従来の成果主義的な評価制度とは一線を画すマネージメント手法「OKR」は、世界の有名企業をはじめ、日本国内の成長企業でも導入が進んでいます。今回はOKRとは何かといった解説をはじめ、導入で得られるメリット・デメリットやテンプレートを使った導入の方法を紹介します。
マネージメント手法のOKRとは
OKRとは「Objectives and Key Results」の略称で、「達成するべき目標(O)」と「主な成果(KR)」を設定し、目標の達成度を評価するマネージメント手法です。アメリカのインテル社が生み出し、GoogleやFacebookといったグローバル企業も取り入れたことで広く知られるようになりました。
特徴のひとつに、達成する目標を会社全体・部署・個人といったように、階層ごとに設定するということが挙げられます。
1つの目標に対し、評価対象となる「主な成果」は3~5個ほど設定します。
1カ月~3カ月ごとの短い期間でふり返りをし、その都度目標や成果を見直していくのも大きな特徴です。
この手法が注目され、取り入れられている背景には、日本企業のグローバル化があります。
近年の日本企業では、さまざまな国籍や文化背景を持つ人々が働くようになっています。そうした中、これまでの日本社会で一般的だった「評価者の主観を基にした人事評価」について、公平ではないとのではないか、という声が多く上がるようになりました。
組織全体で目標と成果が共有できる公平な評価制度を取り入れることで、多種多様な従業員が、それぞれの能力を発揮する企業づくりを目指していけます。
OKRはMBOやKPIとどう違うのか?
以前から知られている評価手法に、「MBO(Management By Objectives)」と「KPI(Key Performance Indicator)」があります。なんとなく聞いたことはあっても、違いがわからないという方も多いのではないでしょうか。
「目標管理制度」と和訳されるMBOは、1954年にピーター・ドラッカーが提唱した手法です。これは、従業員が自身でタスクを設定し、目標に対して100%の達成を目指すものです。一般的に、報酬を定めるための評価手法として利用されています。
KPIは「重要業績評価指標」とも呼ばれ、最終目標を達成するための進捗を管理する手法です。これは、目標達成までの重要な成果が達成できているかどうかを、適宜ふり返りを行いながら確認するものです。MBOと同様、100%の達成度を目指します。
目標の共有について、MBOでは「本人と上司との間」で行い・KPIでは「部署やチームなど」で行います。対してOKRでは、「目標達成のプロセスをチーム・組織全体で可視化した上で行う」という特徴があります。
また、OKRには、「目標に対して60~70%の達成を成功と判断する」という特徴があります。従来のような評価手法では、達成しやすい小さな目標が設定されることが多くなりますが、OKRでは組織全体で達成する高い目標を掲げる分、評価される達成度は低めに設定されます。
ふり返りは1~3カ月に一度と短いスパンで行うため、当初の目標とタスクを忘れることなく、現状に合った目標へと修正することが可能です。
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マネージメントにおけるOKRのメリットとデメリット
OKRを導入することによるメリットはどんなものがあるでしょうか。
まず挙げられるのが、OKRでは「数値化できる定量的な目標」と「数値化できない定性的な目標」を設定可能な点です。これにより、計測が容易な現実的な目標にとどまらず、すぐには達成が難しそうな高い目標(ストレッチゴール)も積極的に設定していけます。
また、目標は企業全体とチーム・個人で共有されるため、企業のビジョンを従業員全体に浸透させることができます。
目標とその達成プロセスはリアルタイムで可視化されています。これにより、「従業員またはチームが何をしているか」が常に明確になり、タスクの優先順位をつけやすくなるのです。加えて、組織間の活発なコミュニケーションも生じやすくなります。
OKRは人事評価のための手法ではなく、あくまで組織全体の生産性を上げ、働く従業員のモチベーションを上げていく手法です。人事評価とは切り離して導入することで、より大きな目標にも挑戦しやすくなることも重要なメリットでしょう。
