企業がすべき第一のことは、自社の経営理念を伝え、共感を得ることです。
「自社がどんな価値観のもとビジネスを行っているか」「どのような理想のもと経営を行っているか」といったことを丁寧に説明すれば、従業員は自社への理解や共感を深めることができます。経営理念への共感を個々人が抱くことは、仕事を通じて実現したいことをより深く考えるきっかけとなり、前述した「内発的な働きがい」の向上へとつながるでしょう。
自社の経営理念への共感を醸成させるためには、例えば入社直後の研修などが最適です。企業が経営理念を明確にし、共感を得ることで、従業員はチームとして目標意識を共有しやすくなり、離職率の高さが懸念される新入社員も職場に馴染みやすくなります。
個別メンバーに目標を与える
経営理念の説明を通して企業全体の理想や目標を共有する一方で、従業員それぞれに個別の目標を与えることも大切です。
その際に大事なのは、トップダウンで一方的に目標を与えるのではなく、個々の意見や適性にも配慮することです。
「何に高い価値を感じるのか・何を目標にすればモチベーションが得られやすいのか」は従業員によって異なります。そのため、ことさらモチベーションの向上を理由にして目標を与えるならば、個人の意志を無視した命令は意味を持たないでしょう。
従業員は自らの価値観を周囲に理解してもらうことで、職場において居場所を見出し、会社への帰属意識(エンゲージメント)を高めます。企業に求められる姿勢は「メンバーが何を求めているのか」を的確に把握し、それに適した目標やチャンスを与えることです。そのためには、業務における悩み相談や雑談などを通して、管理職や経営層が日頃から従業員と意見交換を行うことが有効でしょう。
コミュニケーションの活性化
上記とも重複しますが、従業員の働きがいを高めるためにはコミュニケーションの活性化も外せません。従業員間でのコミュニケーションが活発な環境は、信頼関係が高まりやすい環境でもあります。
同僚や上長、他部署のメンバーと強く信頼関係が結ばれることで、従業員は安心して働くことが可能になり、自分の考えを発信しやすくなります。
一般的に「人間関係が良好な職場」というのは、それだけでも魅力があり、働きがいを自然と持ちやすくなるものです。また、コミュニケーションの活性化は、風通しのいい働きやすい職場環境の構築に寄与し、離職理由の一因である「人間関係トラブル」の防止にも役立つとされています。
まとめ
従業員の「働きがい」を高めることは、個人の自主性や創造性の支えになることはもちろん、企業の成長・存続といった観点からも重要であると言えます。
人材の定着率を高め、企業の持続的な成長を可能にするためには、より働きがいを感じられる環境づくりに取り組むことが有効です。そしてその際に大事なのは、公正な労働条件などを整備すると共に、組織内でのコミュニケーションを活性化させ、異なる価値観や行動理念を1つの方向へと導くことでしょう。
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