「PRINCE2(制御環境でのプロジェクト)」は、欧州を中心に普及しているプロジェクト管理手法の一つです。日本での知名度はそれほど高くないものの、認定資格制度もあり、柔軟性の高さから数多くの業界で採用されています。本記事では、PRINCE2の概要や構成要素について解説します。
そもそもプロジェクト管理とは
プロジェクト管理とは、計画を達成するための目標と方法を設定し、それぞれのプロセスで業務の進捗状況を把握しながらスムーズにプロジェクトを完了へと導く一連の管理を指します。プロジェクトを成功させるには、資源となるヒト・モノ・カネ・情報・時間を適切に配分し、コントロールする能力が求められます。特に製造業において欠かせない3要素QCD(Quality=品質、Cost=コスト、Delivery=納期)を高める上でも欠かせない活動です。
PRINCE2はプロジェクト管理の手法のひとつ
「PRINCE2」は、Projects IN Controlled Environments 2nd editionの略称で、英国政府が1989年、ITプロジェクトの管理基準として策定したプロジェクト管理手法です。元々「PRINCE」という手法があり、それが大幅改定された際にPRINCE2と名称が変わりました。現在では、欧州や国連を中心に官民問わず活用されています。また、最初はITプロジェクトに特化した管理基準でしたが、改定後はあらゆる業界・業種で適用できる内容になっています。
PMBOKとの違い
これまでプロジェクト管理手法といえばアメリカの非営利団体・PMIが策定した「PMBOK」が主流でした。PMBOKはプロジェクト管理に関する知識・手法を体系的にまとめたもので、主に日本やアメリカで採用されています。
一方のPRINCE2は欧州を中心に採用されており、プロジェクトの手順やプロセスに関する記述が多い傾向にあります。両者はどちらが優れているというものではなく、それぞれ対象とする範囲や特徴が異なります。双方を上手く取り入れ、活用することが大切です。
PRINCE2の構成要素
PRINCE2は7つの原理、7つのテーマ、7つのプロセスによるシンプルな構成の管理手法です。ここでは各要素について解説をします。
PRINCE2の7つの原理
原理とは「プロジェクトの指針」となるもので、以下の7つに分類されています。
ビジネス正当性の継続
PRINCE2ならではの特徴として、ビジネスの正当性が挙げられます。プロジェクトへの投資が正当なものであるかを常に評価し、十分なリターンが得られるかどうかを判断することが重要です。また、この正当性はプロジェクトの期間を通して継続的に問い続けなければなりません。途中で採算の見通しが立たなくなったら、プロジェクトを中止する決断も必要です。
経験から学ぶ
全く同じ内容のプロジェクトは2つとして存在しませんが、類似した内容のプロジェクトはあるかもしれません。過去の案件に学ぶことで、成功確率を高めることができます。
役割と責任の明確な定義
プロジェクトマネジャー(PM)はチームに与えられる役割と責任を明確に定義する必要があります。役割と責任が明確になっていないと、ミスが生じた際に組織内で責任転嫁し合う状況が発生してしまいます。
段階によるマネジメント
プロジェクトをプロセス単位で段階的に分けることで、投資に対して見直しをする機会を得られます。予算の承認にあたっても複数の管理段階に分け、その都度判断して意思決定をすることを推奨しています。
例外によるマネジメント
予算や納期、品質、スコープ、利益、リスクといった各指標について、例外が発生した際の許容度を設定しておく必要があります。許容度を超えた場合には速やかにPMが介入できる仕組みを整えておけば、PMの負担を軽減しながら効率的にプロジェクトを管理することが可能です。
成果物重視
プロセスよりも成果物の品質に焦点を当てているのもPRINCE2の特徴です。「何を納品しなければならないのか」という問いに対する答えを常に明確にしておくことで、プロジェクトの手順や時間、コストの見積もりが可能になります。
プロジェクトのテーラリング
PRINCE2では、組織の規模や業種に合わせて管理方法を手直しする必要があります。マネージャーの役割や人数もケースバイケースで調整することが重要です。
PRINCE2の7つのテーマ
テーマとは、原理を実現するために継続的に実施すべき活動と概念(ノウハウや知識)のことで、以下の7つに分類されています。
ビジネスケース
