近年、複数事業を展開する企業が増えてきています。従来のやり方で複数事業へ着手する場合、しばしばプロジェクトの硬直も発生していたため、変化に対する即応力の強化と組織形態の保持が課題となっていました。これらの解決策として注目されているのが、「マトリクス組織」の採用です。本記事では、マトリクス組織の概要やメリット・デメリットをご紹介します。
マトリクス組織とはどのような構造の組織か
マトリクス組織とは、「行列」を意味する「マトリクス(Matrix)」が示すように、職能別・製品別・事業別・エリア別など業務遂行要素に応じて構成された各組織を縦軸・横軸の関係に配置し、両軸の要素を交差させる形で組み合わせる組織形態のことです。言葉で説明するとわかりにくいかもしれませんが、品質管理によく用いられるマトリクス図をイメージすると理解しやすいでしょう。
マトリクス組織の注目すべき点として、1人の従業員が複数系統の組織に配属される点が挙げられます。電機メーカーを例に、縦軸に製品別の事業部(パソコン・AV製品・家電など)を配置し、横軸には職能別の部門(生産・営業・研究開発・マーケティングなど)を配置したと仮定してみましょう。この場合、1人の営業部員がパソコン・AV製品の営業活動を兼任したり、1人の研究開発部員がAV製品・家電の研究開発に携わったり、といった形をとります。
このように人材が複数の仕事を担うことで、組織的に業務の円滑化と柔軟性向上を図ろうというのが、マトリクス組織の目的とするところです。そして、このマトリクス組織は管理者の選定方法により、「ストロング型」「ウィーク型」「バランス型」の3構造に分類されます。
マトリクス組織の構造パターン1:ストロング型
マトリクス組織はその性質上、従業員が直属の上司や管理者以外からも指示を受けることがあり、組織内に混乱が生じるケースも少なくありません。ストロング型では、そうした混乱を避けるべく、組織内にプロジェクトマネジメントに特化した部門を設け、プロジェクトマネージャーを各プロジェクトに配置します。これにより、複雑な組織形態においても方針を一本化・共有しやすく、適切なマネジメントを行えるのがメリットです。
マトリクス組織の構造パターン2:ウィーク型
ウィーク型では、ほか2つと違いプロジェクトの管理者を設定せず、意思決定を各メンバーの裁量に委ねます。管理者を設けない都合上、各メンバーに主体性と緊密な連携が求められますが、上司の決定や判断を待つ必要がそもそも生じないため、柔軟でフットワークの軽い対応が可能です。ただ、組織としては指揮系統が曖昧な部分もあり、それゆえに責任の所在などで問題が発生しやすい点はデメリットといえます。
マトリクス組織の構造パターン3:バランス型
バランス型では、通常の機能型組織と同様に、プロジェクトの管理者を同一のプロジェクトチームから選出します。そのため、管理者がプロジェクトの進捗状況を把握しやすく、適切な意思決定を下せるメリットがあります。必要な指示を迅速に出せるので、統率が取りやすく、メンバーのケアも行いやすい形態です。
マトリクス組織導入のメリットとデメリット
マトリクス組織を導入するうえで気になるのは、やはりメリット・デメリットでしょう。以下では、導入による主なメリット・デメリットを見ていきましょう。
メリット:作業効率および品質の向上
マトリクス組織では、複数のスペシャリストがチームを組むことによって、組織の垣根を越えた強固な協力体制が実現し、さまざまな角度から意見を集められます。これによりコミュニケーションの活性化が期待できるほか、プロジェクトの目標をより共有しやすくなるため、作業の効率化にもつながります。
また、職務が同じ場合は互いにスキルを磨き合うことも可能です。同じ職務に従事する者同士で切磋琢磨することにより、技術力や作業品質の向上が見込めるでしょう。
デメリット:体制と命令の複雑化、そして対立の発生
マトリクス組織の最たるデメリットとして、複雑化する体制や指揮系統が挙げられます。先述したように、従業員は機能型組織だけでなくプロジェクト型組織にも所属する都合、構造的に複数の管理者から指示が入ることがあります。そのため、管理者間で意見がまとまらず、従業員が板挟み状態になるケースも少なくありません。
また複数の管理者間、あるいは組織全体のパワーバランスを保つことが難しい点もデメリットです。上記の事情も相まって、管理者間やチーム内などで摩擦・混乱が生じやすく、組織内対立に発展する可能性も懸念されます。
