昨今、商品やサービスを提供する際に「顧客経験価値」が重要視されてきています。この記事では顧客経験価値とはどのようなものか、また5つの構成要素や、顧客の評価軸について解説します。最後に顧客経験価値を高めるために企業ができることもご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
顧客経験価値(CX)とはなにか
人々の価値観が多様化し、変化の激しい現在の社会において、企業と消費者との関わり方が変わりつつあります。これまでのように「モノを売る」ことを重視し、商品やサービスそのものの品質にこだわるマーケティングではすぐに陳腐化してしまい、競合他社との差別化も図りにくくなってきたのです。その代わり、商品やサービスを購入したり利用したりする過程から得られる「体験」に価値を持たせるマーケティング手法が注目を集めてきています。
それは「顧客経験価値」または「カスタマーエクスペリエンス(CX)」と呼ばれ、商品自体の価値(使いやすさ、便利さ、デザインのよさなど)は、あくまで顧客経験を構成する要素の一部とされます。たとえば、同じ価格の同じお弁当を食べるのでも、ぎゅうぎゅう詰めの狭いテーブルで食べるより、ゆったりとしたソファー席に座って食べたいというのが顧客の心理でしょう。また、そこで食べたお弁当の味は美味しく感じられるでしょうし、記憶にも残りやすいものです。お弁当を販売すること自体よりも顧客にお弁当を食べてもらう「経験」もふくめて売ることを重視した販売方法は、やがて企業のブランドイメージ向上にもつながっていきます。
顧客経験価値(CX)はなぜ注目されているのか
ではなぜ近年、顧客経験価値(CX)が注目を浴びるようになってきたのでしょうか。
モノが豊かになった現代では、消費者の嗜好や価値観が非常に多様化しています。そのため、商品やサービスそのものの価値で差別化することがだんだん難しくなり、体験という付加価値が必要になってきている背景があります。Netflixなど、サブスクリプションサービスの浸透も1つの例といえるでしょう。また、IT技術の進歩により、ビッグデータやAIなどを活用し、よりパーソナライズしたサービスが可能になってきていることも一因といえます。さらに、SNSなどの発達により、消費者が毎日自ら情報発信するようになり、企業もその影響を大きく受けるようになっていることが挙げられます。
顧客経験価値(CX)を構成する5つの要素とは
アメリカの経営学者バーンド・H・シュミット氏は、顧客経験価値(CX)について、以下の5つの要素に分解できることを提唱しました。
では次から1つずつ見ていきましょう。
Sense(感覚的)
人は常に触覚、視覚、嗅覚、聴覚、味覚という五感を働かせて、心地いいと感じられるものに対してよい印象を持ちます。たとえば、送られてきた宅配便を開けるといい香りがする梱包材が入っていれば「このお店はきっと上質な店舗だろう」という印象を持つでしょうし、BGMのセンスがよい飲食店であれば、その雰囲気から美味しさも倍増するでしょう。
これらの例のように、五感を刺激されることは、顧客にとって価値を感じるポイントだといえます。
Feel(情緒的)
また、コンサートやテーマパークのパレードなど、心が揺さぶられるような感情に訴えかける経験は「情緒的」な価値として訴求したものです。たとえばディズニーランドで得られる感情は、決して他では得られません。熱狂したり感動したり、かっこいいと感じたりかわいいと愛おしんだりすることで、顧客の記憶はより深く刻み込まれるようになります。
Think(知的)
人間は誰でも知的好奇心を満たしたいという欲求があります。そのため、興味を感じたものを勉強したり創造性を働かせてモノづくりをしたりすることも、顧客経験価値の要素になります。たとえば水族館や博物館へ足を運ぶといった経験はこれに該当するでしょう。
Act(行動、ライフスタイル)
日々の生活において、これまで経験のないことや一度してみたかったという体験も、価値の1つになります。たとえば、食事管理付きのパーソナルトレーナー、アクティビティ体験などが例として挙げられるでしょう。
Relate(社会的)
5つ目は、何か興味のある特定の集団に属することで得られる価値です。具体例としては、ファンクラブに加入したりSDGsの啓発イベントに参加したりする経験などがあります。
顧客が求める経験価値の要素とは
5年にわたるグローバルでの「顧客経験価値(CX)調査」の分析から、顧客経験価値(CX)を高めるには、以下の5つの要素を顧客に感じてもらうことが重要だといえます。
- Relevance(私個人に提供されたものである)
- Ease(私にとって意味がある)
- Openness(オープンで透明性がある)
- Empathy(私の立場に立ってくれている)
- Emotional Rewards(よい気分にさせてくれる)
つまり顧客経験価値を高めるためには、いかに顧客の感情面をカバーできているかどうかが大きなポイントになります。
1つの事例を紹介しましょう。
行きつけの定食屋さんで、ホームシックにかかっていることを察した女将さんが、メニューにはないのに自分の地元の郷土料理をつくって出してくれたとします。料理の美味しさはもちろんですが、ただ注文した料理を出されるのではなく、感情に寄り添った対応をしてもらうだけで感動するのではないでしょうか。また、そのお店のことが大好きになるのではないでしょうか。結果として、その顧客はそのお店へこれからも通い続けることでしょう。顧客経験価値を上げることのメリットは、まさにこの部分にあるといえます。
顧客経験価値を高めるにはどうすればいいのか
では、商品やサービスを顧客経験価値として昇華させるために、企業はどうすればよいのでしょうか。
ここでは2つのポイントを挙げてご紹介します。
顧客を深く理解する
1つ目は、商品やサービスを購入したり利用したりする顧客のことを深く理解することです。顧客の年齢や性別、家族構成など基本的な情報や、自社ホームページへのアクセス履歴などにとどまらず、いつ、どのように、なぜ商品やサービスに触れ、購入や利用に至ったのかという背景や状況を知ることで、顧客と商品やサービスとのタッチポイントが明確化できます。また、感情が大きく揺れ動いたポイントを知ることで、今後どこに重点を置いて訴求すればよいのか参考にでき、次からのマーケティングにも活かすことができるのです。
顧客理解をすべての起点とした組織を構築する
組織は自社のシェアや業績という結果のみに目が行きがちです。しかし、顧客を理解するという姿勢や取り組みをビジョンとして掲げるとともに、製品の開発、販売、アフターサービスなどあらゆる部門で取り入れ、活かす体制を築く必要があります。そうすることで、顧客は一貫した価値のあるサービスを享受でき、企業にとってはファンを増やすことにつながるからです。
また、勘や経験ではなく、データをもとに意思決定を行ったり、意思決定に至るまでのプロセスを明確化したりすることで、社内でのコンセンサスを得やすくなります。このように、トップの経営層だけではなく、現場を預かる全従業員とも認識を共有することは、非常に重要といえるでしょう。
まとめ
現在の企業には、商品やサービスの品質を高めることはもちろん、顧客経験価値(CX)を高めることでより顧客とのつながりを強化することが求められています。そのためには顧客のことをよく知るとともに、組織を横断して顧客理解という姿勢を持つことが非常に重要です。そこでAsanaのワークマネジメントツールを利用すれば、やるべきことを一覧化し、顧客の立場に立っているかを確認しながら、チームでの業務進捗把握が容易になります。ぜひ活用してみてください。
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