プライバシー強化コンピュテーションは「PEC」とも呼ばれ、その中のメイン技術である秘密計算は、暗号化して計算しプライバシー保護を行う技術です。本記事では、プライバシー強化コンピュテーションの概要やプライバシー保護が重視される背景、秘密計算を用いた各分野の事例を解説します。
プライバシー強化コンピュテーション(PEC)とは
プライバシー強化コンピュテーション(PEC)とは、データ保護において安全に計算および分析する技術です。中でもメインである「秘密計算」と呼ばれる技術は、個人情報やパーソナルデータなどを暗号化したまま計算し、プライバシーを保護できます。この技術は、たとえデータが盗み見られても、暗号化されているため情報漏えいを防止できるのが特徴です。
アメリカのIT調査会社であるガートナー社は、近年のトレンド技術として、このプライバシー強化コンピュテーションを挙げています。セキュリティ性の向上が期待できることから多くの注目を集めており、今後もさらに市場規模が拡大していくと見られています。
プライバシー保護がより重視される背景
近年、プライバシー保護に関する事象が多くの注目を集めています。ここでは、プライバシー保護が重視される背景として、海外の動向と日本の動向をそれぞれ解説します。
海外の動向
EUにおいては、2018年5月25日から「一般データ保護規則(GDPR)」という、個人情報の保護および基本的人権の確保を目的とする規則が適用されました。この中ではIPアドレスやCookieも個人情報とみなされており、企業はこのような個人情報を取得する際に、処理の目的に加え連絡先や第三者提供の有無、保管期間などを明記し、ユーザーの同意を得る必要があります。
なお、この規則は短期間EU圏に訪れていたユーザーの個人情報も対象であり、規則を守らなければ罰則があります。
日本国内の動向
一方、日本でも個人情報の保護に関する規則強化の世界的な波に乗り、「個人情報保護法の改正」が行われました。日本の「個人情報保護法」とは、個人の権利や利益を守ることを目的とした法律です。2020年に可決された改正案では、保有個人データの利用停止・消去などの請求権の拡充や、不適切な方法により個人情報を利用してはならないことが明確化されました。また、データの提供先が持つ「個人関連情報」について、第三者提供に本人の同意が得られていることを確認しなければならないことが義務づけられています。
秘密計算の事例を紹介
前述のプライバシー強化コンピュテーションのメイン技術である「秘密計算」は、幅広い分野で活用されています。ここでは、分野別に5つの活用事例をまとめました。
事例1:安全を意識したマーケティング分析(広告)
あるインターネット広告企業では、マーケティング分析に秘密計算を用いることで、安全性の高いマーケティング分析の実現を目指しています。実証実験では、顧客企業が持つ顧客データと自社のあらゆるデータを連携させ、顧客分析およびリサーチシステムが持つデータが秘密計算に適用可能かどうかの実験も行っています。
この実証実験により、顧客データを秘匿した状態で統合分析を行えることが証明されました。これはマーケティング分析において、秘密計算がプライバシー保護に有益であるということです。同社は今後、秘密計算を用いたマーケティング分析手法の確立を目指すとのことです。
事例2:コスト削減と即時の情報共有を実現(製造)
ある製造会社では、自社製品の品質および関連パーツの生産状況の把握・分析にあたり、工場敷地内にサーバールームを設置し、運用・保守や解析用AIのメンテナンスに膨大な費用をかけていました。それが問題視されたことで、クラウド上で管理できる秘密計算ソフトウェアの導入に踏み切りました。
秘密計算を用いて、各工場における生産状況などの機密データを暗号化し、クラウド上でデータ解析を行いました。その結果、安全性の高い分析が可能になりました。加えてデータ共有や分析、AIモデルの更新もクラウド上で完結できるようになり、メンテナンスの手間もありません。コスト削減や高いセキュリティ性に加え、手間が省けたことで作業効率も向上しています。
事例3:膨大なデータが集まるICカードでの検証(交通)
交通の分野では、ある鉄道会社が鉄道やバス、買い物で利用できるICカードでのデータ分析に秘密計算を取り入れました。個人情報である「乗降データ」や「購買データ」を暗号化したまま分析することで、プライバシー保護に有益性があります。また、駅の施設をはじめとするグループ企業などの販売促進や、他社との連携といった方面でも幅広く活用されています。
事例4:効率的で安全な診断に向けたデータ活用(医療)
医療分野では、効率的な診断や一人ひとりに合わせた医療を提供する「個別化医療」の実現に向け、データの連携および活用が期待されています。具体的には、患者の生活習慣・服薬履歴などの文字情報や、問診中の音声データをAIによる診断支援に活かす取り組みです。一方で、診療データは患者の個人情報として機密性がとても高いデータであるため、慎重に扱う必要があり、情報漏えいや秘匿性の観点から懸念されていました。
こうした課題には、秘密計算の活用が有効です。カルテの文字データに加え、診断結果などの個人情報を暗号化でき、それも常時暗号化したまま解析可能です。秘密計算などのプライバシー強化コンピュテーションを取り入れることで、困難な症例に関する診断支援およびパーソナライズされた医療提供の実現に大きな効果をもたらします。
事例5:個人情報を守れるデータ解析(金融)
近年、金融機関ではカスタマーエクスペリエンス向上のため、インターネットバンキングをはじめ、チャットボットなどのAIや機械学習のクラウドサービスを提供しています。その中で、不正取引防止策として取引データの解析を行っています。この解析では、事前に匿名に加工する必要があり、その加工により分析に活用できるデータが減ることで、分析の精度が下がってしまう点が課題でした。また、機密データを一箇所に集めることは非常に大きなリスクとなります。
これらの課題に対応できるのが秘密計算です。秘密計算は、データの暗号化にあたり、「暗号鍵」と「データ」を分けて管理します。そのため、解析中に何らかの攻撃を受け暗号化データが漏えいしても、取引履歴および個人情報の漏えいは避けられます。この秘密計算により、データを加工する必要がなくなり、迅速な不正取引検知ができるようになりました。
まとめ
プライバシー強化コンピュテーションのメイン技術である秘密計算は、個人情報などのプライバシー保護に有益となる技術です。近年では、EUで個人情報保護を目的とした規則「一般データ保護規則(GDPR)」が適用され、日本でも「個人情報保護法」の改正が行われました。そのことから秘密計算は大きな注目を集めており、医療や製造の現場、さらに広告・金融・交通などの分野において秘密計算の実証実験が行われ、実用化されています。今後の企業活動において、プライバシー保護はより重要度が増すと見られており、プライバシー強化コンピュテーションの存在は一層大きなものになるでしょう。
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