マトリクス組織以外の組織形態の特徴
このように、マトリクス組織は一長一短がある難易度の高い組織形態ゆえ、闇雲に導入したところで期待するほどの効果は得られないかもしれません。そのため導入にあたっては、ほかの組織形態の特徴を比較材料として押さえ、そのうえで自社に適した組織形態かどうか検討することが重要です。
主な比較材料としては、プロジェクト型組織と機能型組織の2つが挙げられます。というのも、マトリクス組織は両者の特徴を兼ね備えた組織形態といわれるためです。以下では、これら2つの組織形態について見ていきましょう。
プロジェクト型組織の特徴
プロジェクト型組織は、事業部とよばれるチームを企業内につくる組織形態です。事業部はプロジェクトの目標達成のため一時的に結成され、目標が達成されれば解散します。なお、プロジェクトのチームである事業部は多くの場合、製品・サービス・地域などの要素で編成されます。
事業部を管理単位とするため、専門性の高さやマネージャーによる統率のしやすさがメリットです。しかし、各事業部はほかのプロジェクトから独立しているため、連携が難しいという側面もあります。
機能型組織の特徴
機能型組織は、企業の代表的機能(職能)である人事・営業・製造・購買・研究開発・経理・情報システムなど、部門ごとに分類された組織形態です。専門的なノウハウを有する従業員が各部門に配置されるため、部門内の情報共有や全社的な意思決定をスムーズに行えるメリットがあります。
しかし、部門ごとに独立している都合上、部門をまたいだ連携には手間がかかります。そのためプロジェクトの実施に際しては、部門ごとに承諾や情報共有に時間を要したり、責任の所在が不明瞭になったりするなどの課題を抱えがちです。
マトリクス組織体制の具体的な導入の方法
では、マトリクス組織はどのように導入すればよいのでしょうか。ここでは具体的な導入方法と、導入時の注意点について解説します。
構造パターンの決定
先述したように、マトリクス組織には3つの構造パターンがあり、企業により適性が異なります。したがって、まずは自社の事業特性に最適な構造パターンを検討する必要があります。規模が大きい事業であればストロング型、従業員の個性を活かしたいならウィーク型、業務状況を迅速に把握したいならバランス型を選ぶのがよいでしょう。
情報共有の仕組みの構築
指揮系統の複雑さゆえ、マトリクス組織では管理者間の認識にズレがあると指示に矛盾を生みかねず、混乱やトラブルを招くおそれがあります。こうした事態を避けるためには、管理者間で密な情報交換を行うことが重要です。組織内で円滑な情報共有が行える仕組みを構築し、個々の事業部やプロジェクトで行っていることを可視化・共有できれば、認識のズレが生じにくくなりリスクを低減できるでしょう。
定期的なヒアリングによるケア
マトリクス組織の運用において懸念されるのが、指揮系統の複雑化による業務負担の増加です。管理者は常に、特定の人物に業務が集中しすぎないよう配慮する必要があります。具体的な方法としては、定期的なヒアリングを行い、各従業員の負荷状況やニーズに合わせたケアを図るとよいでしょう。その際、現場の経験や感覚なども併せて吸い上げることで、組織運用の調整・改善に役立てられます。
まとめ
機能型組織とプロジェクト型組織の特徴を兼ね備えるマトリクス組織は、企業の組織変革を促し、生産性の向上をもたらす可能性を有しています。しかし、従業員が複数の指示を受けて活動しなければならないため、混乱が生じる可能性もあります。
指揮系統が複雑な中でも、従業員の負担を抑えつつ仕事を遂行させるためには、適切なマネジメント体制の構築が欠かせません。そして、そのマネジメント体制を運用しながら、企業独自のマトリクス組織に仕上げていくことが大切です。このマネジメント体制の構築・運用に役立つのが、ワークマネジメントツール「Asana」です。
Asanaを活用することで、マトリクス組織における組織管理をフォローでき、従業員のスムーズな業務進行を可能にします。Asanaは企業のマトリクス組織体制を支援し、生産性の向上にも寄与するため、ぜひ導入をご検討ください。
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