「業務改善」と「業務改革(BPR)」。これらの言葉に明確な線引きが無いことから、意味を混同している方が多いかもしれません。働き方改革へのニーズは年々増していますし、現実的に働き方改革関連法案への適用を考慮して、業務の改善/改革に対して積極的に取り組むべき時期でもあります。業務改善と業務改革の違いをハッキリさせて、効率的な取り組みを実施していく必要性があるでしょう。
本記事では、業務改善と業務改革、混同されがちな2つの言葉の違いを分かりやすく説明していきます。違いが分かれば取り組みも変わり、それぞれの効果をより高めていけることでしょう。
業務改善と業務改革の違い
まずは、業務改革がどういう経緯で誕生したか?業務改善とは何か?といった基本情報ではなく、単純に業務改善と業務改革とでどのような違いがあるかを列挙していきます。
- 業務改善に「積極的に反対する者」はいないが、業務改革には必ずといってよいほど反対者がいる
- 業務改善は既存の業務プロセスの中で行う創意工夫の繰り返しであり、業務改革は業務プロセスの一部または全部を破壊して、新しく建設すること
- 業務改善は持続的にPDCAサイクルを回していくものであり、業務改革は一過性のプロジェクトである
- 業務改善は持続的な活動なのでそれをやめれば効果は低下するが、業務改革は仕組みそのものを変革するため一度成功すれば永続的に効果が続く
- 業務改善は一定の手順を踏むことで誰もが成果を上げることができ、業務改革はプロジェクトに向いたリーダーと少数のチームによって完遂されうるものである
これが業務改善と業務改革の一般的な違いです。言葉として明確な線引きは存在しないものの、こうして違いを挙げるとそれぞれの特徴はかなり違いことが分かります。中でも特に違う点は、「反対者の有無」です。
業務改善は既存のプロセスの中で、物事をより良くするための創意工夫なので、それに反対する者というのはほとんど存在しません。積極的に創意工夫を取り入れることで自分自身の業務を効率化できるのですから。
しかし業務改革は、既存のプロセスを一部または全部を破壊して、それから新しいプロセスを建設する「抜本的改革」を伴います。そうなると、自分の業務への影響度が計り知れないことから、自然と反対意見が多くなっていきます。これはかなり大きな違いなので、業務改善と業務改革の違いを知っているか否かで成功率が左右されることは間違いないでしょう。
もしかすると、これまで失敗した業務改善と業務改革の取り組みの中には、違いを明確にできていなかったことに起因しているものも多いかもしれません。
業務改革とは何か?
ここから焦点を業務改革へと強めながら話を進めていきます。業務改革というプロジェクトは1990年代初頭、長期不況に苦しむ米国産業で生まれたものです。元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピーによる共著『リエンジニアリング革命』で世に浸透していきます。
組織が持つ業務プロセスという巨大な仕組みは、業界特有の業務に加えて今までの経営で蓄積されてきたビジネススタイル/文化/風習から構成されています。いわゆる「企業の歴史」そのものであり、その歴史に対して疑問を持つような企業はあまり多くありません。なぜなら、業務プロセスを抜本的に見つめ直すということは、企業が重ねてきた歴史を否定するのと同義なのです。
しかし、ビジネス課題の高度化/複雑化に伴い、経営活動は次第に細分化/専門家が進んでいきます。さらに業務プロセスも複雑化していき、「効率的な業務」どころかコストの増大や効率性の低下が指摘されるようになり、業務プロセスそのものの抜本的改革が求められるようになりました。
日本においても、『リエンジニアリング革命』の出版に共ない業務改革が徐々に浸透していきます。バブル景気崩壊後ということもあり、経営危機を脱出するための手法として業務改革が注目された経緯もあります。
業務改革が必要とされている背景
実は、1990年代に起こった日本の業務改革ブーム(BPRブーム)は失敗に終わっています。その原因が「間違ったシステム構築/運用」にあります。
当時は海外の先進的な業務改革事例の影響を受けて、改革に取り組む企業がほとんどでした。そのため、海外企業のノウハウをそのまま取り入れる他なく、システム構築/運用に関してもそれらの先進事例が参考にされています。
ところが日本と海外の商習慣には決定的な違いも多いため、海外の業務改革ノウハウをそのまま取り入れても失敗するのは明白です。それだけならまだしも、「海外先進事例と同じシステムを」と考えた企業も多かったため、間違ったシステム構築/運用によって多くの業務改革は失敗に陥っています。
当時は海外製システムを構築しようにも、日本の商習慣にあまりにマッチしていないことから、アドオン開発が大量に膨れ上がり、開発コストと運用負担をかなり圧迫していたのです。いざ運用を始めて、不具合の連発でとても実用レベルのシステムにはならず、業務改革に失敗した事例が後を絶ちませんでした。
業務改革はなぜ再びブームなのか?
現在、業務改革が再びブームになっている理由は大きく分けて3つあります。
1.働き方改革へのニーズが増している
政府が推進する働き方改革の波及は、日本中に広がっています。2019年4月から働き方改革関連法案が施行されたこともあり、働き方改革へのニーズは年々増しています。取り組みを成功させて労働生産性を向上したり、法案へ準拠したりするには業務改革を実施して、抜本的な改革を行う必要があるでしょう。
2.IT技術の発展により業務改革が実践しやすくなった
AIやIoTなど、昨今のIT技術の発展は目覚ましく、業務プロセスを効率化するための製品が続々と誕生しています。1990年代と比べると、日本企業の商習慣にマッチした製品も格段に増えたので、今までよりも業務改革に取り組みやすい環境が整えられています。
3.ビジネス環境の変化に耐えられる企業体質が求められている
昨今はビジネス環境の変化が激しく、市場でデジタルディスプラション(デジタル技術を伴う破壊)が度々起こっています。今では市場でのリーダーが入れ替わることも当たり前に起きており、日々変化するビジネス環境に耐えられる企業体質が求められています。そのためには、古いままの業務プロセスを捨て、新しいプロセスの建設を検討する必要があります。
業務改善と業務改革の違いを知った上で取り組もう
いかがでしょうか?2つの言葉には大きな違いがあるので、これを知っているか否かでは取り組み方も変わっていきます。大切なのは、業務改善と業務改革の違いを明確にした上で、関係者間でその情報を共有しながら取り組んでいくことです。どちらも現代企業に欠かせないものなので、それぞれの違いを知った上で適切な取り組みを目指しましょう。
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