経営や人事の現場において「目標管理」とはよく耳にするものの、それ以外の社員にとってはその意味を正確に理解できていない方は多いのではないでしょうか?単純に目標を管理するといってもその方法論は様々ですし「何をどう管理するのか?」によって効果の違いも生まれます。
本記事では知っているようで意外と知らない目標管理と、企業において目標管理制度を導入する意義についてご紹介します。
「目標を管理する」は、間違い?
企業において目標管理はよく「MBO」という言葉に置き換えられて使用されています。これは1954年に刊行された「現代の経営(著ピーター・ドラッガー)」にて提唱されたもので、「Management by Objective」の略です。
ここで気づいた方も多いでしょう。そうです、目標管理(MBO)とは「目標を管理する」ことではなく、「目標による管理」という意味合いの方が正しいのです。
わかりやすく説明すると、ビジネス上の目標を管理するにあたりタスクごとにKPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)を設定するとします。例えば営業担当が月間売上1,000万円を達成するために、アポイント件数や案件化件数など様々なKPIを設定します。これらのKPIに対し、「進捗としてどれくらいか?」を単純に管理するのが間違った目標管理です。一方、ピーター・ドラッガーが提唱した目標管理(MBO)は「目標となるKPIを設定することでビジネス上の行動やモチベーションを管理する」ということが正しい解釈になります。
また、最近ではMBOに加えてOKRという目標管理手法が注目を集めています。OKRはObjectives and Key Resultsの略でありIntel社が提供した目標管理手法です。MBOとOKRの違いはレビューサイクルや測定方法、ステークホルダーなどの点で大きく異なり、MBOはインセンティブなどの決定を目的としていますがOKRは業務の効率化を目的としています。
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目標管理の必要性とは?
目標管理という取り組み自体、半世紀上前に提唱されたマネジメント手法ということもあり現代において取り組んでいる企業は多く存在します。しかし、適切な目標管理によってその効果を実感できている企業は少ないことも事実です。
クラウド型の人事評価サービスを提供する株式会社HRbrainが行った独自調査によると、78.3%の会社員が面談や提出日前日になって「その場しのぎの目標を設定したことがある」と回答しています。また、64.1%の会社員が目標を意識できておらず、あるいは一定の時期しか目標を意識していないことが判明しています。
出典:【独自調査】目標管理の実態 -約8割の会社員が経験する「名ばかり目標」とは?
もちろん、この調査結果が全てではありませんが、実態として多くの企業が目標管理へ取り組んでいるにもかかわらず、間違った方法によってその意義が社員にまで浸透していないことの現れだと言えるでしょう。
では、目標管理へ取り組む必要性はそもそもあるのか?結論から言うと、「あらゆる組織に目標管理が欠かせない」ことは明白です。
目標管理のメリットとしてよく言われているのが「仕事に対するモチベーションの向上」「目標を完遂した際の達成感による自己肯定」「社員の能動的な自己育成の仕組みづくり」「人事考課における公平公正な評価基準の導入」「社員一人一人が活き活きとした働く環境の提供」などです。これこそがあらゆる組織が目標管理に取り組む意義となります。
ところがほとんどの企業では、これらのメリットを「あまり実感できていない」「ほとんど実感できていない」と言う現状があります。
目標管理制度の導入に失敗しないポイント
すでに目標管理を取りいれている企業では、現時点での効果測定をしっかりと行った上で「現状の目標管理は本当に効果的なのか?」を検討する必要があります。その上で「効果が実感できていない」とするならば、考え方・やり方が間違っていることを認識しなければなりません。
これから目標管理を取り入れたいと考えている企業ではまず、前述したように「目標管理とは何なのか?」を十分に理解することが大切です。単純に目標を管理するのではなく、目標設定によりビジネス上の行動や理念などを律するとともに、社員の能動的なアクションを促すことが最大の目的です。では、ここまでの内容も踏まえて目標管理制度を導入するにあたり、失敗しないためのポイントをご紹介します。
ポイント1. 「目標達成」が目的ではないことを経営や人事が理解する
「目標とは達成するためにあるもの」というのが通説です。しかしMBOにおける目標管理においては、目標達成が目的ではないということを認識する必要があります。そもそもは「能力開発」を目的とており、社員の自主的な目標設定とコミットを行うことで主体性やモチベーションの向上、能力解決能力の向上を中心とした取り組み求められます。だからこそ、目標達成が目的ではないことを経営陣が認識する必要があるのです。
ポイント2. モチベーションの維持・向上に「高い目標」は不要
日本企業の自業部門では、社員のモチベーション維持・向上において「高い目標」を設定させることが多々あります。「自身の能力を遥かに超える高い目標を追いかけることで、例え達成できなくても現在の能力を上回る結果が得られる」というもっともらしい原理ですが、実際は「高い目標」がモチベーションの弊害になります。次第に「無理そうなら下方修正すれば大丈夫」という妥協心が生まれ、その場しのぎに高い目標を設定するような文化が根付いてしまいます。
ポイント3. 管理者は「結果に至るまでのプロセス」を評価する
前述のように目標管理の目的は目標達成にありません。そのため、管理者は結果だけでなくそこに至るプロセスも評価しなければなりません。しかし。これがなかなか難しいのが事実です。100点のテストを前に子供を褒めることは簡単でも、勉強をしている姿に称賛の声を投げかけるのが難しいのと同じです。ワークマネジメント ツールなどを活用し結果へ至るまでのプロセスを記録することでプロセスを見える化することも可能です。
ポイント4. 「目標を達成するための方法論」を明確に示す
目標を達成して終わるのではなく、当事者と管理者を含めて「目標を達成するための方法論は何か?」を考え、明確に示すことがとても重要です。そしてKPIを追跡しながら、目標達成に向けた方法論が間違っていると判断すれば速やかに方法を変え、試行錯誤とを繰り返しながら最も効率性の高い業務を生み出していきます。
ポイント5. 「組織の目標」と「個人の目標」を関連づける
社員のモチベーションを維持・向上するにも効果的なのが、「自分が今遂行している仕事が組織の目標に貢献している」ということを可視化し、仕事に対する意義を感じてもらうことです。そこで、組織としての目標から部門ごとの目標、そして個人の目標へと落とし込んでいく関連付けにより社員のモチベーション維持・向上に貢献できます。
いかがでしょうか?目標管理制度の導入は決して容易ではありませんが、導入することで得られる効果は確かです。この機会に、既存の目標管理への取り組みを見直したり、新たに導入する目標管理制度について熟考したりして、適切な取り組みを目指してください。また、MBOだけでなくOKRについても取り組むことを考慮することが重要と言えるでしょう。
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