近年、働き方改革やDXの推進に伴って「BPR」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、「用語は知っていても詳しくは知らない」「業務改善との違いがよくわからない」といった企業担当者様も少なくないのではないでしょうか。ここではBPRの概要や業務改善と異なる点、BPRのメリットと進め方などについて詳しく解説していきます。
BPRとは
BPRとは、「Business Process Re-engineering(ビジネスプロセスリエンジニアリング)」の略称で、日本語では「業務改革」の一言で表されます。具体的には、企業が既存のビジネスプロセスをすべて見直し、首尾一貫したルールのもとで最適化する取り組みを指します。BPRが成功すれば、生産性を高め、売上・収益率の向上、顧客と社員の満足度向上といった目標を達成できるでしょう。
業務改善と似ていますが、業務改善は一般的に業務フローや組織構造といった限定的な範囲を取り扱います。一方、BPRは市場・顧客の志向に合わせて、既存の経営戦略・組織構造をはじめ、業務内容、各業務プロセスやフロー、人事評価など全体を対象とする点で一線を画します。
BPRによって期待できる効果
多くの企業がBPRに取り組んでいますが、BPRで得られるメリットはさまざまです。
まず、「業務の効率化」が挙げられるでしょう。BPRを実践する最初のステップ「業務の棚卸し」では、在庫資産の可視化を促します。特に在庫が余剰にある物品や使用頻度が低い資材に注目すると、各業務プロセスにおける「ムリ・ムラ・ムダ」が明確になります。この分析をもとに業務プロセスの廃止・統合や資材の統一といった施策を実施することで、業務の効率化・最適化が図られるでしょう。
続いて、「生産性の向上」も効果として挙げられます。ムリ・ムラ・ムダを排除して業務プロセスを効率化・最適化すると、生産性が飛躍的に高まります。作業負荷が減れば、社員のモチベーション向上にもつながるのは言うまでもありません。
これらの業務への好影響が感じられるのであれば、その根底にはリストラを伴わない「コスト削減」の効果が確認できるはずです。具体的には、人員配置の最適化による管理コストの削減、在庫・設備の健全化によるランニングコストの削減、運営資金のムダの効率化・最適化によるロスの削減などが挙げられます。
また、「顧客満足度の向上」も大きな効果の1つです。もともとBPRは顧客・市場の志向に合わせて企業を再構築する取り組みなので、適切なBPRを進めていく中で顧客の利便性、サービスの質の向上が推し進められます。それによって中長期的な顧客満足度の向上も現実のものとなるでしょう。
BPRが注目される背景
BPRは、長期不況が続く1990年初頭のアメリカで、元マサチューセッツ工科大学のマイケル・ハマー教授と経営コンサルタントのジェイムス・チャンピー氏によって提唱されたとされています。2人の共著には、1993年出版の「Reengineering the Corporation(邦題:リエンジニアリング革命)」があり、BPRはバブル崩壊後の日本でも広まりました。
近年、再び日本でBPRに注目が集まっている背景には、政府が掲げる「働き方改革」があります。特に抜本的な改革を行うための材料として各種ITツールがある現代では、それを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)を同時に推進しながらBPRを実践できます。バブル期よりも成功率の高いBPRは、顧客・市場の志向に対する企業戦略の策定、業務の効率化・適正化、長時間労働の是正、多様な人材が働きやすい環境の構築などを実現する手法の1つとして注目されています。
BPRの成功に向けた進め方のポイント
続いて、BPRを成功させるための進め方について、押さえておきたいポイントをご説明します。重要な項目ごとに見ていきましょう。
目的・目標・範囲について検討する
BPRを進める準備段階では、BPRを行う目的・目標・範囲について検討します。
改革の単位をBSU(ビジネス・システム・ユニット)で区切る方法もありますが、既存の組織体制の枠組みありきで決めると業務改善レベルで終わってしまう可能性があります。業務改革ですから「単なる“業務改善”で終わらせないこと」「改革すること自体が目的にならないこと」を意識しながら部門の統合・分散なども視野に入れて十分な検討をしてください。もちろん、上層部だけで決めるのではなく、各部門の責任者・従業員から話を聞くことも大切です。
