大勢が関わるプロジェクトを成功へ導くには、個々の役割や作業範囲を明確にし、可視化しなくてはなりません。そのために用いられるのが作業範囲記述書です。本記事では、作業範囲記述書の概要や必要性、具体的な作り方などについて解説します。
作業範囲記述書(SOW)とは
作業範囲記述書とは、プロジェクトに関わる個人や企業が担当する作業の範囲を定義した文書です。プロジェクトの受注者が作成するケースが多いですが、顧客である発注者が主導して作成し、受注者と合意する場合もあります。プロジェクトに複数の個人や企業が関わるケースでは、事前に計画の全容や誰が何を担当するのか、どこまで作業するのかといったことを明確にしたうえですり合わせをしなくてはなりません。そのために用いられるのが作業範囲記述書です。作業範囲記述書は、SOWと表記されることがあります。SOWは、Statement of Workの略です。作業範囲記述書のほかに、作業明細書や業務仕様書と訳されることもあります。業種によってSOWの呼び方は異なり、IT業界では作業範囲記述書と呼ばれることが多いのに対し、コンタクトセンターなどでは業務仕様書と呼ばれることが少なくありません。
作業範囲記述書に盛り込まれる内容は、プロジェクトによって異なります。一般的には、プロジェクトの目的や作業範囲、成功の定義、要する費用、成果物、タスクなどに関する内容を定義します。
作業範囲記述書の必要性
作業範囲記述書を作成する目的は、プロジェクトに関わる者たちの認識違いや齟齬などを可能な限り減らすためです。プロジェクトによっては、社内外を問わず多くの関係者が関わるケースが珍しくありません。関わる者が多くなるほど認識のずれやチームでの論争などが発生するリスクが高まるため、作業範囲やスケジュール、成果物などを明確に定義して契約書とします。作業範囲記述書の効果を最大化させるには、プロジェクト管理ツールの導入が有効です。優れた作業範囲記述書を作成しても、適切に管理ができていなければプロジェクトの成功は望めません。効率的な管理を実現できるツールを導入し、作業範囲の調整や進捗状況の細やかなチェックを行うことでプロジェクトを成功へ導けます。
作業範囲記述書の作成のポイント
作業範囲記述書に記載すべき項目は多々あるものの、プロジェクトの内容や企業によって盛り込む内容や作り方は異なります。ここでは、一例として作業範囲記述書作成のポイントをお伝えします。1.プロジェクトの内容
プロジェクトに参加する企業のなかには、企画を立ち上げた企業のことを知らない会社があるかもしれません。そのため、自社がどのような企業であり、どういった商品やサービスを提供しているのかなど、紹介文を記載します。そのうえで、今回立ち上げるプロジェクトの内容を記載しましょう。プロジェクトに関わる企業や個人など、関係者の情報も記述します。
2.プロジェクトの目標
プロジェクトが最終的に目指すゴールを記載します。プロジェクトの完遂によって何を得たいのか、どういった状態になりたいのかを明確にしましょう。また、プロジェクトが成功したかどうかを判断する基準も設けます。具体的かつ可視化できる、定量的な目標を設定しましょう。たとえば「1年以内に売上を○%増加させる」「月の問い合わせ件数○件を達成する」などの現実的な目標です。3.作業範囲
プロジェクトの目標を達成するために必要な作業を記載します。作業範囲記述書のなかでもっとも重要なコンテンツです。多くの個人や企業が関わるプロジェクトの場合、何をどこまでやる必要があるのかが明確でないと、計画の進行に支障をきたすおそれがあります。まずは、プロジェクト完遂までに発生する作業の内容を明確にしましょう。たとえば要件分析や基本設計、開発などの作業があるでしょう。作業範囲に含まれるもの、含まれないものを明確にし、そのうえで計画に関わる個人や企業それぞれの担当、役割を定義します。
4.タスクの詳細
作業範囲に含まれる作業のタスクを細分化して担当者に割り振りしましょう。誰が何を担当するのか、いつまでに対応するのかといったことを記載します。すべての関係者が一目で理解できるよう、作業分解構成図(WBS)の作成をおすすめします。WBSは、プロジェクト管理でよく用いられる管理手法の一種です。WBSの作成によってプロジェクトの全体像やタスク間の関係性を可視化できます。作成したWBSをガントチャートへ反映させることにより、各タスクの進捗状況の可視化が可能です。
5.中間目標
プロジェクトの中間目標(マイルストーン)と期限を設定します。長期にわたるプロジェクトの場合、中間目標を定めておくことで現在地を明確にでき、ゴールまであとどれくらいなのかを把握できます。中間目標は具体的である必要があるため、「令和○年○月上旬」などと数値で目標を設定しましょう。6.成果物や納品物
プロジェクトの完遂に伴う成果物や納品物について記載します。納品方法や納入場所、期日などに関しても記載しましょう。テスト計画書や仕様書といった中間成果物を記載しておくケースもよくありますが、納品が不要なものもあるため分かりやすく区別して明記します。7.期限やスケジュール
期限やスケジュールを明記していないと、納期遅れのリスクを招くおそれがあります。成果物をいつまでに納品しなくてはならないのか、それぞれのタスクにどれほどの時間を割くのかといったことを記載しましょう。なお、各タスクに費やす時間は現実的でないといけません。非現実的な作業時間を設定してしまうと、担当者の反感を買うおそれがあります。
8.テストとテストの基準
プロジェクトの完遂に必要なテストの内容を記載しましょう。たとえばWeb制作関連のプロジェクトなら、脆弱性やセキュリティ、SEO診断などのテストが考えられます。プロジェクトで発生するすべてのテストを洗い出し、必要なリソースや機器なども記載します。実施するテストの内容に併せて担当者も記述しましょう。また、テストの基準についても明記します。どのような結果であれば合格にするのか、判断基準を明確にしておかないと現場が混乱します。テストで問題が発生するケースも踏まえ、工数は厳しく見積もりましょう。
9.プロジェクトの成功を定義
何をもってプロジェクトを成功と判断するのか、その基準を明確にします。ここが明確でないと、参加者はプロジェクトが成功したのか失敗したのか判断できません。成果物の納品をもって成功とする、など具体的に定義づけするのはもちろん、すべての関係者に同意を得ることも大切です。10.開発や制作の要件
Webやシステム開発であれば、作業環境や使用する開発言語などの要件を定義します。ほかにも、利用する外部システムやCMS、テスト環境なども記載しましょう。開発に使用するデバイス、サーバー、検証機なども記載します。開発に要する資格があれば記載しておきましょう。担当者の選定にも関わってくるため、漏れのない記載が必要です。
11.費用・支払い
プロジェクトに要するすべての費用を明記します。人件費や外注費、外部システムの利用料などを記載しましょう。予算を申請していてまだ決裁がおりていないものも記載します。いつまでに、どのように支払うのかも明記しなくてはなりません。月末締めの翌々月に一括払い、3回の分割払いで指定口座へ振り込み、といった具合に明記します。
まとめ
多くの個人や企業が関わるプロジェクトを円滑に進め、成功へ導くにはSOWの作成が不可欠です。チーム内での論争や誤認識の回避につながるため、適切な作業範囲記述書を作成し活用しましょう。SOWの効果を最大化できるツールには「Asana」があります。個々のタスクやプロジェクトの進捗状況をリアルタイムで把握でき、適切なプロジェクトマネジメントを実現します。コミュニケーションツールとしての側面ももつため、多くの人が関わるプロジェクトの強い味方となること間違いありません。
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