ビジネスケースとはプロジェクトの妥当性を判断するための資料のことで、このテーマではビジネスケースをプロジェクトを通してどのように開発・維持するか、各プロセスの終了時にどのように更新・見直し・承認するかについて説明しています。
組織
チームにおける全メンバーの責任構造を類型化したテーマです。PRINCE2が推奨する責任構造は柔軟性が高く、プロジェクトの規模にかかわらず様々なニーズを満たしているのが特徴です。
品質
全てのプロジェクトにとって最も重要な要素である品質について、要求される品質基準における責任の所在や品質管理の計画などについて解説されています。
計画
「何を」「いつまでに」「誰が」「どうやって」達成するのか、様々なレベルのプロジェクトに対応した計画が定義されています。
リスク
PRINCE2ではポジティブ・ネガティブ両面での不確実性によってリスクを定義するのが特徴です。このテーマではリスクを把握・評価・対応していくための計画・実行・報告手順などが説明されています。
変更
全てのプロジェクトにおいて変更は常に発生するものです。PRINCE2ではそうした変更に対応するためのプロセスを類型化しており、変更の把握から影響分析、対応策の実行、報告までの一連の流れがまとめられています。
進捗
プロセスの進捗を管理するための確認や報告についての手段がまとめられています。プロジェクトの継続可否を決定するための材料でもあります。
PRINCE2の7つのプロセス
プロセスとは、プロジェクト管理の活動手順のことです。開始から終了まで7つのプロセスが類型化されています。
プロジェクトの指示
PRINCE2が定義する最初のプロセスではありませんが、プロジェクトの継続判断、資金管理、リスクへの対応などプロジェクトにおける全ての意思決定がここで行われるため、全体の中で最も重要なプロセスです。
プロジェクトの立ち上げ
本格始動前に実施される最初のプロセスです。目的の明確化や目標設定、関係者の洗い出し、成果物の納品方法など、プロジェクトの概要を要約書にまとめてチームに共有します。実施価値や妥当性を判断することも重要です。この要約書をプロジェクト委員会に提出して承認されれば、実際にプロジェクトがスタートします。
プロジェクトの始動
このプロセスはプロジェクトを始動するまでにPMが行う作業です。立ち上げ時よりも詳細な計画と準備が行われ、費用対効果や納期、リスク、品質などをまとめた計画書を作成します。
段階のコントロール
プロジェクトはスタートからゴールに向かって段階的にいくつかのフェーズに分けられます。PMは定期的に進捗を確認し、工期や費用のコントロールを行います。
成果物提供のマネジメント
チームマネジャーによって行われるプロセスで、成果物納品後の品質管理を行います。その後、顧客が承認を行います。
段階境界のマネジメント
各段階の終了後、PMは次の段階に向けた計画を再度見直す必要があります。現状の報告書をまとめてプロジェクト委員会に提出し、継続の決定が下されると次の段階に移行します。このプロセスはプロジェクトの各段階において繰り返し行われます。
プロジェクトのクローズ
プロジェクトの最終段階終了時、もしくは契約よりも時期を早めて終了した際は、プロジェクトをクローズします。プロジェクト活動と通常業務の明確な区切りをつけるため、やり残した事項があれば完成させ、担当の部署に引き継ぎを行います。
PRINCE2でのプロジェクト管理にはAsanaが便利
PRINCE2でのプロジェクト管理を全て手作業で行うことは容易ではありません。そこで活用したいのがプロジェクト管理ツールの「Asana」です。AsanaではPRINCE2の原理・テーマ・プロセスに適応した管理を実現します。タスク管理機能も備えており、進捗や各タスクのステータスも簡単に追跡できます。PMの業務負担を軽減できるとともに、チームメンバーは自分の役割が明確になり、品質を向上させることに集中できるでしょう。
まとめ
PRINCE2はプロジェクトの規模やタイプに合わせて柔軟に調整が行えるため、あらゆるプロジェクトに対応できる管理手法です。組織における全プロジェクトで共通のプロセス、役割、用語を使用することで、効率的な管理を実現します。PRINCE2を自社に適した形で活用するにはツールの活用も効果的です。プロジェクト管理ツール「Asana」を導入し、生産性向上に役立ててみてはいかがでしょうか。
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