一方で、デメリットがあります。従業員が少なく、一人ひとりが多くのタスクをこなしている企業では、OKRの効果が発揮しづらくなります。
短い期間でふり返りを行い、目標の見直しをするために要する時間を、各員が定期的に確保する必要があります。
確かに、目標を現状に合わせて見直していけることはOKRの利点ではあります。しかしそうして目標を柔軟に変化させていける企業風土が、そもそも存在しなかった場合は、狙った効果が得られないかもしれません。
テンプレートでOKRの基本項目を確認
以下のテンプレートに沿って基本項目を確認し、設定していきましょう。
- 基本情報(名前、所属など)
名前や所属、役職などを記入します。
- 企業の目標(O)と、企業の成果指標(KR)
企業の目標・成果指標は、各部署や従業員個人が設定する目標・成果指標に結びつく基盤となるものです。
目標は従業員にとってわかりやすいと共に、優先度の理由が明確で、かつ企業にとっても成長へ直結しやすいものを設定するとよいでしょう。
成果指標は目標の達成に結びつくものの中から3~5個にしぼって設定します。
- チームと個人の目標(O)と、チームと個人の成果指標(KR)
企業全体の目標を達成するために、チーム・個人として何を達成すべきか、整合性のある目標を定めます。
次に、企業の成果指標と同様に、チーム・個人の成果指標も3~5個にしぼって決定しましょう。一人ひとりが組織・チームの中における自身の役割を把握した上で、「具体的に何をして目標達成を目指すのか」を決めます。
- 現在の達成状況
目標(O)と成果指標(KR)を決めて満足しただけでは、OKRを効果的に運用することはできません。現在の達成状況を把握し、ふり返りを行う時間を定期的に決め、実施することが重要です。
現状把握とフィードバックを適宜行うことで、「一人ひとりが目標に向けて適切な取り組みを実行しているか」をチームメンバーや管理者との間で確認し、必要があれば目標の修正を行います。
サンプル記入例で学ぶOKR
ここでは、テンプレートの記入例をサンプルとして紹介します。実際にテンプレートを使用する際の参考にしてください。
・基本情報(名前、所属など)
〇〇次郎 営業部(△△エリア)
・企業の目標(O)
自社商品の業界シェア率をNo.1にする
・企業の成果指標(KR)
- 販売額を前年比120%に増やす
- 商品認知度を前年比110%に増やす
- プロモーションを増やす
・チームの目標(O)
新規顧客を増やし、リピーターを獲得する
・チームの成果指標(KR)
- 営業エリアを拡大する
- 新規顧客のためのプロモーションを毎月実施する
- 生産性向上のため、BPRを推進して残業時間を前年比70%に減らす
・個人の目標(O)
新規顧客を増やし、目標受注額を達成する
・個人の成果指標(KR)
- 未着手のエリアを整理し、顧客を前年比120%獲得する
- 商品のプロモーション案を提出する
- クラウドサービスを活用し、チーム内業務分担を推進して残業時間を減らす
・現在の達成状況
達成率:0.5
- 新しい営業エリアでの商談アポを取り、現在交渉中
- 顧客向けのプロモーション動画を作成済
- 前年比80%の残業時間にとどめている
まとめ
従来型の評価制度では、目標を100%達成することのみが重視されていました。そうした環境では、従業員たちも、必ず実現可能な小さな目標しか設定しなくなってしまうでしょう。
OKRではこれまでの定量的な目標を離れ、より挑戦的で高い目標を掲げることができるようになります。企業とチーム、個人が目標を通じて強く結びつき、活発なコミュニケーションを促進し、画期的なアイデアが生まれ、企業の大きな成長まで期待されます。
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「Asana」は目標とその達成に向けたタスクを設定できる法人向けの管理ツールです。「ほかのスタッフが何をしているか」「チームとしての取り組み状況はどうなっているか」といったことを一元管理できるため、全員に見える形で進捗状況を把握可能です。
管理ツールを通じて、目標と成果のずれを確認し、適切なフィードバックもスムーズに行えるようになります。より効率的なOKRの運用に、ぜひ活用してください。
- カテゴリ:
- OKR・目標管理