カスタマーエクスペリエンスやユーザーエクスペリエンスなどの言葉は、聞き覚えのある方が多いかもしれませんが、昨今「トータル・エクスペリエンス」というワードが注目を集めていることはご存知でしょうか。
本記事では、このトータル・エクスペリエンスがどのような概念でなぜ重要とされるのか、その背景も含めてわかりやすく解説します。
トータル・エクスペリエンスとは
トータル・エクスペリエンス(Total Experience:TX)とは、カスタマーエクスペリエンス(CX)、エンプロイーエクスペリエンス(EX)、ユーザーエクスペリエンス(UX)、マルチエクスペリエンス(MX)の4つを包括した概念です。ビジネス戦略において上記の4つの分野をリンクさせることで、それぞれの体験が相互に影響を与え合い、それぞれ個別に取り組むよりも飛躍的な価値が得られるという考えに基づくものです。エクスペリエンスについて総合的に考え、それを実現することで、顧客満足度の向上、健全で生産的な職場環境の実現、製品やサービスの品質向上、ブランドロイヤリティの向上など、企業が求めるビジネス成果を実現するチャンスが大きく広がります。このトータル・エクスペリエンスは、2021年にガートナー社が発表してトレンド化しており、近年注目を集めています。
トータル・エクスペリエンスを構成する4つの要素と例
続いては、トータル・エクスペリエンスを構成する4つの要素について解説します。これら4種類すべての取り組みを総合的に行うことが、トータル・エクスペリエンスにおいては重要です。
CX(カスタマーエクスペリエンス)
CXとは、マーケティングから販売、カスタマーサービスなど、カスタマージャーニーのあらゆる接点における顧客視点での体験のことです。顧客が企業に対して感じる信頼や好意は、商品・サービスの内容や価格のみで決まるものではありません。
たとえば、商品を購入する際に販売員から手厚い接客を受ければ、商品そのものに対する評価も好意的になりますし、逆に何かトラブルが起こった際、カスタマーサービスで冷淡な対応を受ければ、二度とそこの商品を買わないと感じることもあるでしょう。このようにCXはあらゆる顧客接点から影響を受けるものであり、それらを総合的に改善していくことで顧客ロイヤルティの向上につながります。
EX(エンプロイーエクスペリエンス)
EXとは、従業員体験を意味しており、言葉通り従業員が職場で得る体験のことです。従業員が職場でどのような体験をしているかは、従業員エンゲージメントに密接に関係します。従業員エンゲージメントとは簡単に言うと、企業に対する愛着や共感、信頼感などを指します。そして重要なのは、従業員エンゲージメントは、従業員の仕事に対するモチベーションに直結しており、そこから労働生産性や離職率などの要素へとつながっていくことです。
たとえば、理解のない上司、攻撃的な同僚、過度の時間外労働、不衛生なオフィス、公正さのない人事評価などは、すべてEXを損なう要素です。このような環境に置かれた従業員は、仕事に集中できず、離職を考えてしまうかもしれません。逆にこれらの要素をすべて反転させれば、従業員は仕事に満足感を覚え、長期にわたって会社に貢献したいと思うでしょう。
UX(ユーザーエクスペリエンス)
UXとは、製品、サービス、アプリケーションなどをユーザーが実際に使用したときの体験を指します。これは、ユーザーがその製品をどれだけ楽しめたか、役立てられたか、使いやすかったかなど、商品やサービスに関係する広い範囲の感情や体験をカバーする概念です。
たとえば、ECサイトのユーザーは、サイトのデザイン、商品の見やすさ・探しやすさ、会員登録や購入までの手続きの利便性、商品の発送の早さなど、さまざまな観点からそのサイトを評価しています。このように、UXは総体的なサービス体験とユーザーがそこで感じる感情的価値を示しており、企業に対する満足度や信頼度向上につながる要素です。
MX(マルチエクスペリエンス)
MXとは、顧客の総合的なデジタル体験を意味します。このデジタル体験の中には、Webサイト、モバイルアプリ、チャットボット、VR、MRなど、多種多様なものが含まれます。
多くの人がスマートフォンを持ち歩くようになった現在、こうしたデジタルなタッチポイントの重要性が増しているのは明らかです。特にコロナ禍以降はその傾向が顕著で、たとえばファストフード店においては、アプリで事前にモバイルオーダーをすることで素早く商品を受け取れるようにするサービスを提供しているなど、これまで以上に実店舗とデジタルのサービスを融合させた取り組みが広がっています。こうしたデジタル技術を活用したサービスなどを通じて顧客が得た体験価値を、MXと呼びます。
トータル・エクスペリエンスを重視すべき理由