一貫した目的・目標・範囲が決まったら、「何のためにBPRを行うのか」「BPRを行う背景とはどんなものか」を社員にも明確に伝えて共有しましょう。共通認識を持っていないと途中でゴールを見失ってしまい、失敗に終わってしまう可能性が高まります。
業務プロセス・フローを分析する
続いて全社的な業務プロセス・フローの現状分析を行います。
顧客・市場の志向を分析しながら、顧客目線で理想的な業務プロセス・フローを検討します。その後、全社的に各業務の現状確認をして、業務プロセス全体の「見える化」を行いながら理想とのギャップを課題点として抽出します。
その際に「財務・顧客にとっての価値・業務プロセス・人材育成」の4項目から企業の評価を行う「BSC(バランススコアカード)」、複数のデータを優先度が高い順番に分けて分析する「ABC分析」、業務プロセス・フローを視覚化する「プロセスマッピング」などのフレームワークを活用してもよいでしょう。それぞれの課題は、重要度、必要性・緊急性の高さ、優先順位などを考えながら分類しておくと、次のステップでの負担が軽減されます。同時に、各部門の強み・弱みを分析し、顧客に製品・サービスが届くまでの一連の流れの中で企業としての付加価値やウィークポイントをしっかりと把握するようにしましょう。
方針や戦略を決めて設計する
全社的な現状と課題を把握したら、それらをふまえてBPRをスムーズに実行するための方針・戦略を決めていきます。指標とするのは効果予測と優先度です。
「重要度が高く、かつ優先順位の高い課題」「重要度は低いが、優先順位の高い課題」「重要度は高いが、優先順位は低い課題」など、決定した優先順位をもとに課題の効率化・最適化につながるプロセスを模索し、設計します。企業内部で再設計を進めるだけではなく、第三者目線からの意見を求めて外部企業を頼るのも1つの方法です。
改革を実施する
設計ができたら、いよいよ実行計画に基づいた改革を実行します。
実行にあたっては、現場からの反発や混乱を防ぐために、改めてBPRとそれに伴う業務改善に関する説明を行い、全社的に共通意識を持てるようにしてください。また、BPRは長期的な視野を持ってあたる必要がありますが、場合によっては中長期的な目標を達成するために、短期的な目標、行動目標を設定することも大切です。
最初はスモールスタートで新しい業務プロセスを実験的に導入し、効果測定をする方法もよいでしょう。スモールスタートによってリスクと失敗を最小限に抑えつつ、適宜調整・修正を繰り返しながら、より多くの成功体験を重ねていきます。モニタリングによって効果の詳細を検討できるようにしておくと、問題が発生した際や計画修正を迫られた際に役立てられます。
効果や問題について評価する
改革を実行したら、掲げた目標の達成度をはじめ、新しい企業戦略や全社的なプロセスによってどのような効果が生まれたのか、新たな一連の業務プロセス・フローに問題はないか、新たな問題・課題は生まれたかなどの評価を行いましょう。顧客・市場の志向に敏感になりながらPDCAを回し、必要であれば随時修正を加えていきます。こうした継続的取り組みによってBPRが達成されます。
まとめ
市場・顧客の志向に合わせて、企業戦略レベルから抜本的な見直し・改革を行う取り組みがBPRです。DX推進と同時に進めるのも効率的で、適切なBPRを実行できれば、生産性の向上をはじめ、顧客・社員の満足度向上などの大きなメリットが期待できるでしょう。BPRを成功に導くためには、BPRを行う背景・目的、業務プロセスの最適化へ向けた道筋、改革の進捗度合いなど、全社的な共有と管理が欠かせません。
この共有と管理はITツールの導入によって効率化できます。例えば、DXタスク・プロジェクトを一元管理できるツール「Asana」を導入すれば、BPRのタスク管理を一元化し、進捗を可視化できます。このようにBPRを実施する際はITツールの導入も検討してみてはいかがでしょうか?
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- BPR・変革管理