これまでは各エクスペリエンスは別個のものと見なされ、別々に対策が取られてきました。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック以降、社会やビジネスが急激に変化し、競合他社との競争はもちろん、顧客との関係維持や従業員の管理などについてもさまざまな課題が生じています。
実際、ガードナー社の調査によれば、実に53%もの企業が5年前よりも競争が厳しくなっていると回答しています。また、ビジネスの成長のために重視する事項として、「従業員の士気や満足度を高める」(41.8%)、「顧客満足度を高める」(33.5%)、「非効率な業務を廃止または改善する」(31.5%)が上位3位を占めていました。
このような状況にあって、4つのエクスペリエンス戦略は個別にではなく、包括的に進めた方がよいという見方が強まってきました。たとえば、コロナ禍においては、顧客だけでなく、従業員同士でさえ対面での接触が抑制されました。顧客対応も従業員間のコミュニケーションもこれまで以上にデジタル(MX)に頼った手段が増えました。このような状況では、CXやEX、UXについて考える際、MXについても考慮に入れざるを得ません。顧客、ユーザー、従業員のエクスペリエンスを、この新しい状況に適応させる必要があります。
このように、現在の厳しいビジネス状況にあっては、トータル・エクスペリエンスの向上に取り組み、従業員と顧客双方のトータルでの満足度や利益向上を目指すべきだと考えられています。
トータル・エクスペリエンスに取り組むメリット
続いては、トータル・エクスペリエンスに取り組むメリットについて解説します。
商品やサービスの質を向上させられる
トータル・エクスペリエンスのメリットその1は、商品やサービスの質の向上です。たとえば、いくらCXやUXの改善策を練ろうとも、実際に顧客に接する従業員に仕事へのモチベーションがなくては長期的に高い効果は見込めないでしょう。その点、CXやUXはもちろん、EXやMXも総合的に向上させることで、商品やサービスの質の向上が期待できます。
企業の成長につながる
トータル・エクスペリエンスのメリットその2は、企業の成長の促進です。CXやEXの向上は、顧客や従業員と長期的に良好な関係を構築していくために役立ちます。また、トータル・エクスペリエンスに取り組む際には部署間や従業員間のコラボレーション促進も期待できるため、その交流の中から事業に役立つ新たなアイデアが生まれるなど、価値の創出につながります。新たな価値の創出を累積することで、企業はより大きく成長します。
離職率の低下・生産性の向上につながる
トータル・エクスペリエンスのメリットその3は、離職率の低下および生産性の向上です。トータル・エクスペリエンスを向上させることで、従業員エンゲージメントも高められるため、離職率の低下が期待できます。また、従業員のモチベーションが高まれば、事業における総合的な生産性の向上につながります。
トータル・エクスペリエンスを取り組む際のポイント
最後に、トータル・エクスペリエンス向上に取り組む際のポイントを紹介します。
4つの要素のバランスを意識する
最初に説明したように、トータル・エクスペリエンスは4つのエクスペリエンスを総合的に向上させる取り組みです。したがって、トータル・エクスペリエンスに取り組む際は、4つのエクスペリエンスのバランスを意識することが大切です。CXを重視するあまり従業員に無理をさせ、EXが低下してしまうようではトータル・エクスペリエンスの向上は果たせません。客観的に全体の状況を見極めるには、それぞれの要素に明確なKPIを設定するとよいでしょう。
デジタルを重視する
4つの要素にMXが含まれていることからもわかる通り、トータル・エクスペリエンスを考える際にはデジタル技術の活用を意識することが重要です。現在のICT社会においては、顧客との関係維持だけでなく従業員の業務効率化やテレワークなどの新たな働き方の確立のためにも、MXは欠かせません。他の3つのエクスペリエンスとどのように結び付けて取り組めば成果が出るのか、自社の状況に応じた考察が求められます。
まとめ
トータル・エクスペリエンス(TX)とは、CX、EX、UX、MXそれぞれのエクスペリエンスを包括する概念です。昨今の複雑に変化するビジネス環境においては、各エクスペリエンスは個別に考えるのではなく、包括的にバランスを見ながら取り組むことが重要です。
トータル・エクスペリエンス向上のためには、プロジェクト管理ツールの「Asana」の導入がおすすめです。Asanaを活用すれば、デジタル上で各従業員の仕事状況を効率的に管理し、チーム内のコラボレーションも促進できるため、各エクスペリエンスの質的向上に寄与します。ぜひトータル・エクスペリエンス向上のためにAsanaをお役立てください。
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